第11話 ケンレン2:全裸アホカッパ湯けむり殺人事件
テコ入れの為の温泉回!(違う、そうじゃない)
「はい、こちらナーロッバ転生者コールセンター、担当のカノンです」
「こ……ろ……す……」
なにか思念がとぎれとぎれに伝わってきます。
どれどれ、画像には……!?
アホのSランク河童のケンレンさんが、全裸で倒れています!
急いで転生専用面談室に召喚&治療しないと!
ホアカバリキルマ!
「オイ、どうなっとるんや! 温泉に入ったら死んだぞ、ワシが!」
回復したとたん、ウザいエセ関西弁でクレームですか。
全裸で凄まれても、ちっとも怖くないですね。
「ええっと、状況がよくわからないのですが、とりあえず服をどうぞ」
「あ、これはご丁寧に……って、ちゃう! なんでワシは温泉で死んだんや!? 魔王の手下に暗殺でもされたんか?」
とりあえず気絶しただけで、死んでなかったわけですが、それはまあ良いことにしましょう。
「とりあえず、状況を説明していただけますか?」
「ワシは旅の途中、無性に温い風呂に入りたくなってやな。この世界じゃ、風呂は金持ちの贅沢品や。ワシなんぞめったに入れん」
「水を汲むのも大変ですし、お湯を沸かすための薪も高いですから、そうそう簡単には入れませんよね」
庶民はせいぜい冷たい水で行水か、タライのお湯で体をふく程度です。
「せや。そしたら、ある村の近くの山から、卵の腐ったような匂いがしたんや」
「ああ、硫黄の匂いですか」
「それや! こりゃ近くに温泉があるなと思って、鼻を頼りに森ん中入ってったら、窪地に湯気の出てる池を見つけてな」
「それで、確かめたら温泉だったと」
「せやせや。周囲に人の気配もなかったんで、ワシは服を脱いで温泉に飛び込んだんや。やや熱めやったが、肌寒い気温やったから丁度よかったわ。風もなく、穏やかな陽気で、最高の露天風呂やったわ~」
「それはよかったですね~。では満足されたようなので今日はこれで失礼を……」
「なんでやねん! 問題はこの後や! 気が付いたら、気が遠くなってな。慌ててカノンに念話したんだが、そのままワシは死んだんや! 誰がワシを殺したんや!?」
いやだから、死ぬ前に助けたわけですが……。
まあ要するに『全裸アホカッパ、湯けむり殺人未遂事件』ですね。対策本部でも立ち上げれば満足するのでしょうか?
「少々お待ちください、確認いたします」
過去ログ映像を確認する限りでは、温泉に入って、しばらくして気絶するように倒れています。村からは1kmぐらいの距離ですが、周囲に人影などはありません。
ふむ、心筋梗塞とか脳卒中などの急病が疑われますが……、あ~なるほど。
「原因がわかりました」
「今回はちょっと時間がかかったな。やっぱり魔王軍の手下が巧妙な手段で暗殺したんか?」
「いいえ、犯人は温泉でした」
「……意味が分からん!」
どこから説明したものでしょうか。
「ケンレン様が見つけた温泉、村から近いのに、村人が利用している形跡がありませんでしたよね?」
「せやな、そりゃ単に風呂に入るって習慣がなかったからやないのか?」
「ちょっとしたお金持ちならお風呂に入っていますから、お風呂に入る習慣自体はあるんですよ。適温のお湯が沸いていたら、普通は風呂として活用しますよね?」
「じゃあなんで使こうてなかったんや?」
「その温泉で村人が何人も死んだので、呪いの泉として誰も近づかなくなったんですよ」
「なんやて!? じゃあ、やっぱり魔王軍が呪いをかけてたんやな!?」
あいかわらずSランクさんは短絡的ですね。
「いいえ、違います。単に、温泉が毒だっただけです」
「どうゆうこっちゃ!?」
「今回の温泉は、卵の腐ったような臭いのする硫黄泉です」
「せやな」
