第3話 ケンレン1:身体強化魔法で、ワシが爆散した!
転生したら、身体強化魔法で無双してSランクになるのが、基本かと思います。
2020/07/23 21時 1~3話の順番を入れ替えました。ご注意ください。
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「か……ほ……な……」
んんん?
弱々しい思念で、何を言っているのかわかりません。
念話の画面には、なぜか草原の中にミンチ肉が落ちている映像しか映ってません。
とりあえず肉体ごと、この転生者専用面談室に召喚してみましょう。
ホアカバリキルマっと!
……なぜミンチ肉が召喚されたんでしょうか?
まさか……、コレ、転生者様ですか!?
急いで再生治療を! ホンジャマカホイっと!
「オイ、どうなっとるんや! 身体強化魔法を使こうたら、はじけ飛んだぞ、ワシが!!」
肉体が再生したとたん、転生者様がブチ切れました。
ぱっと見は大学生くらい、流行りの細マッチョなイケメン男性です。
ウザいエセ関西弁で台無しですが。
「ええっと、状況がよくわからないのですが、身体強化魔法で攻撃したら、鷲のモンスターが爆散したのでしょうか?」
「ちゃう! 儂が爆散したんや! なんでこないなことになったんや!?」
……この転生者さんはわけが分からないアホな状況になってますね。
とりあえず、Stupid(スチューピッド:アホ)ランクの転生者さん、略してSランクさんと呼ぶことにしましょう。
「少々お待ちください、確認いたします」
情報によれば、前世はFラン大学文学部2年の22歳。
この世界でのお名前はケンレン。
職業は魔法戦士……、大学生にもなって中二病患者とは。
祝福は身体強化魔法。
行動ログによれば、前世の肉体のまま辺境の草原に転移して、最初に遭遇したウサギを倒すために身体強化魔法を使ったら自分が爆散したと……、意味が分かりません。
えっと、ステータスは……、あ~なるほど、そういうことですか。
「Sラン……ゲフン。ケンレン様、原因がわかりました」
「お、仕事が早いやないか。で、やっぱり魔王の陰謀なんか!?」
魔王様もえらい風評被害です。
転生したばかりでまだ何もしていないのに、魔王様が陰謀を巡らす余裕なんてなかったでしょうに。
「どこから説明いたしましょうか……」
「最初から初めて終わりまで説明すればよかろう?」
エセ関西弁といい、妙にイラっとするしゃべり方ですね。
落ち着け、私は優秀な天使。この程度のことで、キレてはいけない。Koolになれ!
「転生者様は、創造神様からチート能力として、身体強化魔法をもらいましたよね?」
「ああそうだ。誰にも負けない無双がしとうてな。筋力が常人の千倍になるようにしてもらったんや!」
「原因はそこです!」
「そこってどこや?」
私がSランクさんを指さすと、ボケた彼がきょろきょろと辺りを見回しています。
パタリ○か!
「そもそも強化倍率の『千倍』というのが強すぎたんですよ。そして、魔力で強化されていたのが、筋力だけだったのが致命的でした。ケンレン様が、常人の千倍の力を発揮しようと全身に力を入れたとき、筋肉の収縮しようとする力に骨が耐えきれず、一瞬の間に全身が複雑骨折して、ハジケ飛んだんです」
ちなみに複雑骨折とは、単に骨が複数個所で折れることではなく、折れた骨が皮膚を破って体外に飛び出した状態のことで、解放骨折とも言います。単に複数個所で骨折した場合は、粉砕骨折と呼びます。
「……あ~、確かにワシ、創造神にチート能力を願うときに『常人の千倍の力を発揮できる身体強化魔法が欲しい』ってゆうたな」
Sランクさんが、地面に崩れ落ちます。
普通は願いを叶えるほうが、適当に調整するんですが、あのボケ老神では……。
まあ、ボケ老神の尻ぬぐいが、部下の天使である私の仕事です。何とかして見せましょう!
