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第2話 ゴノー2:ジャガイモで絞首刑になりそう

飢えた領民が居れば、毒イモあつかいされているジャガイモを栽培する。内政チートの基本ですね。


2020/07/23 21時 1~3話の順番を入れ替えました。ご注意ください。

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「オイ、どうなってやがる! ジャガイモを食べた領民が倒れたぞ! 芽も皮も取ったのに、中毒でバタバタ倒れてる! なぜだ!?」

 この激昂したクレーマーぶりは、クレーマー転生者のクレ転さんこと、ゴノーさんですね。

 画面には、ガリガリに痩せた貴族風の男の子が映っています。

 前回から少しは成長したようです。体だけで中身は変わってませんが。

「ゴノー様、落ち着いてください」

 クレーマーを落ち着かせるポイントは、まずは相手の怒りに巻き込まれず、事務的に冷静に対処することです。

「おっオウ」

 なぜでしょう? ちょっとオークがチビる程度の軽い殺気を込めただけなのに、急に大人しくなりました。

「まずは状況を説明していただけますか?」

「え~と、知っての通り、僕が転生したのはシュヴァイン男爵家の五男だ。領地は寒冷地で麦があまり育たず、食料が少なくて貧しい地域でな。その上、去年の秋には、森に棲むモンスターどもが大繁殖して、畑を荒らしやがった」

「それはまた、なかなか悲惨な状況ですね」

「その年の冬はなんとか乗り越せたが、そのままでは餓死する領民が出ることは間違いなかった。そこで、鑑定スキルを活用して、食用になる新しい作物を探したんだ」

 北方辺境の貧乏男爵家の五男に生まれて、農業改革する。よくあるテンプレですね。

「そんな時に行商人が、別大陸の珍しい観葉植物としてジャガイモを持ってきた。地面の下に育つジャガイモなら、モンスターに食い荒らされにくいと思って、領民にジャガイモを栽培させたんだ」

「ジャガイモですか……」

 嫌な予感がします。

「鑑定結果は、『毒草』と出た、しかし、鑑定結果は単に過去の賢者の知識であって、間違っていることも多いということは、前回学習した。そして僕は、現代知識で、ジャガイモの皮を剥いて、芽を取り除けば大丈夫だと知っていた!」

 一応、鑑定スキルの機能と限界は理解できたようですね。

「それで、領民に栽培させたんですか? 領主一族とはいえ、五男なんかの言うことをよく聞きましたね」

「これまで鑑定能力を使って、信頼を得ていたからな。鑑定結果が正しいとは限らないが、少なくとも現時点における人類の知識はなんでも答えられる。お蔭ですっかり神童扱いだよ。だから、僕がジャガイモは食べられると言ったら、全員信じてくれて、大規模に栽培することになった」

「なるほど。しかし、実際に食べさせたら、食べた領民が中毒で倒れたと?」

「そうだ! なぜだ!? まさか魔王の陰謀か!?」

 不都合があると、すぐ魔王様のせいにするのは、やめて欲しいものです。

「何とかしてくれ! 明日までに解決しないと、僕は領民たちに吊るされてしまう! いや、吊るされなくても、『絶対大丈夫だから』と言って、麦の代わりに大量に栽培させたから、ジャガイモが食べられないと飢え死にしてしまう!」

「ちょっとお待ちください、いま現場を確認しますので」


 千里眼でクレ転さんの周囲を確認すると……、なかなか愉快な状況になっています。

 クワやカマなどの農機具をもった領民が、館の周りを取り囲んでいます。

 おや、父親の男爵も、クレ転さんを勘当して領民の生贄に差し出そうとしてますね。

 そして、領民の前に山積みになってるのが、問題のジャガイモですか……。

 ちょっと小ぶりですが、形は確かにジャガイモですね。

 品種は……、あ~なるほど、そういうことですか。


「クレ転……ゲフン、ゴノー様、原因がわかりました」

「おおそうか! さすがカノンは仕事が早いな。で、やっぱり魔王軍が僕を恐れて、毒でも仕込んだのか?」

「違います。育てたジャガイモが毒草だっただけです」

「カノンは何を言っているんだ? ジャガイモが毒なわけないだろ?」

「え~と、どこから説明しましょうか……。とりあえずこの世界が、ゴノー様が前世にお住まいになっていた地球と、ほぼ同じ環境だってことはご存じですよね?」

「ああ。創造神が説明してたが、魔法とモンスターがいること以外は、ほとんど同じと言っていたな」

「はいそうです。ですから、地球にあったジャガイモも、この世界に存在しているわけです」 

 厳密には、創造神が世界を創造するときに手抜きをして、テンプレートをそのまま使って、魔法とモンスターなどの要素を追加しただけの世界です。だから、地球神がテンプレートをそのまま使って創造した地球と、非常に似通ってるわけです。

