第99話「悪意との対面」
真と樹はレジスタンス新聞の協力の下、逃亡の日々を送る。
既に国家機密を晒された事で弱みがなくなっていた黒杉内閣はレジスタンス新聞の社員及び関わった者たち全員を指名手配する暴挙に出る。
慎吾たちは一斉に逮捕され、国家反逆罪に問われていた。だがこの国家機密暴露を支持する者たちも相当な数がいたため、思うように裁判が進まなかった。そんな中、真と樹は同じくレジスタンス新聞に関わった京子と再会し、お互いの無事を喜び合っていた。
東京某所にて――。
近くには東京湾があり、海の上にはたくさんの船があり、陸上には多くのビルが立ち並んでいる。真たちは多くいる人々の中に紛れ込んでいた。
真たちはそこから船で小笠原諸島へ逃げようとしている最中であった。
「お久しぶりですね」
「そうですね。京子さんも無事で何よりです。えっと、これ京子さんから受け取ったUSBメモリです。返すのを忘れてました」
「ふふっ、返さなくても良い物でしたのに。まあ良いです。一応受け取っておきます。真さんとの良い思い出になりそうです」
「お前ら仲良いな」
「えへへ、京子さんとは戦友みたいなものですよ」
「戦友ですか――ふふっ、悪くないですね」
「今、黒杉家はどんな状況なんですか?」
「レジスタンス新聞の思惑通り、黒杉内閣は混乱状態に陥っていますし、アメリカもヨーロッパの国々も日本に対して警告を出しています。それで野党も反撃の狼煙を上げています。彼らは欲を出しすぎたのです。野党が選挙に勝利すれば婚活法も廃止されるでしょう」
「それは良かったです」
彼らが仲良く話していると、その周囲を複数人の警察官が取り囲み、その包囲網が段々と狭くなってくる。しかし真たちは気づかない。だが1人の警察官が半径10メートル以内に近づいたところで京子が警察官に気づく。
「真さん、樹さん、逃げますよ」
「えっ、どうしたんですか?」
「! 駄目です。囲まれています」
「ええっ!?」
真たちが周囲を見た時にはもはや逃げるスペースがなくなっており、あっという間の半径3メートル以内から複数人の警察官に囲まれる格好となる。
真たち3人は互いに背を向けながら警戒態勢に入る。
「八武崎真、並びに立花樹に黒杉京子、お前たちを国家反逆罪で逮捕する」
「何故ここが分かったのですか?」
「さっき船員にお前たちがここにいると教えてもらった。油断したな」
「――裏切られましたか。いつかそうなるとは思っていましたけど、仕方ありませんね」
「何か策があるんですか?」
「いえ、大人しく捕まるしかありません。この包囲網を突破するのはまず無理です」
「ですよねー」
全員が両手に手錠をはめられ、そのままパトカーで連行されていく。だが行き先は警察署ではなく、かつて事件があった総理官邸であった。
そこには政次が冷たい眼差しで真たちを見ながら立っており、パトカーが着くと共に3人が立ったまま政次の前に突きつけられる。
政次が京子のほっぺを思いっきりはたく音が周囲に響き渡る。京子は涙目になりながらも政次を獣のような目で激しく睨みつける。
「おいっ! 実の娘だろっ!? 何考えてんだっ!?」
政次は樹の怒鳴り声を意に介さず、彼を無視しながら再会した娘と睨み合いをする。
「これで満足?」
「私はお前の育て方を間違えた。しっかりと教育できなった私の罪だ」
「それは違います。京子さんは人々の幸せを第一に考えられる立派な人です。あなたが犯した罪は、日本中の多くの人を困らせ、絶望へと追いやった……失政です」
「お前が八武崎真か。引きこもりと聞いていたが、なかなかの面構えだ。お前が味方にいてくれれば結果は違っただろうに」
「お言葉を返すようですが、僕はあなたの味方にだけは絶対になれませんし、あなたに総理大臣を名乗る資格はありません。今すぐ辞任して法の裁きを受けるべきです」
「法の裁きを受けるのはお前たちだ。いや、この国では私こそが法律だ。八武崎真、お前はここで消えてもらう」
「「「!」」」
すると、政次が懐から銃を取り出して真に向ける。
「お父様、一体何をするつもりなの!?」
「こいつは私自らの手で始末する。こいつがネット上に国家機密を拡散したせいで、私がどれほど大変な目に遭ったかっ!」
「やめてっ! これ以上あたしから大切な人を奪わないでっ!」
「――なるほど、こいつは黒杉財閥の平穏ばかりか、娘の心まで奪っていたとは大した男だ。これでお前への僅かばかりの憐みも消え失せた。我々に逆らった事をあの世で後悔するんだな」
彼の手がトリガーを引こうとしたその時――。
「「「「「!」」」」」
「京子さんっ!」
銃弾が飛び出す瞬間、すぐ隣にいた京子が真に体当たりし、銃弾が京子の腹部に直撃する。患部からは血が流れ、政次は青ざめた顔となり、慌ただしく銃を落とす。
「――京子さん、しっかりしてください!」
「真……さん……約束は……守りましたよ。あなたを守る……約束を」
「京子さん、京子さあああああぁぁぁぁぁん! 誰かっ、誰か救急車を呼んでください! お願いしますっ! 死刑でも何でも受け入れますからっ! 彼女を助けてくださいっ! お願いしますっ!」
周囲の警察官たちが慌ただしくなる。その中でも特に良心的な警察官が倒れている京子のために救急車を呼ぶ。
「何故だ? 何故そんな男を庇う? そいつはこの国を混乱させた奴だというのに」
「仮にも政治リーダーをやってたくせに、そんな事も分からねえのかよ?」
「!」
「真は名前通り、良くも悪くも真っ直ぐな心を持った奴だ。自分よりも世の中の平和の事を考えられる純粋で優しい人間性が娘さんの心を掴んだんだよ。こんなに良い奴を引きこもりに追いやるような社会を作ってきたお前には、一生分からねえだろうけどな。おい、救急処置を施すから手錠を外せ」
「し、しかし」
「市民の命と財産を守るのが、警察の仕事じゃねえのか?」
「クッ……」
樹を不自由にしていた手錠が外される。すると彼は政次に向かって一直線に急接近する。
「!」
「この失政野郎っ!」
「ぐはっ!」
樹の渾身のストレートが政次の顔面にクリーンヒットする。周囲の人にはこれが国民たちの怒りの声を代弁しているかのように映っていた。政次は気絶するが、樹を取り押さえる者は誰1人いなかった。
樹はすぐに京子の救急処置を急いだ。
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