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第17話 コンゼン2:シリトリができないのですが

翻訳チートも基本ですよね?

「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」

「カノン様、異世界の言葉を理解できるのに、シリトリができないのです。なぜなのでしょうか?」

 この冷静な語り口は、聖人様のコンゼンさんですね。

 しかし、なぜにシリトリ?

「状況がよくわかりませんので、まずは詳しく説明していただけますか?」


「草原に転移した後、町を目指して街道を歩いていたのです。しばらくしたら、町に向かう馬車に乗った旅の商人と出会いました」

「ふむふむ、第一村人発見ですか」

「言葉が通じないだろうとは思いつつ、日本語で話しかけたら、なぜか会話が出来まして」

「ああ、その辺はなろうチートの定番、自動翻訳スキルです」

 なろう転生者基本セットの一つですね。ボケ老神が転生の際に説明するはずなのですが、また忘れたんでしょう。

「交渉して町まで馬車に乗せてもらえることになったのですが、世間話をしているうちにおかしなことに気が付きまして」

「おかしなことですか?」

「暇つぶしにシリトリをしようと言われたのですが、相手の『リンゴ』という言葉に対して、『ゴリラ』と答えようとしたら、なぜかシリトリがつながらないのです。」

「あ~、それですか」

「とりあえずその場はごまかしたのですが、一体なぜなのでしょうか」


 ふむ、どこから説明したものでしょうか。

「その原因は、自動翻訳スキルの仕様ですね」

「しよう?」

「はい。自動翻訳スキルは、異世界の言語を理解する能力ではなく、翻訳機のように相手の言語を自動的に翻訳するだけの能力なんです」

「……つまり、日本語で話そうとすると自動的に異国の言葉に翻訳され、意識せずに異国の言葉をしゃべることができる。逆に、異国の言葉を聞いたら、それを日本語として理解できる。しかし、実際に私が頭の中で考えている言語は、日本語のままで変わりはない、ということですか?」

 相変わらず一を聞いて十を知る方ですね。

「そういうことです。相手の言葉は、日本語に翻訳されて理解されますが、単語の音自体は全然別の言語のままです。コンゼン様が『リンゴ』と理解した単語は、実際には『すにみきら』という発音です。そして『ゴリラ』は『きらすにすち』です。『ら』と『き』では繋がらず、シリトリになりません」

「結局、単語の意味と音が一致しないので、シリトリができなかったということですか」

「その通りです」

「『リンゴ』……本当ですね。いま意識して自分の声を聴いてみたんですが、自分では『リンゴ』と言ったつもりなのに、口は『すにみきら』と発音していました」

「聞こえる音と意味が一致しないのは、ちょっと違和感を覚えるかもしれませんが、そのうち慣れますよ」


「結局、シリトリをするときには、音を意識すればよかったのですね」

「あ~、それだけではダメです。試しに、自分一人でシリトリしてみてください」

「……今、『すにみきら』に続く『ら』から始める異世界語の単語を思い浮かべようとしたのですが、何も思いつきません」

「その辺も自動翻訳の仕様です。言語を理解したわけではなく、あくまで、スキルが聞こえた言葉を日本語に翻訳する、あるいは日本語で話したい言葉をこの世界の言葉に翻訳するだけです。ですから、辞典のように単語を音で探すようなことは出来ないんです」

「便利なようでいて、ちょっと不便な能力ですね」

「まあ、通常の会話を聞いて話す分には不自由しないと思いますので、その辺はご容赦を。その代わり、文字も読み書きできますから」

「……本当ですね。『リンゴ』と書こうと思ったら、ミミズがのたくったような謎の図形が書けました。そしてそれがなぜか『リンゴ』と書いてあると理解できます」


「ちなみに、腐っても創造神が与えた能力ですから、どんな言語でも翻訳できますよ」

 面倒くさがりのボケ老神が、適当にどんな場所に転生者を堕としても、同じ翻訳スキルを与えるだけで済むように、このスキルを作りましたからね。

「……なんというか、いろいろ欠点がある割に、想像を絶するすごい能力のような気がするのですが」

「テンプレチート能力ですから。どんな言語であっても、簡単に通訳者になれますよ。感覚的には、Aさんが言った言葉をBさんに向かって繰り返すだけで、通訳になりますから」

「なるほど。とりあえず、商人として働くための運転資金を貯めるために、通訳者としてお金を稼ぐことにします」

「はい、頑張ってください」

「今後の生活のヒントまでいただき、ありがとうございました」

「それでは、これで失礼いたします!」

 ……今回は特に失敗も無く、上手くいきました!

 秘蔵のワインでも開けて、祝杯を挙げましょう!



翌日

 ……二日酔いです。さすがに昨日は飲みすぎました。

 聖人様の様子はどうですかね?

 おや、さっそく聖人様が通訳として活躍されるようです。


 貴族風の女性と男の子がソファーに座っています。そこに、商人風の男二人と一緒に、聖人様が来ました。

始めに、貴族風の女性が挨拶をします。

『今日は息子のために御足労を頂きありがとうございます。私は当主婦人のヘンナ・パンツです。これは息子のエーロ・パンツです』

 次は聖人様が翻訳する番なのですが、聖人様は固まってしまって、翻訳をしません。

『……そこの通訳、どうしたのですか?』

「コンゼンさん、早く翻訳していただけませんか?」

 聖人様が、ゴクリと唾をのみ、覚悟を決めたように話し始めました。

「で、では翻訳します。『今日は息子のために御足労を頂きありがとうございます。私は当主婦人の……、へ、ヘン、変なパ、パン……』」

 言葉に詰まった通訳のコンゼン様を、周囲の人が不思議そうな顔で見ています。


 固有名詞やその言語に存在しない単語は、自動翻訳でも発音した音のままに聞こえます。

 そして、その発音がたまたま、本当にたまたま、日本語の別の意味の単語と同じに聞こえることもあり得ます。

 意味を意識せずに音だけを繰り返せばいいのですが、別の意味を意識しながら発音してしまうと、自動翻訳により……。


『カノン様、カノン様。この仕様は、どうにかなりませんでしょうか?』

『……頑張ってください』

 今日はビールで一人反省会ですね。

 ヘンナ、パンツ、エーロ、オッラ、アホネン、パーヤネンなどは、いずれもフィンランドでは普通に実在する名前だそうです。

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