デート
ジャンル別日間ランキング12位になることが出来ました!!
「ん~、おいしい!」
目の前で美味しそうにパフェを食べている南木さ...柚木を俺はコーヒー片手に眺めていた。
待ち合わせの場所を出た俺たちは今駅前にあるオシャレな喫茶店の窓際の席に座っている。
そう、いまだに移動していなかったのだ──いや、正確には駅前を一度離れたのだがまた舞い戻ってきたのだ。
駅前を出た俺たちはまず最初にどこに行こうかという話になり俺が昨日から考えていた候補を挙げた。
映画、ゲーセン、遊園地、とデートの場所としては一般的に挙げられている場所かつ、待ち合わせ場所からそれほど時間がかからないという点でもなかなかいい候補だったと自分でも思った。
そうして俺の考えた候補を挙げていく中で、昨日妹が言っていたことをふと思い出した。
手ほどきをしてもらっている最中に妹が、「そういえば駅前にできた新しい喫茶店のパフェがものすごく美味しいらしいよ」と言っていた。
せっかくだしと思い南木さんに候補の一つとして『喫茶店でパフェを食べる』ことも伝えてみた。
するとさっきまでどこにしようか悩んでいた柚木がピタッと止まった。急に止まった柚木を不思議に思い見てみると目をキラキラさせていた。
そんな柚木は俺に「それって駅前にあるやつ?」と聞かれたので頷くと、早足で来た道を戻っていった。
その際に俺の袖を引っ張りながら「早く行こっ!」と急かされたのだった。
そうして今の状況になったわけだが、彼女は本当に美味しそうに食べている。
彼女が食べているのは抹茶パフェで女性向けの商品であるためか、ボリュームは控えめだが抹茶とバニラのアイスが織り成す層が綺麗に形作られており、クリームをはじめとした白玉や小豆などが乗っており、和菓子が好きな人にたまらない一品だろう。
なかなか美味しそうであるため俺も頼めばよかったかもしれないと少しだけ後悔をしながらコーヒーを啜っている。
一口食べるごとに柚木の口から「ん~!」と幸せそうな声が漏れてくる。
「抹茶パフェは甘すぎなくてやっぱりおいしい!小豆とのバランスもいい感じだし来てよかった!」
「それはなによりで」
手が止まる様子がなく食べ進めていく柚木を見ていると不思議とこっちまで幸せな気分になってくる。コーヒーだけでもちょうどよかったかもしれないと思えるほどに。
そう思っているとてっぺん部分をすくったスプーンを俺の前に突き出している南木さん。
「どうしたの?」
「颯真君も一口どうかなって」
「いや、俺はいいかな」
俺の言葉を聞いて「そっか」と言って再びパフェと向き合う柚木。
なるべく恋人っぽい振る舞いをしているが間接キスはさすがにできないかな、なんて考えていると自然と視線が彼女の唇に吸い寄せられる。
そのことに自分で気が付きすぐに視線をずらした。幸い柚木はパフェに夢中になっており気が付いていなかった。
そのことに安心してホッとしていると、「颯真君、颯真君」と呼ばれたのでそちらに顔を向けると何かを口に突っ込まれた。
口の中に広がる冷たくてほんのり甘い味を堪能する暇もなく引き抜かれた『それ』に視線を奪われる。
いたずらが成功したような表情で『スプーン』を持っている彼女はとても嬉しそうだった。
「これで共犯だね!」
なんの!?というツッコミは恥ずかしさで口から出ることはなかった。
♦ ♦ ♦ ♦
喫茶店を後にした俺たちは並んで歩いていた。
「ほんとに美味しかったな~」
満足げに柚木はそう言う。
「そんなに気になってたなら何で行かなかったの?」
「いや、だってパフェなんて食べたら太っちゃうじゃん」
「今日だって食べたじゃん」
「知らないの?共犯者と一緒にいるならカロリーはゼロなんだよ!」
「何その謎理論!」
柚木による謎理論を聞きながらさっきのことを忘れようと努力するが余計に脳裏から離れない。何とか平静を保てているとは思うが顔が熱くなる。
そんな気持ちを抱えたまま次の目的地であるゲーセンに向かう。
店内に入り、一通り筐体を見てから何をするか悩んでいると柚木に袖を引っ張られる。
「ねぇ、あれしよ!」
指の先に見えているのは──
「プリクラ?」
「そう!」
されるがままプリクラコーナーまで移動して、彼女が選んだプリクラの筐体の中に入る。
硬貨を入れ、テキパキとプリクラの設定を済ませる柚木。
「どんなポーズで撮る?」
柚木がそんなことを聞いてきた。正直プリクラを撮った経験自体がなく、こういった時どうすればいいのかわからない。
すると目の前にある画面に例としてポーズが出ていることに気が付いた。
「そこに映ってるのと同じでいいんじゃない?」
画面を指してそう言う。柚木からの了承を得たので画面に映っている例通りにポーズをとり、数回の撮影が終わった。
...まぁ俺から言わせればようやく終わったといった感じだ。回数を重ねるごとにどんどん距離が近くなっていき最終的には頬と頬がくっつくほどの距離だった。
プリクラがこんなにも心臓に悪いものだったことに驚愕だ。
柚木は特段気にした様子もなくすぐに側面に移動して落書きを始めた。
俺は少し心を落ち着かせるために落書きは彼女に全部任せてある。
落書きが終わりプリントされたシールをプリクラコーナーに付属されていたはさみで切り分けて俺に渡してくれた。
そこに映っていたのはもは詐欺としか言えないほど美化された俺とあまり変化のない柚木だった。
整ってる顔の人は修正する必要なしってことか。さすがだな。それに引き換え俺はもはや別人である。
周りで、「プリクラは女子を化けさせる!」と男子たちが言っていた意味が理解できた気がする。これは化けるわ。
だが、横で嬉しそうにシールを見ている柚木を見ているとそんなこともちっぽけに思えてきた。
彼女も満足してくれたようで今日はここまでとなった。
今日を無事に乗り切れたことに一安心したのだった。
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