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第21話 コンゼン:王様に謁見するのですが、マナーが分かりません

国王様にいきなり無礼なタメ口をきいて、逆に『面白いやつだ』と認められる。なろうテンプレですよね?

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「カノン様、王様に謁見をすることになったのですが、マナーを教えていただけませんか?」

 この冷静な語り口は、商人になろうとしたら聖人にされ、ドラゴンをついうっかりブッタ斬って勇者になってしまった、聖人勇者様のコンゼンさんですね。

「こんにちはコンゼン様。ご相談はマナーについてですか?」

「はい。ご存じの通り、魔王討伐の勇者に指名されたので、この度、国王様に謁見して勇者拝命の儀式を行うことになりました」

「それは、おめでとうございます」

「それで、これから謁見なのですが、マナーをぜんぜん知らないもので、教えていただこうかと」

「こ、これからですか!?」

 随分切羽詰まった状況でのご相談ですね。

「はい。先日ドラゴンを成り行きで狩ってしまいましたら、王城に連行されまして、国王様と謁見するということになりまして」

「え、えらいこっちゃ! 今すぐ礼儀作法大全を読破してマナーを身に着けないと!!」

「カノン様、落ち着いてください」

「落ち着いている場合じゃありませんよ! この国はマナーに非常に厳しくて、下手にマナー違反をすれば、良くてむち打ちして放逐、下手をすれば処刑もあり得ます!」

「マナー違反程度で大袈裟ですね」

「マナーを知っているかどうかで、味方か否かを判断する文化なんですよ。同じマナーを知っているということは、同じ文化、同じ習慣、同じ価値観を共有する人間であるという証明書のようなものです。ですから逆に言えば、マナーを間違えるということは、『私は異物ですよ、敵かもしれませんよ』と宣言するようなもので、敵対されても文句が言えないことになります。特にこの謁見のマナーは、創造神が伝えたものを元にしているので、特別に神聖視されてますから」


「……そういえば、案内役を買って出た貴族様が、ニヤニヤとしていました。いやに謁見を急がせると思ったら、私を敵として排除するつもりだったんですかね?」

「あり得ますね。通常、国王に謁見するなら、それなりの教師をつけて、最低限のマナーを身につけさせてから行うはずです」

「案内して下さった貴族の方は、『息子は騎士団に所属していて、ドラゴン退治に出るところだったのだが、そなたが退治してくれたおかげで、戦わずに済んだ』とか言っていました。あれは『息子が手柄を立てるチャンスをつぶしやがって!』という意味だったんですね」

「そんなに落ち着いて分析している場合じゃないですよ! すぐに教えますので」

「あのカノン様、もう謁見の間の扉の前なのですが……」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 ど、どうしましょう!?

 このままでは、聖人様の命が風前のライターでマッハでビューンです。

「まあまあカノン様、落ち着いてください。ビジネスマンとして、それなりにマナーについては知っているつもりですから。ここは近世ヨーロッパ風の世界のようですから、西洋風のマナーで良いんですよね?」

