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第1話 ゴノー1:鑑定スキルで知識チートできない!

転生したら、鑑定スキルの知識チートで魔力が無限でオレツエー。基本ですよね?

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「オイ、どうなってやがる! 鑑定スキルの知識チートで魔力が無限でオレツエーしようと思ったのにできない! なぜだ!?」

 言っている内容が全く理解できません。

 しかし、この転生者さんは、ずいぶん激昂して念話してきますね。

 念話の画面には、ガリガリに痩せた5歳ぐらいの男の子が映っています。

 とりあえず、クレーマー転生者さん(略してクレ転さん)と呼ぶことにしましょう。

「転生者様、落ち着いてください。まずは状況を説明していただけますか?」

「この世界を作ったのは誰だ! 御神おかみを呼べッ!!」

「お・ち・つ・い・て、下さいますよ……ね?」

「うっ……分かった」

 ほんのちょっぴり、そう、ゴブリンが失神する程度の僅かな殺気を混ぜただけなのに、なぜか急に大人しくなりました。

「それで、どうなさったのですか?」

「どうもこうもない。僕が転生したのは、貧乏男爵家の五男だ。五男って、それはないだろ!」

 ふむふむ、ステータスによれば、転生後のお名前はゴノーさん。北方辺境のシュヴァイン男爵家の五男ですか……、よくある転生設定ですね。

「それにつきましては、ゴノー様が転生時の要望で良い身分を願わなかったんですから、仕方がないですね」

「問題はそれだ!」

「身分ですか?」

「いや、転生時の願いについてだ!」

「ステータスによると、転生チートとして、鑑定スキルを貰っていらっしゃいますね」

 鑑定スキル……、嫌な予感がします。

「そうだ。知識チート無双がしたくて、鑑定スキルを願った」

「なろう三大チートスキルの一つですね」

「そして、幼児期のスタートダッシュをする為、鑑定で魔力について調べたんだ」

「魔力ですか?」

「とりあえず自分自身を鑑定して、その中から魔力について更に深い情報を鑑定したら、ヘソの下の熱のようなものが魔力だと、鑑定結果が出た。

 そして、それを血液が循環するように体内を巡らせ、手から放出するのが魔法だとも。

 更には、魔力の増やし方については予想通り、『魔力は使い切ると、わずかだが成長する』と鑑定結果が出た」

 いわゆる『赤ん坊時代から魔力枯渇で膨大な魔力チート』というテンプレですね。

「それで、毎日『魔力』を体内循環させて、使い果たして、魔力を増やそうとしたわけですね?」

「その通り。しかし、一向に魔力が増える気配がない! なぜだ!」

「確認してまいります」

 原因はほぼ確定していますが、一応この世界の仕様書を確認しておきましょう。

 ……やっぱり間違いありませんね。

 あの面倒くさがりのボケ老神が原因です。


「原因がわかりました」

「そうか分かったか! やっぱり、魔王が僕の活躍を恐れて、呪いでもかけたのか?」

 なんで魔王様がそんな面倒なことをしなければいけないんですかね。

 常識的に考えて、邪魔な相手なら成長する前にさっさと暗殺してますよ。

「いいえ単純に、鑑定結果が間違っていたんです」

「…………はぁ?」

 理解できなかったのか、気の抜けたような声を出しています。


「つまり、『魔力というものはヘソの下にあって、それを体内循環させて放出したのが魔法で、使い切ると魔力が増える』という情報が、間違っていたんです」

「ゑ? なにそれ? どういうこと?」

 混乱の根本原因は、鑑定スキルの仕様について勘違いしていることのようです。


「そもそも、鑑定スキルとは、どういったものだと思いますか?」

「そりゃ、世界のあらゆる情報が集まったアカシックレコードみたいなものにアクセスして、調べたい物に対する正しい答えを示してくれるスキルだろ?」

 よくあるテンプレ鑑定スキルですが、この世界のボケ老神がそんな面倒なシステムを組むわけないじゃないですか。


「そうですね……、例えば、そこの地面を鑑定していただけますか?」

「えっと、『土』と出たな」

「さらに深い階層の情報まで芋づる式に調べてみてください」

「『土→地面→シュヴァイン男爵家領地の一部→カラ王国の北方辺境→ナーロッバ大陸の一部』と出たな」

「ナーロッバ大陸について、更に詳しく」

「『ナーロッバ大陸:創造神オウグが創造したこの世界にある五大陸の中心となる大陸。大地は平面であり、その周囲を太陽と月と星が張り付いた天球が巡っている。大地はゾウと亀と蛇が支えており……』何だこりゃ!? この世界は、天動説の平面世界なのか?」

「いいえ。この世界は地球と同様に、球体の惑星として創造されています。もちろん天動説などではなく、地動説のほうが正しいですよ」

 厳密には、あの創造神(ボケ老神)が世界を創造するときに手抜きをして、世界テンプレートをそのまま使い、そこに魔法やスキル、モンスターなどのファンタジー要素を追加して、このナーロッバを創造しました。

