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第18話 ゴノー9:夏にアイスが食いたい!

暑い日が続くと、アイスが無性に食べたくなりますよね。

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「暑い! アイスが食いたい! 何とかしろ!」

 念話の画面には、ブタのような体形をしたクレ転のゴノーさんが、ブタのように大量の汗にまみれながら転がっています。

 相変わらずの意味不明のクレーム、さすがクレ転さんです。

「ゴノー様、まずは状況説明をお願いします」


「状況説明もへったくれもあるか! 今年の夏は異常気象で、この北の辺境の地でも、異常な熱波に襲われてな。ただひたすら暑い。せめてこんな時には冷たいアイスを食いたい。だが、氷を出せるような優秀な魔法使いが、こんな辺境にいるわけもなくてな」

「なるほど。ちなみに、アイス自体のレシピはご存じなんですか?」

「ああ、雪や氷のある冬場ならば作れる。果汁を氷で凍らせたアイスは、このあたりじゃ冬の定番デザートだよ」

「氷ならば、冬の間に池の氷を切り出して地下に貯めておく『氷室』があったはずですが?」

「今年の猛暑に、全部溶けちまったよ。国王様に献上する氷も無くなって、親父も頭を抱えてる。『氷が無い。国王様に何といって申し開きをすればいいんだ!』とか言って震えてたな。たまには親父も追い詰められれば良いんだ」

 国王の勘気に触れて、お家断絶にでもなったら、クレ転さんも路頭に迷うと思うのですが、良いんですかね?

 まあ何はともあれ、問題は氷、いや冷やす方法ですか……。


「では、アレを使いましょう」

「アレとは?」

「ほら、ハムとかソーセージを作るときに混ぜる粉で、混ぜるとお肉が鮮やかな色になる不思議な粉ですよ」

「肉屋が塩と一緒に混ぜてるアレか。前から不思議に思っていたんだが、あれは何なんだ?」

「アレは実は硝酸カリウム、つまり硝石なんですよ」

「硝石!? なろうチート物質の一つ、黒色火薬の原料の硝石だと!? なぜそんなものが肉屋に転がってるんだ!?」

 あいかわらずクレ転さんは、なろう小説の読みすぎですね。

「なぜと言われましても、昔からボツリヌス菌の繁殖を抑えるために塩と一緒にすり込んでますよ。混ぜるとお肉の色が桃色になって、新鮮に見えるのもポイントですね」

「硝石なんてどこから手に入れているんだ!?」

「古い家の下の土から採れますよ」

「……古土法か! それは盲点だった。よし、これで黒色火薬を作って、銃無双だ!」

「あ~、止めておいたほうがいいですよ?」

「なんでだよ!」

「銃の利点とは、訓練してもいない平民に強力な遠距離攻撃力を持たせることで、短期間に大量の遠距離攻撃力を揃えられるところにあるわけです」

「それの何が問題なんだ?」

「硝石が取れるほどの古い家が、そんなにたくさんあると思いますか?」

「……多くはないだろうな」

「古土法では、硝石は大量には採れないのです。そして銃の利点は、大量に揃えるところにあります」

「つまり、硝石の生産量が少ないから、銃は役に立たないと」

「そういうことですね」

「夢が無いな……」

 そもそも、平民に力を持たせたら、武力で平民を支配している貴族の立場が危うくなると思うんですが。その辺、貴族の端くれであるクレ転さんは良いんですかね?


「さて、話がだいぶ逸れましたが、この硝石を使ってアイスを作りましょう」

「硝石を黒色火薬以外の何に使うんだ?」


「水に溶かします」

「……はぁ?」

 気の抜けたような声を出されると、こちらも対応に困りますね。

「まあともかく、硝石を用意しましたので、水を加えて溶かしてみてください」

「よくわからんが、こうすればいいのか?」


 クレ転さんが、金属製のコップに入れた硝石の粉に、水を加えて溶かします。

「……んん? なんかコップが結露し始めたな」

「コップを触ってみてください」

「冷たい!?」

「硝石、即ち硝酸カリウムは、水に溶ける時に周囲の熱を奪う、吸熱反応を起こすんですよ。この反応を使えば、水を凍らせることも可能です。火薬の利用以前の近世ヨーロッパでは、硝石の主な使い道は肉の加工と冷却材だったらしいですね」

「そうだったのか!?」

「この反応を使って、氷を作ることができますし、できた氷に硝石の粉を混ぜれば、更に低温にできますよ。これでアイスを作ることができますね」


「なるほど。……いやでも待て、さっき硝石は大量にはないといったばかりだろ? こんなにホイホイ使っていいのか?」

「硝石は水に溶かしているだけなんです。つまり、加熱して水を蒸発させてやれば、また硝石に戻るんですよ」

「つまり、硝石はいくらでも再利用できるのか!」

「はい、そうなりますね」



「よし、じゃあ早速これを使って果汁を冷やして、アイスを作ろう!」

「少々お待ちを。どうせ作るなら、アイスクリームを作りませんか? 幸い牛乳と卵と水あめがありますし」

「だが、アイスクリームって、どうすればできるんだ? 前に作ろうと思って牛乳を冷やしたんだが、単なる牛乳味の氷ができただけだぞ」


「アイスクリームのポイントは、空気です」

「くうき?」

「はい。凍らせる過程で、細かい空気の泡を取り込ませることで、フワフワで柔らかなアイスクリームになるんですよ」

「空気、泡、フワフワ……、なんか前にも聞いたことがあるようなフレーズだな」


「はい、シフォンケーキ風フワフワパンを作ったときの応用です。物理的に空気を混ぜたものを凍らせて、フワフワのアイスクリームを作ります」

「じゃあ、また卵白を泡立ててメレンゲを作るのか?」

「今回は、卵白の他にも、生クリームを泡立ててホイップクリームも作りましょう。イタリア生まれのジェラート『セミフレッド』を参考にします。セミとは半分、フレッドとは凍ったという意味で、半分凍ったような柔らかい食感のアイスクリームになりますよ」

「よし、とにかく混ぜれば良いんだな? 任せろ!」

「はいここに、卵白を泡立てたメレンゲと、生クリームを泡立てたホイップクリームを用意しました」

「だから、三分クッキングはやめろと!」

 だから、残業はしたくないんですよ!

「このメレンゲ、ホイップクリーム、卵黄、水あめなどを、泡をつぶさないようにザックリ混ぜて、冷やせば、完成です」

「三分クッキング、最高!」

 手のひら返し、最低!


「アイスクリームの作り方は何通りもありますが、とりあえず混ぜて冷やして固めれば良いだけのこのやり方が、ゴノー様には最適かと思います」

「ふむ、これが完成品か。ぺろぺろ……、冷たい。バニラの香りがしないのが欠点だが……、旨い、旨いぞ! よし、これを氷の代わりに、国王に献上だ! これで親父も助かるはずだ!」

「問題が解決したようで何よりです。それでは私はこれで失礼しますね」

「ああ、ありがとうな。これで領民も一時の涼しさを得られるはずだ」



 ところで、さっきお渡しした硝石、肉屋から貰ってきたものじゃないんですよね。

 最近この領地では、硝石がやたら余っているんで、使い放題なんです。

 なんでも、数年前に流れてきた傭兵が、なぜか大量の硝石を雑貨屋に持ち込んだとか。

 ……お渡しした硝石の原料は、内緒にしておきましょう。

 ソフトクリームの形から、いろいろと連想してしまうとまずいですからね!

原料を考えてはいけない!

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