「残念ながら、ぜんぜん違います!」

「え? 西洋式じゃないんですか!?」

「文化が違えば、当然マナーも違いますよ。ましてや異世界なんですから同じわけがないじゃないですか!」

「そう言われてみればその通りなんですが……。私、この世界のマナーなんか全然知りませんよ?」

「だから慌てているんです! ええい、時間がない! 念話で随時教えますから、指示に従ってください」

「それで大丈夫なんですかね?」

「出来るか出来ないかじゃありません! やるしかないんです!」



 扉の前に立つ衛兵が、来訪者の名を高らかに呼び上げます。

「勇者候補生コンゼン、入室!」

 大きな扉がゆっくりと開かれます。

 正面奥の数段高いところの玉座に、国王が座っています。左右には、大臣をはじめ、王都にいる貴族たちがずらりと並んでいます。

 この状況で、少しでも失敗すれば、即座に叩き出されます。下手をしたら……。


『コンゼン様、まずはゆっくりと歩いてください。視線はやや下向きで、国王の顔を見てはいけません。正面の玉座の手前、一段高くなっている場所の数歩手前で止まります』

『わかりました』

 聖人様がしずしずと歩いていきます。この辺は慣れた物でしょう。

『もう三歩先で止まったら、国王の顔を一瞬見て、左足を半歩引きます』

『なぜ半歩引くのですか?』

『国王の顔を見て、その威厳に打たれて半歩退いたという表現です』

『なるほど、こんな感じですか』

 この辺までは、まあ普通なんですよね。

『はい。そうしたら、がに股になるぐらい足を開き、半身になって、腰を低くします』

『が、がに股ですか!? 地味に足腰に来るポーズですね』

『左手は膝の上で、右手は手のひらを上にして、国王の方に差し出します』

『……これには何の意味が?』

『右手に武器を持っていないと示すことで、敵意がないことを意味しています』

『…………なるほど』

『ここからが口上になりますので、私の言葉を繰り返してください。まずは謁見を受けるコンゼン様から話しかけます』


「失礼いたします。国王様でございますか?」

「うむ、余が国王である」

 そういうと国王が玉座から立ち上がり、右足を半歩踏み出してがに股になり、やや腰をかがめて右の手のひらを上にして差し出し、敵意が無いことを示します。

 次は、名乗りの譲り合いです。

「私から名乗らせていただいてよろしいでしょうか?」

「いや、余から名乗ろう」

「いえいえ、私は一介の平民に過ぎません。どうぞ私から名乗らせてください」

「いや、太陽のもとに生きる同じ人間になぜ上下があろうか。余から名乗ろう」

「いえいえ、水が上から下に流れるように、自然と高低があるものでございます。どうか私から名乗らせてください」

「そうか、三度もそう言われては仕方がない。先に名乗るがよかろう」


『カノン様、なんですかこの茶番』

『国王が先に名乗ろうと言うことで度量を示しつつ、目下の者が三度固辞することで尊敬を表します。いわゆる『大切なことなので三回言いました』ってやつですね。そんなことより、次が山場の名乗り口上ですから、間違えないでくださいね?』


「ありがとうございます。

 大変失礼ながら、さっそく名乗らせていただきます。

 私、粗忽者ゆえ、もし名乗りの順序を間違えましたら、なにとぞご容赦願います。

 国王様におかれましては、初めてお目にかかります。

 私、生まれも育ちも日本国でございます。

 縁ありましてこのカラ国に流れて来ました旅人でございます。

 御賢察の通り、寄親無し寄子も無しの、未熟な輩でございます。

 姓も持たない、しがない平民でございます。

 名はコンゼン、人呼んでコンゼン爺と申します。

 稼業、聖人の駆け出し者でございます。

 何卒御見知り置かれまして、行末万端よろしくお願いいたします」

 聖人勇者さんの名乗りに応えて、国王が名乗りを返します。

「丁寧な名乗り、痛み入る。

 余がカラ国国王である。

 姓はカラ、名はセーミン。人呼んで世界王である。

 行く末長く、万事万端よろしく頼む」


 これでひと段落……ではなく、まだ続きます。

 元の姿勢に戻るまでが名乗りです。

「ありがとうございます。

 では、どうかお手をお引きください」

「そなたから引くがよかろう」

「いえ、どうか国王様からお手を引きください」

「そうは言わず、そなたから引くがよかろう」

「それでは礼儀に叶いません。どうか国王様からお手を引きください」

「そうか、では同時に手を引こう」

「ありがとうございます」

 大切なことなので三回言って、同時に手を引いて、直立した姿勢に戻り、ようやく名乗りが終わりです。


『カノン様のおかげで何とか乗り切れました。例の案内役の貴族が歯ぎしりしてますよ』

『まだです! ここで気を抜いてはいけません。献上の品を差し上げるのがマナーです』

『献上の品!? そんなもの持ってきてませんよ!?』

『ご安心ください。そもそも、国王が満足するものを用意できるはずもないので、形だけです。ですが、ここでも形が大事になります。ちょっと上着に手をかけつつ、次の口上を言ってください』


「献上の品を用意しようと思いましたが、しがない平民ゆえ何も差し上げるものがございません。粗末ながら、この身に着けましたる服を差し上げますので、雑巾にでもしていただければ幸いです」

「殊勝な心掛けである。だが服を脱いでは寒かろう。着たままでよい。大したもてなしもできないが、ゆっくりするといい」


『乗り切りました!これで、最低限のマナーを知っているということの証明になりました。後の会話は、節度さえ守れば、ざっくばらんで構わなくなります』

『カノン様、おかげさまで乗り切れました。ところで、これって仁義……』

『それ以上いけない! ボケ老……創造神の趣味です』

『趣味ですか……』

 あのボケ老神には、仁義ではなく、啖呵を切ってみたいものです。

 しがない宮仕えの天使には無理な話ですが。

ストーリーの都合で、仁義の切り方とは微妙に意味とかやり方を変えてあります。

これを参考にして仁義を切ると、大変なことになると思いますので、自己責任で。

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