 だから、テンプレートをそのまま使って創造した地球と非常に似通っていますし、地動説の宇宙になっているわけです。

 まあ、そんな内部情報を、クレ転さんが知る必要はないですけれどね。


「……つまり、鑑定スキルは、間違った情報を教えるということか!? どういうことだ! 僕はクズスキルを掴まされたのか!? 御神を呼べッ!!」

「まあまあ、落ち着いてください。あのボケ老……ゲフン、創造神を呼んでもしょうがないですよ。これは、鑑定スキルの仕様上の問題ですから」

「どういうことだ?」

「鑑定スキルは、『過去と現在の鑑定スキル所持者の知識の集合体にアクセスする能力』なんです」

「……つまり、Wikip○diaみたいなものか?」

 ああ、それは分かりやすい比喩ですね。

「簡単に言えばそうです。ですから、データベースに書き込みをした鑑定スキル所持者が、間違った知識を持っていたら、間違った鑑定結果が出ることになります」

「なんだそりゃ!?」

 そう言われましても、あのボケ老神が創造した世界ですからね。手を抜けるところは抜きまくっているんです。

 鑑定スキルのために、『完璧な情報を備えた辞典を作り、リアルタイムで更新し続ける』なんて面倒くさいことを、するわけがありません。情報を収集するところから更新まで全部、人間達に丸投げです。


「まあ、そういう仕様なのです」

「仕様……嫌な言葉だ。結局のところ、魔力は使い切ったら増えるというのは間違いなのか?」

「間違いというか、過去の賢者たちはそう思い込んでいたってことですね。現実がどうであるかは別として」

「一応聞いておくが、このヘソの下に感じるものは魔力で間違いないんだよな?」

「気のせいです。魔力でも何でもありません。思い込みの力ってすごいですよね」

 自律訓練法をやっていると、お腹が温かく感じるようになるのと同じようなものです。

「じゃ、じゃあ、魔力を体内に巡らせる修行は?」

「単なる錯覚ですね」

 瞑想による自己暗示みたいなものです。

「瞑想中に感じた宇宙と一体になったような感覚とか、全能感とかは?」

「座禅を組む禅僧などがよく陥る精神疾患、いわゆる『魔境』というものでしょうね」

 こういう危険性があるから、指導者もいない状況で、素人が本格的な瞑想をするのは、あまりお勧めしないんですよね。

「……つまり、僕が赤ん坊の時から魔力を増やすために、毎日毎日、長時間瞑想していたのは、ぜ~んぶ間違いで、無駄で、無意味で、時間の浪費に過ぎなかったと?」

「まあ、その、なんというか、ありていに言えば……、その通りです」

「くぁwせdrftgyふじこlp」

 あ、壊れました。

 まあ気持ちはわかります。

 赤ん坊からスタートダッシュしようとしていたのに、無駄な努力に長い年月をかけてしまい、チート能力も思っていたものと違うと気が付いてしまったわけですから。


「まあまあ、落ち着いてください」

「これが落ち着いてられるか!!!」

「いい勉強になったじゃないですか。いくら創造神が与えたスキル由来の知識だとはいえ、根拠もアヤフヤな情報を無批判で信じると、こういうことになると」

 いわゆるネットリテラシーの能力が重要なんですよね。

「いやだって、鑑定スキルだよ? 創造神だよ? ふつう正しいって信じるでしょ?」

「ほら、『信じる者は足元をすくわれる』って言うじゃないですか」

「上手いこと言ったつもりか!」

 ウイットに富んだジョークも分からないとは、これだからクレ転さんは。


 とはいえ私もお仕事ですから、ボケ老神のフォローをしておかないといけません。

「そうは言っても、鑑定スキルは、かなりのチート能力ですよ?」

「嘘の情報を垂れ流す能力が、チート能力のわけがないだろ! 詐欺だ!」

「そんなことはありません。そもそも、人間がサルから進化して、繁栄できたのは、なぜだと思いますか?」

「……道具を使えるようになったからか?」

 よし、食いつきました。これで話題を逸らしていきましょう。

「いいえ、違います。『誰かが思いついた道具の作り方を、他人に教えることができるようになったから』です。一人の天才が素晴らしいアイディアを思いついても、その人が死ねばすべて元に戻ってしまいます。しかし、知識を伝達することができれば、その人が死んでも、知識は残り続け、群全体の力となります。知識を伝達する言葉の発明、そしてそれを保存する文字の発明こそ、人間を繁栄させた最大の要因なんです」

「なるほど……で、それと鑑定スキルがどう関係するんだ?」

「まだわかりませんか? 鑑定スキルは、すでに死んだ過去の人物、あるいは今現在遥か遠くにいる人物の知識を、あなたに伝える能力なんですよ」

「……! つまり、情報の伝達と、保存・蓄積を行うことができるスキルなのか!」

「ええ。しかも、知識が失われることがありません。地球の中世ヨーロッパなんて、古代ギリシャやローマの時代に発達した知識をほとんど忘れ去ってしまったがために、『暗黒時代』と言われるほどまで、蛮族の時代に逆戻りしてしまいました。その後、イスラム文化圏の『知恵の館』に保存されていた知識を逆輸入することで、かろうじて文明が復興することができたのが、ルネサンス時代なわけです。このように知識の保存とは、重要であり、チート能力なのです。鑑定スキルとは、決して失われることのない『知恵の館』なのです!」

「でも結局、嘘の情報も含まれてるんだろ?」

 む、それっぽいことを言ったのに、誤魔化しきれませんでしたか……。いや、まだあきらめるには早い!



