表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/100

第9話「恋愛観の差」

 真はパジャマ姿のまま記事を書き動画を編集している。


 奏は風呂から上がった後、ドライヤーで髪を乾かした後で2階へ上がってくる。


 この時にはもう午後10時を過ぎていたが、奏は家事のためにずっと1階にいたのだ。


 彼女は翌日の婚活イベントの参考にしようと今日の出来事を真に聞くため、いつものようにノックもせずに真の部屋に入る――。


「まことー、婚活イベントがどんなもんだったか教えてくれない?」

「僕、ずっと端っこにいたから、あんまり分からないんだよね」


 真がノックしない事を咎めず質問に答えるが、彼はしょうがないと思いながらノックしない姉に逆らう事を諦めたのだ。


「そうじゃなくて、どんな形式だったの?」

「――まるで回転寿司みたいに1人1分ずつ話した後、立食パーティしながらのフリートークが30分だったけど、収穫はスミちゃんと立花さんと再会した事くらいかなー」

「ふーん。ふわぁ、あたしもう寝るわ。おやすみ」

「うん、おやすみ」


 奏は自分の部屋へと戻り、スマホでマリブラのホームページを開き予定を確認する。


 奏の部屋は真と同様にパソコンとゲームとベッドがあり、その全てが色違いである。マンガ本の他、料理本がたくさん本棚に並べられている。


「明日は午後3時からか――」


 奏はスマホの目覚まし機能を予定時間にセットすると、充電器にスマホを立てかけ電気を消し、可愛いふわふわのベッドで就寝する。真は日が変わるまでずっと記事の作成と動画の編集をしている。普段の2人の起きている時間帯には若干の差がある。


 真は奏の不在時や就寝時には動画サイトで『生放送』をする。


 顔出しはせずに声だけであり、内容は雑談かゲームである。常連視聴者が100人を超える程度で影響力はない。


 婚活法が施行されてからは真もコメントも婚活法の話題が絶えない。


 真は2時間程度常連視聴者たちと話すと、朝起きるのが早かったのかそのまま就寝する――。


 翌日、奏は昼食を済ませると、いつも昼頃まで寝ている真のために定食に蓋をしてから外へ出る。パジャマから私服に着替えると、電車で東京都内にある会場まで赴く。


 午後2時50分、奏はマリッジブライド傘下の会場へと辿り着く。


 受付で登録を済ませると会場まで案内される。


 会場には背が高めで座る者を囲むように設計された黒い個室のような椅子が複数個あり、奏は初参加のためスマホのプロフィールカードに書き込んでいく。


 そこへ派手な私服姿をした見覚えのある顔がやってくる。


「あっ、奏さん!」

「真凛! ――来てたのか?」

「……はい。ここしか余りがなかったんで。まっ、最初なんで練習ですよ」


 真凛は少し困った顔で答えると、頭の後ろに両手を当てながら愛想笑いをする。


 奏はここで顔がムッとなるが真凛は気づかない。奏にとっては本気の婚活だが真凛にとっては練習という『価値観の差』に違和感を感じたのだ。


「なあ真凛、相手の男が真剣でも練習って言うのか?」

「相手は三低男性ですよ。はなっから対象外の相手で人慣れしておいて、本命を相手に練習の成果を発揮するんです。こんなの当たり前じゃないですかぁ~。それにどんな目的だろうとその人の勝手だと思いますけど」

「それはそうだけど、あまりにも不誠実すぎる」

「だったら奏さんはどうなんですか?」

「えっ?」


 奏は真凛から唐突に質問されて焦る。


「結婚できるのはたった1人ですよ。そのたった1人を三低男性の中から選ぶんですか?」


 真凛は冷たい声になりながら真顔で真意を聞く。


「――そう言われてもな、結局は愛情を持てるかどうかだろ? 年収とかで相手を選ぶのって、相手の事を商品としか思ってないみたいで冷たい感じがするんだよなー」

「甘いですよ。男だって表面上は優しくても、心底では女の事を性欲を満たす道具だと思ってるような人はうじゃうじゃいるんです。だから愛情よりも結婚した後の生活を優先するべきなんですよ。そうなると当然どれだけ稼いでいるかですよ。あなたも本気なんでしょうけど私も本気なんです。こんな事も分からないなんて、もしかして男性とつき合った事ないんですか?」

「! なくて悪いか?」


 奏はしかめっ面のまま正直に答えるのが精一杯だった。


 彼女もまた、真と同様に異性とつき合った経験がなく、こと恋愛に関しては経験値ゼロのまっさらな人間なのだ。


「ふっ」


 真凛が奏を鼻で笑いながら後ろを向き歩きだそうとする。


「おいっ! 何がおかしいんだよ!?」

「もう30歳なのに恋愛経験なしって――終わってますよ、それ」

「!」


 真凛が優越感を示すように後姿のまま捨て台詞を言い残すと、かかとの高いヒールで闊歩をして去っていく。


 あたしが間違っているのか? あいつの言う事は気に食わないけど……合理的ではある。


 奏はそんな事を考えながら落ち込みうつむく。


「――どうかしましたか?」

「! あっ! いえ、大丈夫です」


 声をかけてきたのは20代後半くらいの男だった。


「私の席ここみたいなんで」

「そうでしたか」


 男はそう言って奏の隣の席に着く。


「それでは、今から三低男性限定編を開始いたします。今回は男性20人と女性20人が参加していただきました。まずは目の前に座られている異性の方と3分間話していただき、終わりましたら男性の方は次の個室へと移動してください。それではスタートです」


 婚活パーティがスタートすると急に周囲が騒がしくなる。


 奏は緊張しながらも目の前の男と話す事になるのだった。

純情な彼女と現実主義者のぶつかり合いを書いてみました。

気に入っていただけたらブクマや評価もお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