第13話 ビコーオ3:魔法を使いたいのである!
異世界転生と言えば魔法ですよね?
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「吾輩である。魔法が上手く使えんのだが、どうなっているのであるか?」
この神々しい頭は、全裸ネクタイハゲマッチョ変態紳士のビコーオさんですね。
いや、全裸ネクタイからズボンをはいて、半裸ネクタイハゲマッチョに進化しています!
転生者の成長を見ることができるのは嬉しいものですね!
……現実から目を背けるのは止めましょう。
「ビコーオ様、まずは状況説明をお願いします。ちなみに、増毛は無理です」
「吾輩、異世界にハゲマッチョ全裸男として放り出されたのである」
「まあ、なんてひどいことをする人がいるのでしょう!」
「…………」
「……その折には大変失礼いたしました」
トボケようとしましたが、無言の圧力に負けました。
「まあ、過ぎてしまったことは仕方がないのである。早速トレーニングをしようかと思ったのであるが、肉体は不老長寿の影響でこれ以上鍛えられないのである。そこで、創造神様に願った魔法能力を鍛えることにしたのである」
この方は、自分を鍛えることが好きですね、さすが前世でもハゲマッチョだったことはあります。
「ステータスで、魔法の適性があるとわかっているののだが、どうすればいいのかがわからないのである」
「承知いたしました。基本的な魔法についてご説明いたしますね」
「頼むのである。一度は創造神様から聞いたような気がするのであるが、何しろ3年も受精卵をしていたので、すっかり忘れてしまったのである」
「そもそも、この世界における魔法とは、SFなんです」
「SFというと、すこしふしぎ?」
「いえ、サイエンスフィクションの方です。つまり、基本的には地球と同じ物理法則が成り立つ世界で、すこしだけ物理法則を超越した現象を起こす、それがこの世界の魔法なんです」
「よくわからないのである」
では、水魔法で実演することにしましょう。
「例えば、水生成の魔法ですと、空気中から水蒸気をかき集めて液体へ相転移させて水を生成します。ここまでは物理法則を超越した現象ですが、生成した水そのものは、物理法則に従って、地面に落ちます」
水魔法により水球が空気中に生成され、そのまま重力に引かれて落下しました。
「なるほど、魔法で物理法則を超越した現象を起こすことができても、それ以降は物理法則に従うということであるな」
「そうですね。もちろん、水を生成した後も魔法で干渉し続ければ、物理現象を超越し続けることができますし、干渉をやめれば物理現象に従うようになります」
今度は、生成した水を、液体制御魔法でフヨフヨと空中に浮かせて見せます。
魔法を切ると、やはり重力に従って地面に落ちます。
「それで、どのような『物理法則を超越した現象』が起こせるのであるか?」
「原理的には、どのようなことでも可能です」
「……つまり全知全能であるか?」
「原理的には、ですが。もちろん神ならぬ身の人間には、制限がかかっています。どの程度現実を改変してどのように物理法則を書き換えることができるか、それを何度行えるかは、個人によって異なります」
「よくわからないが、具体的にはどうなるのであるか?」
「魔法を使うためには、あらかじめ魔法担当の天使と相談して、どのように現実を改変する魔法なのかを決めます。それを天使が創造神に申請します。許可が下りたら、その魔法が使用可能になり、同時に24時間内での最大使用回数も決まります」
「つまり?」
「許可制ですね」
「許可が下りるかどうかはどうやって決まるのであるか?」
「ボケ老……創造神の匙加減一つです」
「匙加減であるか……」
「この世界に貢献をしたり、神に信仰をささげるたり、神のお気に入りになったりすると、許可が下りやすくなります」
あのボケ老神の気分次第で決まるというのが困りものです。まあ転生者という時点で、大概の許可は下りますし、使用回数も多めになることが多いようです。
「使用するたびに申請する必要があるのであるか?」
「いいえ、一度申請して許可が下りれば、同じ魔法を使う限りにおいては、再申請の必要はありません。逆に、少しでも変更したり、1日の使用回数を増やそうと思ったりしたら、再申請が必要になります」
「魔法というより、お役所仕事的な感じなのである。
「ちなみに、普通の人は申請の度に大量のワイロ…ゲフン、お供えを創造神に捧げて許可を得ようとしますので、魔法は金持ちしか使えないものという認識になっていたりします」
「生臭い話なのである」
「それから、皆がよく使っている魔法なら、許可が下りやすくなります。そういうテンプレート的な魔法を『魔術』と呼び、魔術を主に使う人を『魔術師』と言います。逆に、オリジナルの魔法を申請すると許可の難易度が上がります。完全オリジナルの魔法の許可をもぎ取った人は、『魔導士』と呼ばれていますよ」
まあこんな仕様ですから、他人に魔導士の称号を名乗ると、わいろを大量に贈った金持ちか、ボケ老神好みのイケメンだって思われちゃうんですけどね!
「というわけで、さっそく魔法の設定をしてみましょう。どのような魔法が使いたいですか?」
「そうであるな……、ちなみにカノン殿は、吾輩がなぜ死んだのかご存じであるか?」
「記録によれば、子供をかばってトラックに轢かれたとか」
「そうである。トラックに轢かれそうな子供を見かけて、とっさに子供を突き飛ばして、トラックを吾輩の鍛えた筋肉で止めようと思ったのであるが、負けてしまってな」
「それは、なんというか、その、脳ki……アho……ゲフン、立派な最期でしたね」
なんで転生者はこんな人たちばっかりなんでしょうか?
