待ち合わせ
時間とは残酷なもので土曜日を迎えた。
しかも一歩外へ出ると綺麗に晴れ渡った青空が歓迎している。
もしもこれがどんよりとした雨とかだったら中止になっていたのでは、という叶わない考えを頭の隅の寄せる。
そして布団の中でまだゴロゴロしていたい気持ちを押し殺して待ち合わせをしている駅前へと向かう。
休日のお昼過ぎということもあり人通りが多い。
待ち合わせ場所に着いたがまだ南木さんは来ていないようだ。スマホの時間を見ると待ち合わせ時間よりも二十分以上も早く来てしまっていた。
待たせないようにと考えていたらこの有様だ。緊張しているのが丸わかりでなんだか恥ずかしくなってきた。
典型的な陰キャな行動だな、と落ち込んでいると、ふと近くにあるショーウィンドウに全身が映り込んでいる。
そこには入念とまではいかないが軽くセットしてある髪に、普段ならしないようなお洒落な服装。雰囲気だけならイケメンと言えなくもない自分が映っていた。
昨日、家に帰ってから妹に事情を話していろいろと手ほどきをしてもらった。もちろん服装は妹が抜粋したものを着ている。
今朝に最終確認をしてもらった時、「うん、これなら文句はないでしょう!」とお墨付きをもらえた。
ここまで妹に手伝ってもらったのだから頑張ろう、と覚悟を決めたその時。
「あれ、宇野君?」
ここ最近でよく聞くことの多かった声にビクッと体が反応してしまう。そしてぎこちなく顔を声がした方向に向けると、視線の先には南木さんがいた。
いつもの制服姿ではなく清楚なブラウスを身に纏っている美少女。
いつもと違う姿に新鮮味を感じる。しかも制服姿よりも格段に彼女の魅力が引き出されている。
現に通りすがる人たち、男女関係なく目を引かれているのがわかる。
「お、おはよう」
「おはよ。いつもと雰囲気違うから一瞬わかんなかったよ」
彼女は少し驚いたような顔をしていた。そしてすぐにニコッとして「似合ってるよ!」と微笑んできた。
いつもよりも強力な彼女の笑顔に一瞬見惚れるがすぐに我に返る。
「な、南木さんもすごく似合ってるよ!」
反撃とばかりに俺も彼女のことを褒める。
これは昨日妹から教えてもらったことだが、実際にとても似合っているため自然と言葉が出てきた。
俺の言葉を受け取り南木さんは毛先をクルクルと弄り照れながら「ありがとう」と呟く。
その姿を見て言った俺もなんだか照れ臭くなってきた。
この雰囲気を変えるために咳ばらいを一つする。
「じゃ、じゃ行こうか」
「そうだね」
前を向き歩き出そうとしたとき南木さんが思いだしたように声を上げた。
「そうだ!今日は私たちは恋人同士だからね!」
「え!?」
「デート予行練習なのに本番さながらにやらなきゃ意味ないでしょ?」
「そうだけどさ...」
「じゃあ、名前で呼んで!」
「はい!?」
「恋人なのに名前じゃないなんておかしいと思わない?」
「別に本当の恋人ってわけじゃないのに...」
南木さんに聞こえないような声でそう呟く。それは気恥ずかしさから出たものなのか照れ隠しなのか。
そんなことは目の前で『楽しそうに何かを待っている』彼女にしてみればどっちでもいいことなのだろう。
何を言っても聞きそうにないな。
はぁ、とため息を一つ吐く。
「わかったよ、柚木」
嬉しそうに微笑んでいる彼女を後ろに感じながら歩き出す。
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