「落ち着いてください。転生者様の願いと、あのボケ老……創造神様が与えたチート能力にズレがある事態はよくあるので、その調整役として私のような天使がいるんですよ」
「ほなチート能力を替えてくれるん!?」
さっきまでの落ち込みようが何だったのかと思うほどの興奮です。
立ち直りが早いのもSランクさんの特徴ですかね。
「創造神が一度与えた能力を削除することはできません。しかし、欠点を補う能力を追加で与えることは許されています」
「ということは、骨を強化すればいいってことやな!」
「そうですね、少しずつ能力を調整していきましょう。まずは身体強化魔法を発動する時に、骨も一緒に強化されるようにしますね」
え~と、パラメーターをちょちょいと書き換えてっと……。
「おおう! なんや骨が丈夫になった気がする! よし、とりあえずこれでジャンプしてみよ!」
そういってSランクさんがジャンプしたとたん、パンという音とともに、血煙と骨だけが残りました。
「……調整の途中だったんですが。もう少し落ち着きましょうよ」
とりあえずチチンプイプイと、Sランクさんの体を再生させます。
「オイ、どうなっとるんや! 身体強化魔法をつかったら、はじけ飛んだぞ、ワシが!!」
状況が最初に戻りました。キリがありません。
「ですから、話は最後まで聞きましょうよ。千倍の筋力を使って、全力でジャンプしたら、瞬間的に音速を超えます」
「音速のソニック! かっけーな、ワシ! ……で、それの何が問題なんや?」
Sランクさんの相手をするのは、頭痛が痛いですね。
「生身の人間が音速を超えたら、衝撃波で体が吹っ飛んで血煙しか残りませんよ」
「なるほど! じゃあ、皮膚なんかも含めた全身を強化すればええんやな!」
「そうですね。というわけで、皮膚や腱などを含めた体全体の耐久性を上げてっと……」
「おおう! なんや全身が丈夫になった気がするわ! よし、とりあえずこれでジャンプしたろ!」
そう言ったとたん、Sランクさんの姿が消え、目の前を何かがものすごい速度で飛び回りました。この空間は、一辺10メートルの立方体なのですが、Sランクさんがその壁や天井にぶつかっては跳ね返り、ゴムボールのように部屋の中を飛び回っているようです。
どうみても自分の身体をコントロールできていません。
とりあえず止めるために、Sランクさんの強化魔法をカットしましょう。
……おおっと、強化が切れたとたん天井にぶつかって、天井のシミになっちゃいました。
こっそり体を再生させておきましょう。
「あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ! ワシはジャンプしたと思ったら、いつのまにか地面が天井になっていた。な……何を言っているのか、分からねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
「いや、単なる超スピードに、ケンレン様の頭が追い付かなかっただけですよ」
Sランクさんは、学習しませんね。そこがStupidランクたる所以なんですが……。
「じゃあ、思考速度も1000倍にすれば良いんやな!」
おお!? Sランクさんが学習した!? 驚きながらも、ちゃちゃっとパラメーターをいじります。
「はい、思考速度も千倍にしました。これでとりあえず身体強化魔法の調整は完了です」
「……本当だな? もう動いてもいいんやな? 今度はミンチにならんよな?」
さすがに三回もミンチになれば、Sランクさんでも学習するようです。
「いきなり動くと危ないですよ。初心者講習のために、私も同期して一緒に加速しましょう」
「あんじょう頼むで」
身体強化魔法を発動したとたん、周囲の時間が止まったかのように感じます。実際には私たちの時間の流れが速くなっただけなんですけどね。
『この速度だと、口で話していたら遅すぎるので、念話しますね。口を動かさずに、頭の中だけで考えてください』
『こんなかんじか?』
『はいそうです』
『しかし、口で話すと遅いってどういうことや?』
『音は空気中を1m進むのに、0.003秒かかります。1000倍の思考速度では、1mに約3秒かかることになります。3mも離れたら、タイムラグが10秒近くになって、会話がしづらくてしょうがないですから』
