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第97話「革命前夜」

 真は悩んでいた。自分がこれから何をしようとしているのかを。


 できる事ならもっと一緒にいてあげたかったと思いながら窓の外を見つめる。3日後にはもう彼女と会えなくなってしまうかもしれない。そうなったら彼女は自分がいない時間をどう過ごすのかを考えていた。


「マコ君、何か言いたい事があるんじゃないの?」

「何で分かるの?」

「分かるよ。だってマコ君が何か言いたい時って、いつもそうやって目を逸らしてるもん」

「……スミちゃん、僕はこれから重大なプロジェクトがあるんだ。これを成功させるまでは会えない。どれくらい先になるかは分からない。でも待っていてほしいんだ」

「――何だかよく分からないけど、マコ君がそう言うならずっと待ってる。マコ君の事、信じてるから」

「スミちゃん……僕もスミちゃんの彼氏で良かった」

「!」


 菫が照れながら目を逸らす。


「マコ君、キスして」

「ふふっ、しょうがないなー」

「しょうがないの」


 2人は唇を重ねて再会を誓う。


「じゃあ僕、もう帰るね」

「マコ君、プロジェクト頑張ってね」

「うんっ!」


 真は返事をし終えるとそのまま病室から出ていき、ベッドに座る菫の笑顔を目に焼きつけ帰宅する。


 スミちゃんまで巻き込めない。スミちゃんにはいつか本当の事を話そうと思う。でも今は黒杉内閣を倒すためにも、みんなを失政から救うためにも――頑張らないと。


 彼はしばらくの間、菫の事を忘れる覚悟を決める。


 USBメモリから国家機密を取り出すと、それをブログの記事作成画面に張りつけ、2日後の夜を迎えるまで長文の記事を書き続ける。改稿も何度か繰り返した。なるべく多くの人の目に届くように工夫を凝らしてから予約投稿をする。


 念のためUSBメモリにも記事のデータを残すと、真はホッと胸をなで下ろす。これで後は投稿をするのみとなった。


 真は記事の作成ができた事を慎吾に伝える。


 その頃、とある廃ビルにて。


「八武崎真が国家機密の記事を作成したそうだ」

「やりましたねー。今すぐ投稿してほしいですけどねー」

「まあ待て、実を言うとな、金曜日の8時には市民団体が国会議事堂の前でデモを行う予定だ」

「じゃあ、このデモの時間に合わせて投稿するって事ですか?」

「そうだ。でもの最中に国家機密が漏れれば、デモはさらに激化し、うまくいけば暴動になってくれる可能性もある。そうなれば記事の消去に時間を割いている暇はなくなるという事だ。しかもその記事をデモ隊が拡散してくれさえすれば、元の記事が消去されたとしても手遅れだ。外国の政府にまでこの情報が届けば、アメリカも日本に対して警告を出さざるを得なくなる」

「でもアメリカって、確か日本の核武装に賛成していましたよ」

「そこは心配ない。日本が第二次大戦の報復をしようとしているという記事をばらまくんだ。それでアメリカ国民が騒げば、さすがに大統領も動かざるを得なくなる」

「なるほど、さすが赤羽さん」


 ガチャ


 長い金髪をなびかせながら京子が入ってくる。


「準備はできたのですか?」

「ああ、明日のデモの時間に合わせて投稿する予定だ」

「赤羽さん、何故黒杉京子がここに?」

「彼女こそ、レジスタンス新聞のスパイだからだ」

「「「「「ええっ!」」」」」


 ざわざわざわざわ


 部屋中がざわめき、誰もが京子の顔を呆気に取られた顔で見つめる。


「敵を騙すにはまず味方からって言うだろ」

「でもここへきて良いんですか?」

「ここへ来たという事は、彼女がスパイだという事が奴らにばれたという事だ」

「今頃はお父様たちもキレてるでしょうね」

「黒杉京子はしばらくの間、うちで預かる事にする。彼女に対して思う事もあるだろうが、彼女はずっと水面下で俺たちに協力してくれていたのだから、むげに扱う事は許さん。良いな?」

「は、はい」

「よし、明日に備えて今日はもう寝るぞ」

「ここでですか?」

「俺たちの自宅はどこも抑えられている。ここが気に入らないなら、外に停めてあるお前の高級車の中で寝るんだな」

「そうします。じいやもこちら側の人間ですのでご安心を」


 彼女はそう言い残すと、ハイヒールを鳴らしながら高級車へと戻っていく。


「お嬢様、本当によろしかったのですか?」

「今更悔いても仕方ないでしょ。遅かれ早かれ、黒杉内閣の計画は漏れていたでしょうし、それが今だっただけの事。じいやも娘さんを居酒屋黒杉での過労で亡くしているのだから、情けをかける必要はないと思うけど」

「……娘はとても優しい子でしたので、争いは望んでいないかと」

「このままお父様たちを放置すれば、また娘さんのような人が出てくる。それを防ぐためにも、黒杉家に塗れた血を洗い流し、清く正しく清算する必要があるのだから、娘さんの二の舞を防ぐためにも、最後まで協力してちょうだい」

「はい、お嬢様」


 眼鏡をかけ、白い髭を蓄えている執事が首から下げているペンダントを開けると、そこには執事の娘と思われる女性が微笑んでいる写真があり、彼はそれを悲しそうに見つめている。


 彼の恨みはとっくの昔に気力と共に消え失せていた。


 だがこれ以上娘と同じ人が出てくる事も防ぎたい気持ちもあった。


 彼はそんな気持ちをひた隠しながら社内で一夜を過ごすのだった。

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