「だったらなんで、ジャガイモごときで中毒になるんだ?」

「基本的にイモ類は有毒植物なんですよ。想像してみてください。毒のないイモがあったとします。ちょっと掘っただけで栄養たっぷりのイモを食べられるとしたら、動物たちがそれを見逃すと思いますか?」

「……確かに。あっという間に食いつくされて絶滅してるだろうな」

「ジャガイモが絶滅せずに繁殖したってことは、毒があって食べられなかったからなんですよ。ですから当然、あなたの育てたジャガイモにも、毒があったってことです」

「じゃあなんで地球のジャガイモは食べられたんだ?」

「品種改良ですね。地球の原産地のアンデスで食べられているジャガイモには数十種類の品種がありますが、そのほとんどが有毒です。その中から、比較的毒が少ない品種を選んで、さらに長い年月をかけて品種改良することで、極めて毒が少なく、食べやすく育てやすいジャガイモが生まれたんです」

「つまり、僕が育てていたのは……」

「原種に近い、毒が多い品種だったということです」


「……どうりで森の草食動物に食われなかったわけだ。ちなみに、品種改良にはどのぐらいの時間がかかるんだ?」

「ジャガイモを種芋から育てると、親と全く同じクローンしか生まれません。ですから品種改良するためには、花を交配して種を作る必要があります。そして、種から育てて種芋を得るまでには大体三年ぐらいかかりますね。更に、一度で都合のいい品種が得られるわけではないですから、それを何度も繰り返す必要があります」

「最低三年、それを何度も。明日までに解決しないと僕は吊るされる……。ははは、僕の二度目の人生もここで終わりか」

 おや、ついさっきまでイキリきってたクレ転さんが、達観して人生を諦めきった顔をしてますね。

「あ~クソッ、そもそも貧乏男爵の五男とかいう時点で人生詰んでたんだよな。モンスターは大繁殖するわ、飢饉になるわ、ピンチの連続だったけど、ジャガイモを見つけて助かったと思ったら……、こんなオチかよ! 上げて落とすとか、ひでーよ。あのボケ老神が!」

 あのクソ上司がボケ老神だというのには同意しますが、人生諦めるにはちょっと早いと思うんですよね。


「ゴノー様、落ち込む必要はありません」

「ああん? この状況で一体どうしろってんだ? 食料はなし、あるのは毒イモだけ。館の周りは怒り狂った領民が取り囲んでて逃げることもできない。あとは親父がかばってくれることを願うだけだ」

 父親の男爵様は、とっくにクレ転さんを切り捨てたようですが……、それは言う必要もないでしょう。

「まあまあ、落ち着いてください。要は、毒イモを食べられるようにすればいいんです」

「……そうか! さっき『アンデスで食べられているジャガイモのほとんどは有毒』だと言っていたな? つまり、解毒法があるってことか!」

 ちょっとは頭が回ってきましたね。

「そうですね。アンデスでは冬の昼夜の寒暖差を利用して毒抜き処理をしています。数日間イモを屋外に放置して、凍結と解凍を繰り返すことで細胞膜を破壊、踏みつけて水分を押し出すと、一緒に毒が洗い流されます。それを乾燥させれば、チューニョという保存食の完成です」

「ふむふむ、なるほど、じゃあ早速ジャガイモを外に並べて……」

 クレ転さんがそう言って外を見ると、塀の外に目を血走らせてクワを振り上げる農民たちの姿が……。

「ダメじゃん! そんなに時間をかけられない! 今すぐ何とかしないと!」

「ええそうですね。チューニョは手間がかからない代わりに、時間がかかります。ですから、今は時間の代わりに手間をかけます」

「……そうか! 水分と一緒に毒を洗い流すってことは、水に晒せば、毒が抜けるってことか!」

「ご名答。ジャガイモの毒の成分ソラニンは、水溶性ですから。とはいっても、刻んで水に晒した程度では抜けきらないかもしれませんので、今回はいっそ逆に、栄養になるデンプンだけ取り出しちゃいましょう」

