恵まれている
ジャンル別日間ランキングで4位になりました!!
感想や評価投稿をしてもらいとても嬉しい限りです!
今回はヒロインの柚木視点です!
どうぞこれからもこの作品をよろしくお願いします!
私は小さいころから『いい子』であることを強く求められてきた。
そして『いい子』でいれば両親に褒めてもらえた。
私は両親の喜ぶ顔が好きだった。だからたくさん努力して、たくさん結果を出した。
そしてそのうち何でもできることが当たり前になった。
周りの人たちやクラスメイト達からは「恵まれているね」とか「天才だね」という言葉で褒められてきた。
だけど、誰も「頑張ったね」という言葉をかけてくれなかった。
そして世の中には『本物の才』を持つ者がいる。
そんな人たちは私が努力に努力を重ねて手にした結果を、その才をもってして軽々と飛び越えていく。
その光景に『結果』を求められていた私は忸怩たる思いを抱かずにはいられなかった。
そして今度は勝つためにさらに『努力』を重ねて精進する。
そんな生活を長く続けてきた私はそれが当たり前となっていた。
♦ ♦ ♦ ♦
高校生になった私は充実した高校生活を送っていた。たくさんの友達はいるし、先生たちからの信頼もあるほうだと思う。そしてそれなりにモテる。
みんなからは「羨ましい」と言われる。
でも、それは楽しいものではなかった。充実していることと楽しいことは決してイコールではない。
高校一年生のある日の放課後。
私は先生に手伝いを頼まれて帰りが遅くなった。教室に置きっぱなしの鞄を取りに行こうと廊下を歩いていた。
そして、ある教室の前を通ったときに二人の男子の声が聞こえてきた。
教室をチラッと覗くとそこには平均的な顔立ちの男の子とイケメンな男の子がいた。
「颯真ってなんで彼女作らないんだ?」
「なんだ滝川、喧嘩売ってるなら買うぞ?」
「お前みたいな貧弱帰宅部に負けるほど俺は弱くないぞ」
数少ない会話からも分かるほど仲がいい二人だ。
放課後に教室に残って駄弁ることなど別に不思議なことではなかった。だが私はその光景を羨ましく思った。
この学校で私は人気者だ。みんなに頼られて、話しかけられる。でも、どこかみんなと私の間に距離を感じてしまっていた。
私は放課後に誰かと駄弁ったり、誰かと一緒に帰ったりしたことがない。
みんなに話しかけられている私は『いつも一人』だった。
だからだろうか、ドアに身を隠して二人の会話に耳を傾けてしまった。
「颯真、イケメンなのにな」
「そんなこと初めて言われたぞ。ほんとに思ってるのか?」
「ほんとに思ってるって。まぁ、あくまで俺から見たらだけど」
「保険入れたぞ!ここに保険屋がいるぞ!」
私が聞いているとは知らないタキガワ君とソーマ君は話を続ける。
「そう言えば、颯真は今日返ってきたテストの結果どうだった?」
「平均ぐらいかな?滝川は?」
「俺も同じくらいかな。それにしても相変わらず上位層は変わらずだったな」
この学校のテストの上位20人は名前と点数が張り出されるのだ。
タキガワ君が言っているのはそこに名前が乗っている人たちのことだろう。
「特に一位の南木柚木って名前は一番上にずっと居座ってるよな。天才はやっぱり違うな~」
タキガワ君は私のことを褒めていた。褒めてもらえることは別に悪い気はしない。
でも、その言葉を聞いて心のどこかで落胆していた。
他の人からしたら見えていないものを評価することはない。だけど見えていないからって何もしてないわけではない。
ただそれを認めてほしかっただけなのに...。
考えてもどうしようもないことだと割り切り教室に戻ろうと一歩踏み出した──
「別に天才だからってわけではないだろ」
──が、ソーマ君の言葉に足が止まる。
「どういう意味だ?」
「いや、確かに才能は存在するとは思うよ?でも、それって努力を必要とするものでしょ。努力のそのまた先へ行くために才能が必要ってだけでさ...」
彼の言葉が心にスッと入り込んでくる。
「そこまでにたどり着くまでの過程を否定しちゃいけないと思うんだよ」
「...何が言いたいんだ?」
何を伝えたいのかがわからないタキガワ君は問う。
「『天才』って言葉で『結果』を褒めるんじゃなくて、その人の『努力』を褒めるべきって話だよ」
私の中に、何かが突き刺さった。
「(あ、やばい)」
何故か泣きそうになった。私は必死に涙と声を抑える。でも抑えられないぐらいに嗚咽が出る。
自分で自分の感情が理解できない。こんなことは初めてだった。
「(どうして...)」
突然のことに困惑する。
そして涙と声を抑えながら、ようやく理解した。
「(...そっか、自分のこれまでを認められた気がしたんだ)」
私に向けての言葉じゃないけど、タキガワ君に向けて言われた言葉だったけど、そう思ったんだから仕方がないよね。
「さすがイケメンの言うことは奥が深いね~」
「絶対にバカにしてるよな!」
「してないって」
笑いながら駄弁っている二人の声が聞こえてくる。
私は泣きながらも、その胸に「ソーマ」という男の子の存在を刻んだ。
その後、走り去るようにその場を後にして教室に向かった。
「柚木、遅い~」
するとそこには、茶髪でショートカットのかわいらしい女の子──青木紗香がいた。
私に気が付いた彼女は頬を膨らまれながら睨んできている。全く怖くないのは本人には内緒だ。
「え、なんでまだ学校にいるの?」
「なんでって一緒に帰るために決まってるじゃん」
その言葉を聞いて私は驚きが隠せなかった。
「一緒に帰るって、私と?」
「柚木以外に誰がいるのよ」
呆れた表情で私のことを見てくる紗香。
でもまだ状況が理解できない私は狼狽えることしかできない。そしてそんな私の耳に紗香とは違う声が届く。
「もう教室に戻ってきてたの?無駄足だったじゃん」
教室のドアには黒髪ロングの女の子──杉本夏帆が立っていた。
紗香と夏帆とは同じクラスでいつも一緒にいる友達だ。
紗香だけでも驚いていたのに夏帆まで現れたことで私はもう訳が分からなくなった。
「あ、夏帆もいたの忘れてた」
「紗香が遅いから様子見てきてって頼んだんでしょ!」
「ごめんってば」
「どうして、私なんかと...?」
心の中に浮かんできた疑問を投げかける。
「どうしてって、一緒に帰りたいからだよ」
「そうそう、それに柚木なんかいつもどこか私たちに遠慮している感じだったし」
「この際に一気にその壁をぶち壊そう!って感じで」
笑いながらそう言う二人を見て、ずっと心の中にあった靄が晴れた気がした。
「(そっか、ずっと私自身が突き放してたんだ。自分で勝手に見切りをつけて、決めつけて...)」
──こんなにも歩み寄ってくれていたのに。
そう思ったら自然と笑えてきた。
そんな私を不思議そうな表情で見てくる二人。
「私も、一緒に帰りたい」
明日も柚木視点です!
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