二人 今を生きる。
楽しもう!そう決めた二人、どこかに出掛けたいところなのだが……、残念ながら世の中は『ステイ・ホーム』、自粛の風が轟々と吹き荒れていた。
「え……、何そのステイ・ホームとやらは……」
夏菜子は映画見に行きたいな、と話しながら二人でパソコンに向ったのだが、ホームページに移ると、只今、当店は配送専門の文字が、書かれていたのに気がついた。
「あー、ちょっとウィルスが流行っててさぁ……、家に居ろなんだな……仕事も週1出社のテレワークなんだな……」
少しばかりバツが悪そうに話す夫。
「……、もう!用事も無いのにフラフラと、出歩いてたのね、そうでしょ、家に独りでいたくなかったんだ、わかるけどさ、気をつけなきゃ……、それで注文これでいい?」
ツケツケと話すと、ついでにお昼頼んじゃお、と言い出す。
「うん……うおお!食材!こんなに食べきれるかな、お昼?そうだな、デリバリー、混んでるかも、早目のがいいかもしんない」
「食べるのよ!ご飯粗末にすると、目玉が潰れるって、お婆ちゃんが言ってたわよ!お昼、帽子屋のビッグサイズにしようよぉ、良くチャレンジしたよねー、結局食べきれなくて、次の日温めて食べた」
「そうそう、でも難しんだな、レンチンだと生地がシナシナ、オーブンレンジだと焦げてカチカチ、え!ビッグサイズにしたら後始末は、僕だよ!目玉が潰れたらどうするの!」
懐かしそうに話した後、フフフン、潰れたら困るでしょ、勿体ないから食べてよね、とそれを注文した夏菜子。
――、やがて正午になり、注文のピザが届いた。二人仲良くそれを食べた。食べて食べて……しかしビッグのそれは強敵だった。当然ながら……
「夏菜子の意地悪、やっぱり残ったし」
「無理だったか、制覇が夢だったんだけど……残り、頑張ってね。あ!お洗濯乾いたら片さないと……、映画見たかったなぁ」
紙ナプキンで口元を拭いつつ話す二人。
「映画か……うー、あ!そうだ!日が暮れたら、ベランダで見ないか?」
「は?ベランダで?」
夫は、お家で過ごそうの中で、ベランダでピクニックをしたり、キャンプをしたり……そんな楽しみ方をしている事をテレビで見た事を思い出す。
「日中は日差しがキツイから画面飛んじゃって見えないけど、夜ならいけるよ、シートかなんか広げて、夕食はベランダで食べよう、タブレットで無料配信の映画とか見て……どう?」
「へぇ……面白そう、じゃ私洗濯物片付けて、あちこち残りのお掃除するから、晩ごはん作ってよ」
「はい?晩ごはん?」
「キャンプといえば男がご飯作るのが、カッコイイ!」
妻の一声で、食事作りは夫、セッティングは妻となった。
――、太陽の動きは時の動き、先に先に進んで行く。待ち構える別れの時を思わぬように、考えぬ様に楽しい事を話し笑う二人。
「映画って何があるの?面白いのが良いなぁ、それか……エロいのとか!」
洗濯物をあちこちに片付けながら、晩ごはん晩ごはん……、とメニューに悩む彼に話している彼女。
「はい!エロは禁止!」
「えー!どうして?いいじゃない、夫婦なんだし、恥ずかしい事無いじゃん、ね、ね、見るとき、シーツにくるまってってのをやりたぁぁい」
「はあ?ホラー見るの?それなら良いけど、晩ごはん……、キャンプといえばカレーだ、そういやレトルトカレーも買ったよな、それ温めたらよし!」
「てーぬーきー!はんたぁぁい!」
「ビザも温めたらよし!後はコンビニでなんか仕入れる!完璧!どうだ、男メシだ」
ドヤ顔で話す夫。二人して、子供の様にはしゃいでいる。
――、チッチッチッチッ……1秒が積み重なり、分になり時になる。積み重なり『今日』が過ぎていく。
……観葉植物の一つもあれば、雰囲気あるのに、枯らしちゃったんでしょ!とベランダに、しまい込んでいたキルトを広げ、折りたたみのテーブル、リビングのソファーからクッションを2つ並べたそこで、むくれている夏菜子。
空の蒼は茜色と混じり、淡い藤色が広がっている。黄昏の時。徐々に夜が近づいて来ている。
「あはは……すみません、枯らしました」
宣言通りに、カレーの皿を運びなから謝る。
「もう!ベランダガーデンに憧れてたの、忘れた?私と思って水をやるなり、話しかけてくれれば、良かったじゃん!」
「それは……ごめん、うん、じゃあ……ホームセンターで今度、君みたいなスタイルのいいの探す、そして毎日、愛してるって声かけて、触って、撫で回して、舐めるように可愛がる」
「やだぁ!エッチ!変態!コンビニの袋キッチンだよね、取ってくる、飲み物は重いから頼んまーす」
軽口を叩く、弾むように二人で笑う、このまま時が止まれば……と二人は儚く願う。
チッチッチッチッ……進む時。風が水を含んだ様に、冷たく吹く。
やがて空も何処も真っ暗になり、家々に灯りが灯る頃、乾杯!と二人の夕餉が始まった。他愛のない話をしながら、ありふれた食事を取る二人。テーブルの上にはタブレット、コメディ映画が映し出されている。
肩をあわせ寄り添いそれを見る二人。静かに夜は更けていく、笑い声がベランダで上がる。風が冷えてくる。温度が時の動きを伝える。
「もう、夜中だよね、寒くないか?」
寝室に行きタオルケットを手にしてきた夫。
「私は大丈夫だけど……一枚しかなかった?」
「ごめん、今は……、一枚しか置いてない、でもこうやって使えばいけるよ、ほら!」
フワっと、横に広げると、缶ビール片手に、座っている夏菜子の頭に被せた。
キャッ、ワワワ!と声を上げる彼女の横に腰を下ろす。モゾモゾと、空いている手でそれを持ち上げると、顔を出した夏菜子。
「もう!何するのよ、ビールこぼれちゃう」
「アハハ、ごめん」
笑いながら隣に腰を下ろし、タオルケットの端を掴むと広げる彼。二人して両端を握り左右に広げている。
小さな空間が生まれた。
顔が近い、甘く視線を絡ませた。そして……、
ごくごく自然にキスをした。
ん、と1秒、2秒。小鳥が啄む様な、フレンチなそれ。
予定より一話増えました。後二話で終わりますので、よろしくお願い申し上げます。