「そういえば、理科の実験でジャガイモからデンプン取り出したな」

 相変わらず、日本という国の義務教育の水準には驚かされます。

「簡単に言えば、細胞を壊して中のデンプンを取り出し、水に余分なものを溶け込ませて、水に溶けないデンプンだけを沈殿させて取り出します」

「とりあえず、ジャガイモをすりおろせばいいのか?」

 クレ転さんは台所に移動して、慣れない手つきでジャガイモをすりおろし始めました。

「……皮は剥いたほうがいいですよ。全体に毒があるとはいえ、皮の含有量は多いですし、デンプンのほとんどは実の方にありますからね」

「おっ、そうか。ナイフはどこかな」

 危なっかしい手つきで、剥いた皮のほうに実が多い気がしますが、毒も余分に取れてかえって良いかもしれませんね。

「すりおろし終わったら、目の細かい布で包んで、水の中でもみほぐしてください」

「りょーかい。とりあえずハンカチでいいかな。もみもみもみっと」

 なんかイヤラシイ手つきです。

「では、濾した液体をしばらく放置して沈殿させましょう」

「茶色い泥水みたいだが、これで大丈夫なのか…………、あとなんか外が騒がしい気がするんだが、気のせいだよな?」

 外で領民が大声でクレ転さんを罵ってますね。

「沈殿したら上澄みを捨てて、沈殿したものにきれいな水を入れてかき回して、同じように沈殿させます。全部で三回繰り返せばかなりきれいになりますよ」

「なんで三回もやるんだ?」

「単純な掛け算ですよ。一回では毒が30%残ってしまったとしても、三回繰り返せば、0.3×0.3×0.3=0.027、つまり3%以下まで減らせるわけです。抽出するときは、一度で完璧にやるより、抽出率が多少悪くても三回以上やったほうが、効率がいいんです」

「なるほど。ところで、なんか外で何かがバキバキいってるんだが、気のせいだよな?」

 暴徒となった領民が、館の外壁を壊し始めました。領主の館に手を出すなんて、反乱罪で処刑ものですが、それより怒りのほうが大きいってことでしょうか。食い物の恨みは恐ろしいものですね。

「できた! 茶色の泥水から、きれいな白い粉になったぞ!」

 白い粉をクレ転さんが血走った目で見つめていると、ヤバイお薬に見えてきます。

「はい、それがジャガイモのデンプンです。地球では片栗粉とも呼ばれてますね」

「へー、片栗粉ってカタクリからとれるんじゃなかったのか……って、片栗粉だけじゃ食えんぞ!?」

「そうですね~。生のデンプンは消化することはできませんから、加水加熱して糊化してやらないといけません。片栗粉にはグルテンが含まれていませんから、パンのようなものを作るのはちょっと難しいです。とりあえず水で溶かして、適当な野菜を入れて混ぜて焼けば、チヂミ風の料理にはなりますよ」

「よくわからんが、水で溶いて野菜を入れて焼けばいいんだな?」

 おおっと、館の門が破られて、領民が雪崩れ込んできましたね。

 料理の方は……、何とか間に合いましたか。

「無事完成いたしましたね。それでは、私はこれで失礼いたします」

「え? あ、オイ! ここで放置かよ! え~い、男は度胸だ! 領民の胃袋をこれでつかんでやるぞ!」

 あとはクレ転さんのがんばり次第ってところでしょうか。

 こっそり一枚失敬して、食べてみましょう。ふむふむ、水で溶いて焼いただけですが、片栗粉100%だと、意外とモチモチしておいしいですね。


 おやクレ転さん、さすがクレームで鍛えた舌先三寸です。領民をうまく丸め込みましたよ。

 やっぱり、胃袋を掴むのは内政チートの基本です。

 さっきのチジミ風料理は、男爵様の作った風変わりな平パンということで、男爵パンと命名されたようです。

「そこは、男爵イモじゃないのかよ!」

 クレ転さんの意味不明なクレームは、聞き流すことにしましょう。

 なんだか見ていたら私もお腹が空いてきました。片栗粉に砂糖を加えて熱湯で溶かした葛湯でも作りましょうか。卵とベイキングパウダーでパンケーキ風に焼くのも美味しそうですね。


 ※この小説には一部に真実が含まれている場合があります。(訳:ほとんど適当に書いてるよ!)

料理などを自分で作る場合は、自己責任でお願いします。

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