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第87話「運命の決断」

 樹は足音も立てずに会場の端っこへと移動しながらスマホと睨めっこをする。


 放っておいたとしても何も問題はない。だが彼は放っておけなかった。このまま2人が本当の離れ離れになってしまう事を。


 菫の心は揺らいでいる。事実上の交際相手を失ってから時間が経ち段々と1人でいる事に慣れつつあった彼女はお試しのカップリングをしようかどうかで迷っている。今までは真剣交際の相手という意味でカップリングという言葉を用いていたが、彼女は真とカップリングは一度もしていない。


 菫はあれほど仲が良かった真とはカップリングをせず、再会したばかりの相手とはカップリングしようとする自己矛盾に陥っていた。


『突然で悪い。長月さんが元同級生とカップリングしようとしてるぞ』

『ええっ!? どういうことですかっ!?』

『そのまんまの意味だよ。このまんまだとカップリングしちまうぞ』

『阻止してくださいと言ったらしてくれますか?』

『それはお前がすべき事だろ。そこまでやんねえよ。まだ長月のメアド残ってんなら、彼女にメールしてみたらどうだ? 本当に別れても良いんならもう何も言わねえけど』

『……少し考えさせてください』

『あと30分でカップリング発表だからな』

『はい。ありがとうございます』


 ――何で俺こんな事やってんだ?


 でも真に何にも知らせなかったら、俺が後悔していた気がする。いや、1番後悔していたのは真だったかもな。


「立花さん――」


 菫が樹に迷いに満ちた顔で話しかける。


 助けを求めている事を樹は察するが、あえて彼女を助ける事はせず、決断をさせる事にだけ尽力すると彼は決めた。


「カップリングするかどうかで迷ってんだろ?」

「……はい」

「俺は部外者だからどっちを選ぼうと知ったこっちゃねえ。でもな、これだけ言わせてくれ。


 菫は固唾を飲み、次に何を言われるのかを気にしながら口を開く。


「何ですか?」

「どっちを選ぶにしろ、悔いのない道を選んでほしい。じゃないと一生に渡って、それが君の人生に大きな影を落とす事になる。カップリングするなら、真の事は奇麗さっぱり忘れる覚悟をする事だな」

「!」


 菫が今までにそんな思い決断を突きつけられる事はなかった。だが別れるからにはそこまでの覚悟がなければお互いの心に遺恨が残る。


 それは彼女もすぐに理解できた。だがそんな覚悟があるのかと言われれば話は別だ。菫はどんなに頑張っても真を忘れられなかった。むしろ真への想いは日に日に増していくばかり。ずっと一緒にいられない時間が彼女の後悔を一層膨らませる。


「……少し考えさせてください」


 真と同じ答えか。やっぱこいつら似てるな。


 ここまでお似合いの2人を別れさせるのも俺としては度し難い。でも最終的には本人たちが話し合って決めるべきだろう。


 樹はそんな事を考えながら2人を見守る。


 樹は奏と違う大学へ行く事が決まった時、一度も会う事なく奏とは事実上別れた格好となった。だがその時に樹は奏に伝えたい想いがあった。だが男としてのプライドに固執した結果、婚活法によって再び真と再会するまでは後悔の念が残っていた。


 彼女にまでそんな思いはさせたくない。その思いが樹をこの行動へと駆り立てたのだ。


 まるで過去の自分に語りかけ背中を押すように。


 そして立食パーティが終了し、カップリングをしたい相手を決めるための休憩時間がやってくる。カップリングしたい相手を選ばなかった場合はカップリングしないを選んだものと見なされる。


 その時間は僅か10分、この間に決断する事を菫は強いられていた。


 また一刻、また一刻と時間だけが過ぎていく。


 いつ別れても良いんならカップリングも悪くないかもしれない。だがそうした場合、彼女も真の事を忘れなければならない。彼女も真が他の女とカップリングした事を責めたのだから、それくらいの事はしなければ自己矛盾で崩壊しかねないのだ。


 残り時間が1分を切ったその時だった。


「!」


 菫のスマホが鳴り、彼女がすぐそれに反応する。まさかと思った相手からのメールだった。


『スミちゃん、一度会ってほしい。ちゃんと話し合いたい。今度の日曜日に全てを話すから。僕はスミちゃんを裏切ろうと思った事はないよ。だからお願いっ!』


 菫はすぐに返信をする。


『言うのが遅いっ!』


 彼女はふと、安心したような笑みを浮かべると、そのまま立食パーティをしていた2時間よりもずっと長く感じた10分の休憩時間が終わりを告げる。


「それでは休憩時間が終了しましたので、ここからは結果発表とさせていただきます。結婚したくない人限定編ですので、カップリングはないかと思われましたが、何とっ、1組のカップルが誕生いたしましたっ!」

「「「「「!」」」」」


 カップル誕生に会場にいるほぼ全員がどよめく。無理もない。結婚したくない人限定編では文字通り結婚を望まない人だけが参加していたはずであると誰もが信じていた。樹の脳裏には真っ先に嫌な予感が浮かぶ。


「それでは拍手の準備はよろしいでしょうか。それでは番号を発表します。男性番号18番、女性番号24番の方です。おめでとうございます」


 会場中からカップル誕生を祝福する拍手が鳴り響く。


 そこには明人の姿があり、彼は満面の笑みで喜びを噛みしめるのだった。

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