『なるほどな~』
『では、とりあえず手を動かしてみましょうか。ただし、ゆっくりとですよ?』
Sランクといえども流石に学習したのか、いきなり大きく動かさず、手をゆっくり少しずつ動かしています。
『む? なんや水の中にいるみたいに動きにくくないか?』
『それは空気抵抗ですね。千倍の時間の速さだと、実際の抵抗の千倍に感じますから。水の抵抗が空気の約八百倍ぐらいですから、水の中にいるように感じるのかと』
『あと、なんかフワフワしているようなんやが』
『落ちる速度も体感で千分の一になってますから、疑似的に落下速度が千分の一になったようなものです。つまり、ほぼ無重力のように感じるはずです。まあ、軽くジャンプしてみればわかると思いますよ』
『よし、分かった!』
『あくまでも軽~~~くですよ? 足の指で床を押すぐらいで十分です』
念を押しておかないと危ないばかりです。
Sランクさんが床をそっと押すと、ふわりと体が浮きます。
『お~、宇宙遊泳しているみたいや』
『気を付けないと天井に頭をぶつけますよ』
ジワジワと浮き上がっていきます。
ジワジワ~と地面から離れます。
ジワ~ジワ~と空中を進みます。
ジ~ワ~ジ~ワ~と天井に近づきます。
……体感で10分が過ぎた頃でしょうか、飽きた顔でSランクさんが念話してきました。
『…………ところで、なかなか落ちないんやが?』
『この世界の平均重力加速度は地球と同じ9.8m/s2ですから。仮にこの部屋の10m上の天井付近までジャンプしたとすると、かかる時間は約1.4秒。すなわち体感で1400秒、約23分かかることになります。落下するのにも同じ時間かかりますので、往復だとその倍ですね』
『そんなに待ってられるか! そうや、待ちきれんから、身体強化を切ったろ!』
『あっ、止めッ!』
私が止める間もなく身体強化魔法を切ったSランクさんは、一瞬で10m上の天井に頭をぶつけ、1.4秒で自由落下して、地面にたたきつけられました。
「グワーッ!」
当然、身体強化は切れてますので、並みの耐久性に戻った足はバキバキに折れます。
こんなことにも気が付かないとは、さすがアホのSランクさんです。
「空中にいるときに強化を解除するのは危険ですよ?」
「はっ、早よ言えや!」
言う前に行動したのはSランクさんなんですが……。
釈然としない気持ちを抑えながら、さりげなく回復魔法をかけておきます。
「泳げばよかったんですよ。空気抵抗が水並みに上がってますからね。手足で漕げば空中遊泳できますよ」
「なるほど!」
Sランクさんは再び身体強化魔法をかけると、空中遊泳を始めました。
空中で平泳ぎをするとか、シュールな絵面です。
『シュールですね』
『おい、念話に本音が漏れてんぞ!』
『おっと、失礼しました』
気を付けないといけません。本音と建前を分けることは、円滑な人間関係を構築するためには重要なことですからね。
「……なあ、なんかワシの考えてた身体強化魔法と違うんやが」
「どんなイメージをしていたんですか?」
「いやこう、なんというか、ビュ~ンと目にも止まらないスピードで音より早く敵に駆け寄ってやな、すんごい~パワーで敵をドガ~ンとぶっ飛ばすみたいな……」
「無理です」
「ムリなんかい!」
魔法といっても、この世界の魔法は物理法則の一部を改変するだけなので、今ある物理法則をすべて無視できるわけではないのです。特に今回の身体強化魔法は、Sランクさんの体を強化するだけで、物理法則は改変してませんからね。
「素早く走るのは無理ですよ? というかそもそも普通に走るのも難しいです」
「なんでやねん!」
「えっとですね、前方に走るためには地面を後方に蹴らなければいけないのはわかりますか?」
説明のために通常状態で走ってもらいます。
「……なるほど、確かに地面を蹴っとるな」
「重心が地面から離れた位置にあるので、前進するには斜め下方向に蹴らざるを得ません。そのため、前進するに伴って上下の重心移動が生じます」
「今まで気にしたこともなかったけど、確かに走ると体が上下に動くんやな。やけど、それの何が問題なん?」
