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第92話「一夜明けて」

 奏は菫の滞在を知りながらもそのまま家へ上がり風呂に入る。


 彼女は夜遅くまで飲んでいたが、家に着く頃には酔いが醒めていた。


 今日はスミちゃんが来ているのか――という事は、仲直りしたんだな。スミちゃんとよりを戻してくれて本当に良かった。一時はどうなるかと思ったけど、結果オーライだな。


 奏はそんな事を考えながら、安心したようにパジャマに着替え2階へと上がり、そのまま電池が切れたかのように眠りに就くのだった。


 翌日――。


「昨晩はお楽しみだったな」

「うわっ! 姉さんっ! あれっ、スミちゃんは?」

「スミちゃんならもう帰ったぞ。いつもより肌がつやつやしてて凄く機嫌が良かったけど、こういう事だったんだなぁー」


 ベッドのシーツがぐっしょりと濡れており、真はパジャマも着ないでベッドの上に座っている。彼は奏に気づくと慌ててパジャマを着るがもう時既に遅し。


「ベッド……汚しちゃってごめん」

「あたしは責めてるんじゃないぞ。むしろ真も成長したなって感心してるんだよ。ベッドのシーツならいつでも取り換えできるから大丈夫だ。でもまさか……真に先を越されるとはな」

「もうその話はやめてよぉ~。仕掛けてきたのはスミちゃんだし……」

「へぇ~、あいつにそんな積極性があったとはなー。今度スミちゃんに会った時に見直したって伝えておかないとな」

「いやいや、伝えない方が良いよ。一緒に寝ただけだからっ!」

「ふふっ、分かってるよ。ついに恋人になったんだな」

「……うん」


 真は視線を逸らしながら赤面する。


 午後12時、着替えを済ませた真が奏と共に昼食を取る。


 机には米、味噌汁、野菜の漬物、卵焼き、サバの塩焼き、ひじき豆が2食分置かれている。2人は食事をしながらこれからの方針を語る。


 それは2人にとって重大な話であった。


「真、スミちゃんの事だけどさ、恋人同士になった今、婚活イベントに参加しづらいんじゃないか?」

「……それはそうだけど、法律だから行かないと」

「面倒だよな。そこで誰かに声をかけられる度に、恋人がいると言って断らないといけない。真はともかく、スミちゃんがそれに耐え続けられると思うか?」

「黒杉内閣が言うには、恋人である内は結婚する保証がないから、それで婚活イベントに行かないといけないみたいだよ」

「そうじゃない。スミちゃんは凄くモテる子だし、あの子は男性恐怖症だ。そんなスミちゃんが男たちに声をかけ続けられたらどうなる?」

「……きっと辛いと思う。僕は声をかけられる事がないから全然気づかなかったけど、モテる人はモテる人で辛いんだよね」

「それを分かってるならさ、結婚してやったらどうだ?」

「けっ! 結婚っ! いやいやいやいや無理無理無理無理!」


 真は咄嗟に手の平と首を同時に横に振りながら全力で拒否の意を示す。


 彼にとって結婚は重大な意味を持っていた。結婚すれば一生面倒を見ないといけない。ただでさえ面倒を見てもらう立場である真にとっては荷が重すぎると感じた。とても受け入れられるものではない。菫のパートナーとして自分が相応しいのかも大いに疑問である。


「スミちゃんが結婚したいって言ってきたらどうするんだよ?」

「その時はその時に考えるよ」

「どーだか。あたしはあっさり受け入れると見た」

「スミちゃんだって結婚を軽く考えてないと思うよ。僕としてはスミちゃんの気持ちを第一に考えたいから、スミちゃん次第かな」

「また女から言わせる気か?」

「性別は関係ないよ。ていうか何でスミちゃんの方から告白したって分かったの?」

「真は自分から仕掛けたりしないだろ」

「……何で結婚なんてしないといけないんだろう」

「……」


 空しくも会話が途切れてしまう。婚活法に対する疑問がますます増していくばかりであった。真は食事を終えると部屋へと戻り、パソコンで作業を始める。


 奏は休日であった事もあり、1階でテレビを見ている。


「!」


 そこには信じられない光景があった。緊急ニュースで国会議事堂の外側が爆破され、黒い煙がモクモクと出ており、その下からは炎がメラメラと燃えている事がニュースになっていたのだ。


 黒杉内閣は対応を迫られていた。テレビの前では政次が直々にテレビに出演をしており、この爆破事件の釈明をしているところであった。


 彼の前には大勢の記者たちが集まっており、政次は我先にとスクープを狙うためのフラッシュを常に浴び続けながら深刻な顔でマイクの前に立っていた。


『今回の事件も間違いなく組織ぐるみのテロです。今は政府が総力を挙げて犯人を捜している最中であります。国民の皆さん、私たちはテロとの戦いに断じて屈してはいけません。今こそ我々が力を合わせ、結束をする時です』


 なーにが結束をする時だよ。散々失政を働いたからそうなったんだろ。


 むしろみんなあんたらを倒すために結束してると思うぞ。せめて婚活法をなくしてくれれば、同情くらいはしてやれるんだけどな。


『今回の事件もレジスタンス新聞によるものなんでしょうか?』

『それは詳しく調べるまで分かりません。今は国会議事堂の修復に努め、一刻も早くテロ対策を講じるべきです』


 あんたらがこの国を蝕み、大勢の人々に多大な迷惑をかけたテロ内閣だろ。あれは明らかにレジスタンス新聞の仕業だ。それをぼかすって事は、やはり弱みを握られていると見て間違いない。爆破するのはどうかと思うが、これでもう簡単に失政はできなくなった。


 奏はそんな事を考えながらテレビを消した。彼女もまた、黒杉財閥に対する嫌悪の気持ちを心の内に秘めていたのだ。


 歴史を揺るがす出来事がもう寸前であるとも知らずに。

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