「そもそも、人間の知りうる知識に『完璧に正しい真理』なんてものはありませんよ」

「どういうことだ?」

「正しいとされている知識も、せいぜい『現時点において最も既知の現象をうまく説明できる仮説』に過ぎないんです」

「よくわからん」


「そうですね……、例えば天動説と地動説の歴史はご存じですか?」

「天動説は間違いで、地動説が正しいってことか?」

「では、地動説の証拠を今すぐ提示できますか?」

「急に言われても、教科書に書いてあったからとしか……」

「根拠を探そうとすると、すぐには見つからないものです。むしろ、地面の上に立って星空を見上げている人間からすれば、『大地は不動であり天のほうが動いている』と考えたほうが、見たままの状況であり、星の動きを簡単に説明できるんです」

「じゃあなんで地動説が正しいことになったんだ?」

「いろいろ理由はありますが、精密に天体の運行を調べた結果、惑星の動きが天動説ではうまく説明できなかったんです」

「それを、うまく説明できたのが、地動説ってわけか」

「ざっくり言えば、そういうことですね」


「じゃあ、地動説が真理だったってことだな」

「いいえ、地動説自体も完全ではありませんでした。初期の地動説では、惑星の軌道を円で考えていましたが、これでは、惑星の動きについて精度の低い説明しかできなかったのです。その後、ニュートンやケプラーによって、楕円軌道のほうが更に上手く説明ができることが分かったのです」

「じゃ、楕円軌道の地動説が真理?」

「いいえ。さらにその後、ニュートン力学は不正確であり、アインシュタインの相対性理論まで含めて考えると、更に上手く説明できることが分かったのです」

「……だんだん真理に近づくけど、真理そのものではないってことか」

「そうですね。アインシュタインの相対性理論もいずれは、『より正確に説明できる法則』が発見されて、間違いであったことが分かるでしょう」

「それが、『現時点において最も既知の現象をうまく説明できる仮説』という意味か」

「そうです。そして、その仮説の集合体が、ゴノー様の『鑑定スキル』なんですよ」


「なんか石を積み上げて作っていく知識の塔みたいな感じだな。古い時代の仮説を土台にし、その上に新しい知識という石を積み上げて塔を高くする。積み上げた石もやがては、他の石の土台となる。そうやって少しずつ真理という天に近づいていく」

「その通りです。つまり鑑定スキルとは、『真理に近づくために、全人類が積み上げてきた知識を、土台として使えるようになるスキル』なんです。鑑定結果は『完璧に正しい答え』ではありませんが、スキル使用者が更に真理に近い答えを積み上げるための土台になるんですよ」

「なんとなくわかってきたぞ! そうすると、鑑定スキルの結果が正しいかどうかを自分で確かめ、間違っていたら、自分で新しい知識を書き加え、より真理に近い鑑定スキルにしていかなければならないってことか!」

「その通りです。そうやってゴノー様が積み上げた知識の石は、未来の鑑定能力者にとっての更なる真理へと近づくの土台となるのです。つまり、鑑定スキルとは、個人にとってのチート能力ではなく、人類の発展にとってのチート能力ってことなのです!!!」

 なかなかいい話でまとまりましたね!


「……ところで結局、魔力を枯渇させると魔力が増えるという知識は間違いだったわけだけど、魔力はどうやったら増えるの?」

「ぜひ、ご自分で研究なさって、新しい知識を鑑定スキルに書き加え、遥かなる未来へ積み上げていく知識の塔の一つのレンガとなってください!」

「……」

「…………」

「人類にとってはチートでも、今現在の俺自身にとっては、役立たずの能力ってことじゃねえか!!」

 ごまかしきれなかったか……。

 まあ、ボケ老神のフォローはこの程度で十分ですかね。

「さて、そろそろお時間ですので、私はこの辺で失礼いたしますね」

「あ、おい、こら待て!」

 今日も、いい仕事ができた気がします!



 ちなみに、魔法の使用回数を増やすためには、世界の発展に貢献するか、ボケ老神へのワイロ……お供えをすると、それに応じて増やしてもらえるそうです。

 要は、ボケ老神の胸先三寸ってことですね。

 そして、魔法の使用回数を使い切るほど懸命に働くと、世界への貢献とみなされて、微妙に使用回数が増えます。昔の賢人は、それを勘違いして、魔力を使い切ると増えると思い込んだのでしょう。

 クレ転さんが、この真理に近づくことはあるんでしょうか……。


カノンさんが知っている「ナーロッバの真理」は、本当に真理なんでしょうかね……。


2020/07/23 21時 1~3話の順番を入れ替えました。ご注意ください。

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