「より速い速度で走ろうと、より強い力で地面を蹴ると、どうしても体が浮き上がってしまうんですよ。宇宙飛行士が月面で歩く動画を見たことがありますか? 重力が6分の1であれです。疑似的に1000分の1の重力になれば、あれよりもさらにフワフワした状態になります。少なくとも、目にも止まらないスピードで動くのは無理ですね」
「力を加減して走れば良いんやないんか?」
「そうですね……、例えば上下の動きが10センチ以内に収まるように走ったとしましょう。10センチ体を沈めるにも、0.14秒、つまり体感で約2分かかります。その間、精密に力を制御し続ければ、通常の速度で走れるかもしれませんね」
「一歩進むのに4分かかるんか。やっとれんな……、そうや!」
「何か思いつきましたか?」
「さっき部屋の中でピンボール状態になったときは、すごいスピードで移動できたやないか! つまり、壁や天井を蹴って移動すればいいんや!」
「その方法はお勧めしません」
「なんでや?」
「この部屋の壁は非破壊属性が付与されてますので壊れませんが、通常の物質では、あなたの蹴る力に耐えられないでしょう」
「建物を壊すのは不味いか」
「それ以上に問題があります。例えば、全力でジャンプして、天井を突き破ってしまった場合、数百メートル上空に放り出されます」
なにしろ1000倍のジャンプ力ですからね。
「身体強化してれば落ちても死なないやろ?」
「まあ、そうですが、仮に500m上空まで飛んでしまったら、頂点まで10秒、落ちてくるのにさらに10秒、体感で約6時間かかりますよ」
「寝落ちしてしまうわ!」
「そもそも、天井や壁のない屋外では使えないってことになりますしね」
「何とかならんのか?」
「一応、体の重心をできるだけ低くすれば、上に蹴る力が減りますから、多少はマシになりますよ」
「こうか?」
Sランクさんが、姿勢を低くして走る体制をとりますが、その程度では焼け石に水です。
「いえ、もっと重心を地面スレスレまで落として。体が地面と水平になるぐらいの姿勢です」
「……つまり、匍匐前進しろと?」
「そうですね。地面に腹這いになり、指とつま先で地面を引っ掻くように進めば、浮き上がりを最大限に防げると思います。せっかくですから、爪のついたグローブとブーツを差し上げましょう」
Sランクさんの力でも壊れないようにグリーンドラゴンの革製です。
さっそく試してもらいましょう。
……目にも止まらない速度で匍匐前進するSランクさん、珍妙な姿ですね。
『珍妙ですね』
『せやな……』
おっと、また本音が漏れてしまいましたが、Sランクさんには反論する元気もないようです。
「ちゃうねん、ワシのイメージはこうじゃないねん。これならいっそ、空中遊泳したほうがましや」
「でしたら、泳ぎやすいように、グローブとブーツに水掻きをつけましょう」
グローブの指の間に膜を張り、ブーツに足ヒレをつけました。
『むぅ? 倒立した状態で地面に向かってバタ足をすると、体が地面に押し付けられて、より強く地面を手の爪で引っ掻くことができるな!』
お~、さっきより移動速度が上がりましたね。
珍妙度も上がりましたが。
『奇怪な』
『おぃ! また思考が漏れてるぞ!』
『おっと、またやってしまいましたか』
『だが、おかげで閃いた。地面に体を押し付ければええんやから、重りをつければええんや!』
『え~と、質量が増えても、落下速度は変わりませんよ? まあ、とりあえず体験してみれば理解できますかね』
重りといえば、亀の甲羅です。とりあえず30㎏の甲羅を背負ってもらいましょう。
「ぐぅ重い……が、身体強化すれば!」
「まあ試してみてください」
『軽く……ならん!? なんか、重くはないんやが、えらい動きにくいな』
『慣性質量が増えたんですから、慣性力が大きくなって、動かし難く、止まり難くなります』
『確かに……、止まらんな……』
止まろうとしても、甲羅に引っ張られるようにずるずる動いています。
『軽くジャンプもしてみてください』
『……落下速度が変わらんな。フワフワ浮くのはさっきと一緒や』
『質量が増えても重力加速度は変わりませんから。確かに、質量に比例して重力に引かれる力も大きくなります。しかし、質量に比例して動かし難さも増えるのはさっき体感した通りです。ですから、結果的に落下速度も同じになります』