「硫黄泉からは、卵の腐ったようなにおいのガス、すなわち硫化水素ガスが出ます」
「あの匂いは硫化水素が原因やったんか」
「そして、この硫化水素は、毒ガスなんですよ」
「なんやて!? いやでも、日本じゃ普通に硫黄泉に入っとったやんけ!」
「それは、きちんと管理して、ガスを換気していたからなんですよ」
「せやけど、密閉空間ならともかく、露天風呂ならガスは充満せんやろ」
「あの地形と天気が原因ですね。硫化水素ガスは、空気よりも重いため、下の方にたまります。あそこは窪地で、ただでさえガスがたまりやすい上に、あの日は晴天で無風状態。風で換気されることもなく、温泉の窪地に硫化水素が溜まっていたんです」
「そこにワシがノコノコ入ってしまったってわけやな」
「そうです。温泉につかって、顔の位置が水面近くになったとき、そこに溜まっていた硫化水素ガスを吸ってしまい……」
「死んだと」
気絶です。
「日本でもたまに起きる事故ですよ。高濃度ですと、まず嗅覚がやられますので、気が付かないうちに大量のガスを吸って気絶。発見が遅れてそのまま亡くなってしまう事例もあります」
「硫黄泉、恐ろしいな」
「硫黄泉の他に炭酸泉でも、二酸化炭素による窒息事故が起きています」
「日本じゃ温泉に気楽に入ってたけど、本当は大変だったんやな」
「そうですね、陰でたくさんの人の努力があって、初めて楽しめる物なんですよ」
「せやったんやな……。まあ、ここの温泉に入るんは諦めるわ。命あっての物種やからな」
「そうですね、それでは、送還しますので、気を付けて旅をお続け……」
「せやけど、風呂には入りたいんや! なんとかしたってや!」
わがままですね、このSランクさんは。しかし、どうしたものでしょうか。
「近くの川で、水浴びするのではだめですか?」
「寒くて風邪ひいてまうわ!」
「軟弱ですね~、カッパのくせに」
「カッパ言うなし!」
おっと、気が緩むと本音が出てしまうのは、私の悪い癖です。
「それでしたら、フィンランドのサウナ方式はいかがですか?」
「サウナ?」
「そうです。まず、テントを河原に立てておきます。次に焚火をして、河原の石を焼きます。チリチリに熱くなった石をテントの中に運び、それに川の水を掛ければ、蒸気が一気にでて、テントが簡易サウナになりますよ」
「ほうほう」
「サウナで体を温めたうえで、水を浴びれば、寒いどころか、爽快ですよ」
「ほうほうほうほう! よさそうやな、早速やってみるわ!」
「はい、それでは送還しますので、気をつけて旅をお続けください」
Sランクアホカッパさんが、さっそく河原でサウナを試しています。
毒ガスに懲りたのか、酸素供給能力のあるフェイスマスクをつけています。気持ちよさそうに、汗を流したり水に飛び込んだりしていますが、全裸にカッパマスク……、シュールです。
おや、村人が焚火の煙に気が付いて、確認しに来ました。
Sランクさんはサウナを堪能していて、村人に気が付いてませんね。
あ、気が付きました。
自分が全裸であることを思い出して、身体強化まで使って全力で逃げようとしています。
甲羅(重り)が無い状態でそんなことしたら、吹き飛んでしまうのに……。
ああ、言わんこっちゃない。空中でバランスを崩して、じたばたしてます。
あ、村人に縋りつきました。
……思わず村人を放り投げてしまったようですね。
このままだと罪のない村人が死ぬので、こっそり助けておきましょう。
その後この村では、川で遊ぶカッパに不用意に近づくと、相撲を取らされ、気が付くと吹き飛ばされるという伝説が生まれたとかなんとか。
河童が相撲好きという伝説は、「相撲はもともと神様に奉納するもの。カッパは水神様の落ちこぼれ。よって河童は相撲が好き」と言う連想らしいです。




