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第89話「呪縛からの解放」

 真と京子との間でしばらくの間沈黙が続く。


 菫と会う約束の時間が段々と迫ってくる。だがこの問題を解決しない事には動きたくても動けない。真は誰ともカップリングしていない状態で菫と再会したかったのだ。


 京子は迷っていた。カップリングを維持すれば自らの独りよがりによって真を苦しめる事になり、カップリングを解除すれば真に対する『真実の愛』を証明できる代わりに彼を手放す事となる。


 彼女には真の意図がすぐに分かった。


 どちらも京子にとってはあまりにも苦しすぎる決断であった。


「……分かりました」


 真は固唾を飲み、彼女の決断の答えを心待ちにする。額からは汗をかき、心臓をバクバクさせながら祈りをささげるしかなかった。


「スマホを出してください。カップリングを解除しましょう」

「――本当……ですか?」

「はい。不本意ですけど」


 彼女はそう言うとスマホからマリブラのホームページを開き、カップリング解除の手続きをする。真も同様の手続きをし、2人の間にあった『悪魔の契約』とも言えるカップリングはようやく解除された。


「残念です。この歳になってやっと愛というものを知ったというのに、それを教えてくれた本人に振られたんですから」

「京子さん」

「あたしを憐れむのはやめてください。それと……今までずっと辛い思いをさせて申し訳ありませんでした。あなたとはもう会いたくもありません。さっさと出ていってください。お願いですから、もう二度とあたしの前に姿を現さないでください」

「は、はい――お世話になりました」


 真は一礼を済ませると、脱出をするような感覚でそそくさに京子の家から出る。


 京子はずっと後ろを向いていたため、真は彼女が泣いていた事に気づかない。


 真が菫へのメールで京子の事に一切触れなかったのは彼女への配慮である。だがそれが中途半端なメールであったために相手にされなかった事を知った彼は一切の配慮を断ち切るべく、この行動へと移したのであった。


 彼はようやくカップリングという名の呪縛から解放された。


 これで心置きなく菫と再会できると思った彼は真っ直ぐ菫との待ち合わせ場所であるショッピングモール内にあるカフェへと向かう。


 この時、時計は既に12時を回っていた。菫と会う約束の時間である。


 真はメールで少し遅れる事を菫に伝えてから再び走りだす。


 今度はちゃんと伝える。あの時説明できなかった事、今までずっと、そして今もスミちゃんに対して持っている気持ちの事、必ず伝えてみせるっ!


 午後12時30分頃、真はようやく待ち合わせのカフェへと辿り着く。


「もうっ! マコ君遅いっ!」

「ご、ごめんね。どうしても外せない用事があったから」

「どんな用事?」


 菫は不機嫌そうに久しぶりに会った幼馴染を問いただす。


「さっきまで京子さんの家にいたんだ」

「! まさかカップリングした相手の家っ!? じゃあ、あんな事やこんな事まで」

「いやいやっ、怪しい事は何もしてないからっ! 実はね、さっき京子さんとカップリングを解除してもらったんだよね」

「カップリング解除?」

「うん、ずっと京子さんに半ば強引にカップリングさせられてたんだ」

「……強引にカップリング?」


 真は今までにあった事を全て自供する。そこにはもう誤魔化そうとする真の姿はない。まっすく向き合おうとするその姿に菫は感心する。


 そして菫とちゃんと話そうとカップリングを半ば強引に解除した事も話す。


「やっぱり強制的だったんだ」

「えっ、知ってたの?」

「あの時は知らなかったけど、よくよく考えたら、マコ君があんな美人さんにモテるはずがないって思ったんだよね」

「そういう言い方されると、何だか傷つくなー」

「ふふっ、ごめんごめん。でもマコ君が私の事を裏切ったわけじゃないって事はよくわかったから安心して。マコ君……ごめんなさいっ! ずっとマコ君の事を誤解して、酷い振り方をして、勝手に連絡を絶ってしまって。私……私っ――」

「!」


 気がつくと真が菫の頭を持ち、2人の唇が重なっている。


 菫は突然のキスに我を取り戻す。この柔らかい感触に、真はスカイツリーでデートをしたことを思い出して赤面しながら微笑む。


 菫もまた、彼につられて赤面する。


「もう良いんだよ。僕も不可抗力とはいえ、デートをドタキャンしたり、誤解させるような状況に導いてしまってごめんなさい。スミちゃんを傷つけてしまった事は凄く反省してる。でも今の僕はフリーだから安心してね」

「――カップリングくらいどうって事ないよ。私、ちょっとカップリングというものを深刻に捉えすぎてたと思う。今は少し考えが変わって、お試し目的のカップリングくらいなら別に良いって思えるようになったから安心してね」

「そんな事しないよ」

「どうして?」

「スミちゃんを裏切りたくないから」

「!」


 真はつい本音を言ってしまう。もうこの時点で菫一筋であると言っているようなものだと彼は気づかなかったが、しっかりとその想いを理解していた菫はようやく決心がついた。


「じゃあ、もうこれで仲直りって事で良いのかな?」

「うん、良いよ。今回はお互い様って事で」

「ふぅ、やっと胸のつっかえが取れたよ」

「大袈裟だなー。私はマコ君が来てくれた時点でつっかえなんてとっくに取れてたよ」

「じゃあスミちゃんもさっきまでつっかえがあったんだね」

「マコ君が遅刻するからだよ」

「えへへ」


 真が誤魔化すように笑い、料理を注文しようと手を上げる。


「えっ!」


 突然、菫が真の上げようとする手を取り注文を取りやめて菫の顔を見る。菫の顔は赤くなっており、今にも何か言いたそうに真を見つめている。


「スミちゃん、どうしたの?」

「マコ君、どうしても伝えたい事事があるの」

「伝えたい事?」


 菫は雌の顔をしながら目を下に逸らすと、何かを覚悟したように再び真を見つめる。


 彼女による一世一代の決断がもうそこに迫っていた。

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