まあ厳密には、同じ形状で質量が増えると、空気抵抗が相対的に小さくなるので、多少は早くなりますが。
「なるほどわからん!」
「……そうですね、例えば1kgのダンベルを3つ落としたとしましょう。3つとも同じ速度で落ちるのはわかりますよね?」
「そらそうやな」
「では次に、そのうちの2つのダンベルを紐で結んで疑似的に2kgのダンベルにしたとします。それは、1kgのダンベルの倍の速度で落下するようになると思いますか?」
「ひもで結んだだけで落下速度が2倍になるわけないな」
「つまり、亀の甲羅を背負って質量を増やしても、落下速度は変わらないんですよ」
「……じゃあ、質量じゃなくて重力を増やせば!」
「その方法はお勧めしませんね。まあ、試しにその甲羅にかかる重力加速度が増大するようにしましょう」
身体に付与するスキルをいじってしまうと変更不可能ですが、アイテムならあとで交換可能です。とりあえず重力加速度を1000倍にしておきましょう。
『おおお!? フワフワしないやん! 走れる! これだよ、コレ、ワシが求めてたのはこれなんや!!』
体の重心が甲羅に偏っているので走りにくそうですが、なんとか走れてますね。
あ、音速の壁を越えて衝撃波が発生しました。
『お楽しみのところですが、そのやり方には欠点があります』
『なんでや? うまく走れてるやん』
『この部屋の床にも、非破壊属性が付与されているんですよ』
『……つまり、通常の地面やと?』
『ケンレン様の足の面積に、1000倍の重さがかかったら、土の地面なんか水のように沈みますね』
『ダメやん!』
「まあ、アイディア自体は悪くなかったので、甲羅に重力加速度を1~1000倍に調整できるダイヤルをつけておきましょう。これで地面の状態に応じて加減できますよ」
「多少マシになったが、基本は、空中水泳と匍匐前進しかないんか……」
「最初に1000倍なんて無茶なお願いをしたのが、そもそもの間違いだったんです。3倍、せめて10倍とかでしたら良かったのですが」
「なぁカノン、倍率を落とすことは……」
「できません。創造神様が一度付与した能力は変更不可です。可能なのは追加のみです」
上司のボケ老神が決めたルールですので、私にはいかんともしがたいのです。
「そこを何とか!」
「まあまあ、慎重に匍匐前進して移動すれば、凄まじく強いことには変わりないんですから良いじゃないですか」
「そうは言うても、カッコよさも欲しいんよ~」
ふと泣き言を言って項垂れているSランクさんを見ていたら、なにか既視感を感じます。
水掻きとツメのついた手袋、足ひれ、甲羅……。
「ふむ、それではサービスに、もう少しアイテムをお渡ししましょう」
「ん?」
「高速移動中は風圧で呼吸しにくいでしょうから、酸素供給能力付きのフェイスマスクを差し上げます。音速で移動する際に少しでも空力特性をよくするために、口の部分をとがらせておきますね。それから、天井によく頭をぶつけるでしょうから、頭のてっぺんを守る部分ヘルメットも付けて差し上げましょう」
「ありがとな。まあ、これで何とか頑張ってみよか」
「はい、頑張ってくださいね。それでは元の場所に転送しますね」
「ありがとな、カノン」
Sランクさんは多少元気になって帰っていきました。
初仕事として、いい仕事をしましたね。
さて、その後下界では、背中に甲羅があり、水掻きのある手足、顔にはクチバシ、頭に皿のようなものを乗せた人型モンスターがしばしばみられるようになったそうです。
突然凄まじいソニックブームと共に現れ、目にも止まらない速度で地面を這い回り、時に空中を泳ぎ回るとかなんとか。
話しかけようと目が合うと恥ずかしそうにどこかに去っていくそうで、目撃者も少なく、実在を疑う人も多いようです。
「……オイこれ、カッパやん!」
流石Stupidランクさん、気が付くのが遅いですね。
天使的ランク分け
Stupid(スチューピッド:アホ)
Air brain(エアーブレイン:頭からっぽ)
Beefcake(ビーフケイク:脳筋)
Crazy(クレイジー:くるってる)
Danger(デンジャー:危険人物)
Evil(イービル:邪悪)
Foolish (フーリッシュ:ばか)