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これが日常

お久しぶりの方、初めましての方

温かい目で見て下さい!

 男子高校生なら一度は夢に見たことはあるだろう。可愛くて優しい彼女が出来て、お昼ご飯を一緒に食べたり、一緒に帰る途中でどこかに寄り道をしていろいろな思い出を作って共有していく──そんな青い春に乗っている空想を。


 え、今までそんな経験したことあるのかって?えっと、二次元を含めると──あ、含めちゃダメですか。そうですか。...ゼロですけど何か?


 おほん、実際に高二になった俺もそんな淡い空想を描いていた一人である。だが一つ考えてほしい。それらは全て『両者の合意の上で』成り立っていると。


 両者の合意の上で恋人になり、両者の合意の上でお昼ご飯を一緒に食べて、両者の合意の上で一緒に帰り寄り道をする。


 何をそんな当たり前のことを言っているのだろうかと思う人もいるだろう。


 だが高校生という生き物はすぐに何事も恋愛に結び付けるというパッシブスキルを持っているのだ。何とも厄介だろうか。


 そんなパッシブスキルの被害者であるのが俺である。


 「ほら食べなってば。アーン」

 「だ、だから一人で食べられるって!」


 俺は一口サイズに切り分けられた卵焼きを箸で挟み俺の口元に運んで来ようとしている学園随一の美少女、南木柚木と対峙している。


 そんな光景を見てクラスのみんなはヒソヒソと小声で話し始める。


 「今日もまたやってるよ」

 「ほんと、どうして南木さんはあんな男子と付き合ってるのかな?」

 「きっと何か弱みでも握られてるんだよ」

 「南木さんかわいそう」


 もの凄く好き勝手に言われている。

 だがもし俺が第三者であるならば確実に首を縦に振っていることだろう。

 

 南木柚木なみきゆずき──その名前を聞くと次に連想される言葉は美少女という言葉だろう。


 特徴的な丁子色の髪は毎日の手入れが行き届いていることがわかるほど艶やかでサラサラとしている。白くきめ細やかな肌と整った鼻梁、長い睫毛に覆われた大きな瞳。


 可愛さと美人さの両方を兼ね備えている容姿と明るくて活発な性格も相まって男子からの人気を総取りにしているこの学校の美少女である。


 女子からは嫌われているか?と聞かれるとそんなことはない。誰とでも一定の距離感を保ち円滑に学校生活における交友関係を進めている。


 容姿端麗、成績優秀、頭脳明晰と、あらかたのスペックは常人のそれを逸脱している。


 対して俺──宇野颯真うのそうまという人間は、両親と二歳年下の妹との四人家族であり、容姿、性格ともに妹から「え、平凡という名の平凡?」と言われるほどの特徴のない人間。


 成績に関して人に自慢できる事といえば中学の成績が『オール3であったこと』ぐらいだ。成績表を両親に見せた日の夕飯には俺の好物ばかり出されたのはいい思い出となっている。


 ちなみにその時の両親は可哀想なものを見る目で見てきた。


 そんな人たちのこんなやり取りを見ていればそんな感想が生まれてもおかしくはない。

 だが俺は一つ言いたいことがある──別に俺は付き合っていない!!と。


 俺はとある事情でやむを得なく一緒に昼食を食べているだけなのだ。

 

 目の前の彼女に視線を送るとクラスメイトの言葉に反応している俺とは違い、彼女は慣れているのか、特段気にしている様子はない。


 それどころか俺の照れている反応を見て楽しいのだろう──もの凄くニコニコしながら箸を押し付けてくる。


 「いいの?彼女が欲しいんでしょ?」

 「ぐぬぬ」


 彼女の言葉に俺は押し黙るしかない。今の俺は彼女に決して勝てないのだ。

 俺は目の前にいる美少女から一人の男子生徒の方に視線を移す。


 その先にいたのはこちらを見てクスクス笑いを漏らしている生徒──滝川一誠たきがわいっせいだ。


 滝川は俺の高校で知り合った親友だ。普段は眠たそうにしているが整っている顔立ちと相まって女子たちからはミステリアスな雰囲気のイケメンとして認識されている。


 俺はそんなイケメンをこれでもかと睨みつけるがまったく気にしてない様子で笑っている。


 「私の言うこと聞いていれば彼女がすぐにできるって言ったでしょ?ほら、アーン」

 「で、でも...」

 「アーン」

 「...ア、アーン」


 結局俺の方が押し負けて食べさせられた。普通なら嬉しいはずがなぜだか悔しい。


 お昼休みが終わりに近づく。南木さんは俺とは違うクラスなのでお弁当箱を包み自分の教室に帰る支度をする。見慣れたその光景を「やっと今日も解放された!」という気持ちで眺める。


 彼女は支度が終わり「じゃあね」と言い教室を出る──と思いきやドアのところで振り返る。


 「あ、今日の放課後寄りたいところあるから迎えに来るね」

 「はへ?」


 突然のことで変な声が出てしまった。


 「お、俺に拒否権は...?」

 「ないよ!」


 満面の笑みでそう告げるとお昼休みの終了を告げるチャイムが鳴る。チャイムを聞き「じゃあ、また後でね~」と手をひらひらさせて教室を後にする彼女。


 そんな彼女を唖然とした表情で見送る俺の近くで笑いをこらえている滝川。すぐに滝川の方を向き不満を爆発させる。


 「だいたい、お前のせいでこうなってるんだからな!!」

 「分かってるって」

 「分かってない!だいたいな...」


 責める俺と笑いながらそれを躱す滝川、そんな光景を『また始まったよ』という感じで受け流しながら次の授業の準備を始めるクラスメイト。


 

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