第19話 コンゼン3:アイテムボックスで盗賊がくぁwせdrftgyふじこlp
・・・おや!? コンゼン爺のようすが・・・!
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
この声は、聖人のコンゼン様?
あの冷静沈着な紳士に一体何が!?
まさか、世界でも滅んだのでしょうか?
「おおお落ち着いてください。ままままずは状況を説明していただけますか?」
「……周囲の人が慌てていると、かえって冷静になれますね」
あ、聖人様が冷静になりました。
私も、取り乱したことなど忘却の彼方に放り投げましょう。
「コホン。それでコンゼン様、一体どうなさったのですか?」
「それが……、アイテムボックスを使ったら、盗賊が真っ二つになりまして」
「……ゑ?」
意味が分かりません。
「少々お待ちください、状況を確認いたします」
……んんん?
過去ログによれば、街道を旅している途中で盗賊に襲われた時、聖人様がアイテムボックスを開いたら、盗賊の上半身と下半身が泣き別れしています。グロすぎて、詳細を観察する気になりません。聖人様にお話を聞くことにしましょう。
「……よくわかりませんでした。詳細な状況説明をお願いいたします」
「実は、先ほど街道を歩いていたら、盗賊風の男が襲ってきまして」
「ナーロッバ辺境は治安が悪いですからね。よくお姫様が盗賊に襲われています」
なんでお姫様とかは、治安の悪い辺境に行きたがるんでしょう?
「私としては、戦える能力なんてないので、すぐに逃げようと思ったわけです」
聖人様は、アイテムボックスの他は、聖人としての基礎能力の治癒魔法だけで、戦闘に使える能力は皆無ですからね。
「それが正解だと思います」
「そして、少しでも盗賊が追いかける邪魔になればと思って、アイテムボックスのゲートを自分の後ろに開いたんですよ」
「それで、後ろから聞こえた断末魔の声に振り返ったら、盗賊が真っ二つになってたと」
「そうなんです。あまりの凄惨さに思わずそこから逃げ出しましたが、一体何が起きたのでしょうか?」
一体何が…………!?
ああああああああ、私としたことがなんという失態!
いや待て、根本原因は私じゃなくてボケ老神だ!
「原因がわかりました」
「創造神様が助けて下さったのですか?」
あのボケ老神がそんな手間のかかることを、するわけがないのです。
「いいえ、原因はゲートの仕様でした。聖人様がご自分の後ろに地面と水平に展開したゲートに、盗賊が横から突っ込んだのが原因です」
「えっ? ゲートで人体が切断されるんですか!? 私は何度も手を入れているんですが、もしかして私の手も千切れるんですか!?」
「ゲート面に対して垂直に出し入れしていれば、入れた手が千切れるようなことはありません」
「ではなぜ盗賊は? ゲートに入っただけなら、亜空間に盗賊が転送されるだけのはずでしょう?」
「ゲート面に対して垂直に突入していればそうなったでしょう。しかし、盗賊はゲート面に対して横から入ったんです」
「横から入ることに何の問題が?」
ちょっとヤヤコシイ問題ですので、どこから話したものでしょうか……。
「例えば、一本の棒を想定してください。水平に開いたゲートに対して、いつものように、上から垂直に半分差し込むと、どうなりますか?」
「単純に棒の下半分が亜空間に転送され、上半分が通常空間に残ります」
「そうです。では、逆に下から上に垂直に差し込むとどうなりますか?」
「棒の上半分が亜空間に転送されます」
「ここまではいつもの使い方です。それでは、棒の真ん中を、ゲートに対して横から差し込んだとしたら、どうなるでしょうか?」
「……ゲートの上下の通常空間に半分ずつ棒が突き出てるだけで、亜空間には何も転送されないでしょうね」
「その状態で、棒を下に動かしたら?」
「……あっ、そういうことですか!」
相変わらず聖人様は理解が早いですね。
「そういうことです。棒の上半分は、ゲートを通過して亜空間に移動します。しかし、下半分は通常空間に取り残されたまま……」
「真っ二つになると」
「理論上は、正確に真横から入って正確に真横に抜ければ大丈夫ですが、わずか1ミリでもずれれば、その分だけ転送されて真っ二つです」
「……もしかしてそれは、なんでも切り裂ける最強の剣ということになるのでは?」
「まあ一応、ゲートよりも大きなものは転送されない仕様ですから、直径3メートル以上ある固体は切れませんね」