「うむ、それでな、さすがの吾輩も筋肉に限界を感じて、来世では魔法を願ったというわけである」
「なるほど。では、願うのは身体強化魔法ですか?」
「いや、違うのである。あの時、もしもっと早く動けていれば、瞬間移動ができればと願ったのである。つまり使いたい魔法は、瞬間移動なのである!」
「よくある魔法ですが、現実改変量が多いので、難易度は高めですね」
長距離転移魔法となると、高額なワイロか、超イケメンじゃないと難しいです。いくら許可が下りやすい転生者でも、ハゲマッチョでは……。
「そんなに長距離は動けなくていいのである。視界の範囲内で動ければ御の字なのである」
「距離が短くて良いなら、許可が下りやすくなりますね」
「その代わり、瞬間的に発動できるようにしてほしいのである」
「その辺は発動トリガーの設定次第ですね。移動する重量はどうしますか?多いほど難易度が上がって使用回数が減ります」
「大いに越したことはないが、せいぜい自分と子供一人が運べれば十分なのである」
「他にはご要望はありますか?」
「要望はその程度なのである」
「承知いたしました。それでは、短距離テレポート、瞬時発動、移動量は術者の肉体とその他50㎏まで、転移先は視線の焦点が合っている地点、トリガーは指パッチン。こんな感じでよろしいでしょうか?」
「うむ、それで頼むのである」
ではこれでボケ老神に申請してみますか。
ホンジャマカホイっと!
「……許可が下りました。この程度の現実改変量でしたら、転生者特典で、ほぼ無制限で使い放題のようです」
「ありがたいのである。早速使ってみるのである!」
そう言うと、ハゲマッチョさんがいきなり消えたかと思うとバチンという雷鳴が鳴り響き、同時に10mほど前方の空間にボフンという突風と共に出現しました。
「成功ですね」
「それはいいのだが、なぜ大きな音がするのであるか?」
「あ~、それは転移のタイプを割り込み型にしたからですね」
「割り込み型?」
「えっと、目標地点の空間に、転移する目標の空間に割り込む形で転移します。出発地点では、真空が生じて瞬間的に空気が押し寄せてすごい雷鳴が鳴りますし、目標地点では押しのけられた空気が突風となります」
「なぜそのような処理をするのであるか?」
「ただ単に転移してしまうと、転移した物質と目標地点にある物質が重なり、核融合して大爆発します」
ハゲマッチョさんの質量が全部核融合したら、惑星全部が吹っ飛びかねません。
「転移魔法は恐ろしい魔法なのである」
「大丈夫です。過去にそのような転移事故が何度か起きたため、転移魔法にはセーフティが設定されまして、今では核融合が起きそうな魔法は許可が下りないようになっています」
「事故を防ぐためというのは理解できたが、音が鳴らないようにはならんのであるか? それから、発動条件が指パッチンであると、手に物を持っていた時に発動できないので、舌先で右奥歯を触ったときにしてほしいのである」
「それでは、空間入れ替え型で再申請しましょう。これなら、現在地点の空間と、目標地点の空間を入れ替えるだけなので、割り込みも真空も生じないので、音も鳴らないはずです」
修正して再申請。アジャポカホイっと。
「許可が下りました」
「試してみるのである」
そう言うと、今度は音もなく、瞬間的に5mほど前の空間に移動しました。
「成功ですね」
「うむ。ちなみに、目標地点に空気以外の固体があった場合はどうなるのであるか?」
「最初の空間割り込み型ですと、押しのけられて爆裂しますね。この空間入れ替え型なら、重なった部分が、転移前の空間に現れます」
「ふむ?」
ハゲマッチョさんは、ちょっと首をひねった後、近くの岩に向かって右手を差し出すと、ちょうど右手が岩に埋まるような位置に転移しました。
転移前の位置には、右手の形をした岩の破片がポロリと落ちます。
「なるほどであるな……、む、手が抜けないのである!」
それはそうでしょう。右手の周りをピッチリ岩が覆っているのですから、抜けないのは当たり前です。ひょうたんに手を突っ込んだ猿みたいですね。
「もう一度転移すれば良いじゃないですか」
「そうであったな」
「そういえば、目標地点に、モンスターとかがいた場合はどうなるのであるか?」
「あ~いわゆる『テレポート斬』ですか。防御無視で切断攻撃ができるので、転移者がそれで無双したり、死亡事故が多発したりした為、そのタイプの魔法は許可が下りなくなりました。今は目標地点に生物がいる場合には転移ができないようなセーフティがかかっています」
「それなら安心なのである。子供を助けに転移して、子供が真っ二つになったら笑い事ではすまないのである」
全くです。
「さて、それでは、魔法の使い方も分かったかと思いますので、私はこれで失礼いたしますね」
「うむ、助かったのである!」
その後、ハゲマッチョ転移魔法使いが有名になる……かと思いましたが、そんなことはありませんでした。
実は、試しに転移した時に出来た『右手の彫刻』が、非常にリアルで精密な彫刻だと評判になり、結構な値段で売れてしまったのです。
それ以後、一部地域で全裸のマッチョ男の彫刻が大量に出回るようになったとか。評論家によれば、鍛え上げた筋肉とポージングが素晴らしいとかなんとか。
つまり、半裸ハゲマッチョ変態紳士さんは、自分の彫像しか作らない全裸の禿マッチョ彫刻家、すなわち「ナルシスト全裸ハゲマッチョウ刻家」にクラスチェンジしたのでした!
どうしてこうなったのでしょう!?
名前 ビコーオ
年齢 0歳
職業 ナルシスト全裸ハゲマッチョウ刻家 元大魔導士
祝福 不老長寿 魔法の適正
財産 ブーメランパンツ