「……自分が使うときも、ついうっかり横から手を入れちゃったら、スッパリ行くってことですよね?」
「……そうなりますね」
「怖くって使えないじゃないですか! 何とかしてください!」
「創造神が定めたこの世界の法則として、一度与えた能力の変更はできません。ですから、用心して使ってくださいとしか言えないですね」
「前回は修正して下さったじゃないですか」
「あれは、ゲートの能力に別の亜空間へのアクセスコードを追加しただけで、元からあった能力は変更していませんから」
聖人様ががっくりと項垂れています。
「……」
かける言葉が見つかりません。
「…………ふぅ、落ち込んでいてもしょうがない」
さすが聖人様です。少し落ち込んだだけで立ち直りましたか。
「まあ、過ぎたことは忘れましょう。私の座右の銘は『変えることのできるものを変えるだけの勇気を。変えることのできないものを受けいれるだけの冷静さを。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、識別する知恵を』ですから」
「ニーバーの祈りの言葉ですか」
「ですから、仕様が変えられないというなら、冷静に受け入れましょう。その上で、何とか利用できないか知恵を働かせることとしましょう」
「前向きな姿勢が素晴らしいですね」
「とりあえず能力の再確認をしておきましょう。他に予想外の使い方が無いか調べておかないと、怖くて使えないですからね」
そう言うと聖人様はアイテムボックスを開いたり閉じたりと、いろいろな実験を始めました。
私もボケ老神が書き散らした、アイテムボックスの仕様書を再確認しておきましょう。
「仕様書によれば、ゲートはいちいち口で言わなくても開けるようです。最初は慣れるためにキーワードを言ったほうがやりやすいみたいですが」
「むむむむ。こうですか」
あっという間に無詠唱でゲートを開けるようになりました。さすが聖人様です。
「ゲートの大きさは、開いた状態でも調整できます。ただし固体が通過中の時には、その大きさ以下にはできません」
「なるほど、ゲートを縮めて切断することはできないわけですね。安全装置になっているわけですか」
「使用者が亜空間に入った状態で、内側から通常空間へゲートを開く場合、入った所と同じ場所にしか開けません」
「亜空間を経由した疑似的なワープは無理ということですね」
「あと、ゲートは一度に複数開くことも可能です」
「……ほう?」
おや、聖人様が何か閃いたようですね。
「あの、さっきから倉庫3だけ使ってたのですが、もしかして、時間が停止していて何も入らない倉庫1は、最強の盾になるのでは?」
……そう言われてみると、ゲートに接触したものは転送されず、その場所で止まるわけですから、相手の剣や槍などが当たっても、そこで止まります。
「……ゲートより大きなものは転送されないので、止まらないという制限はありますが、3メートルを超えるような攻撃は考えにくいですね」
「倉庫2も、相手を吸い込む『吸引力の変わらないただ一つの亜空間』として使えますね。自分も吸い込まれて自滅しかねませんが」
「……くれぐれも開きっぱなしにはご注意を。空気がなくなって、世界もろとも滅びますから」
一時間ほども検討を続けたでしょうか。
聖人様の右手には、直径3m以下のものならダイヤモンドでも切り裂く、光り輝く最凶の剣が。
左手には、直径3m以下のものなら光ですら止める、漆黒の最硬の盾が。
更には、直径3m以下のものなら何でも吸い込める『吸引力の変わらないただ一つの亜空間』も控えています。
あれ? 戦闘能力の無い聖人でしたよね、この方は。世界を滅ぼす魔王じゃなかったですよね?
もう全部聖人様一人でいいんじゃないかな?
「……なんでこうなったのでしょう?」
「……なんででしょう?」
お互いに無言になってしまったので、念話を切りました。
数日後
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「カノン様、コンゼンです。実は先日、商人として行商をしている旅の途中で、襲ってきたドラゴンの首を切り飛ばしたら、なぜか魔王討伐の勇者に任命されることになったのです。どうすればいいのでしょうか?」
「……頑張ってください」
心からの応援をして、そっと念話を切りました。
おめでとう! 聖人は勇者にしんかした!




