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第82話「沈黙の日々」

 真が2階から降りてくると、キッチンのそばにある食卓には定食セットが揃っている。


 米、味噌汁、野菜の漬物、焼き魚、黒豚の角煮、ひじき豆がある。奏が真の好物である黒豚の角煮を用意する時は彼の口が軽くなる。


「うわぁ、黒豚の角煮だー」


 真がさっきまでとは打って変わって嬉しそうな表情になる。


「いただきまーす」


 真は最初に野菜の漬物を食べてから黒豚の角煮を食べる。


「あぁ~、美味いっ!」

「やっと機嫌が直ったみたいだな。で? 何があったんだ?」

「……やっぱり、分かっちゃう?」

「あたしの目は誤魔化せないぞ。それとも言いにくい事か?」

「……実は、今日はドリームランドへ行ったんだけど……」


 真は今日の出来事を奏に説明する。


 奏は真に同情しながらも菫の心情に共感する。


「――確かにそれは京子さんが悪いけど、それじゃ誤解されても仕方ねえよ」

「そうだよね。スミちゃん、もう会ってくれないのかな?」

「それは真次第だろ。あたしの事は気にするな。あたしたちは一度だけではあるけど、あの黒杉財閥を退いたんだ。だからこれからは、黒杉財閥に構わずスミちゃんに真っ直ぐ向き合っていけ。まずは京子さんとのカップリングを解除してからスミちゃんに会ってみたらどうだ?」

「分かった、そうするよ」


 1ヵ月後――。


 真も奏も婚活イベントに参加し続けるが、カップリングは一切せず、ひたすら京子とのカップリング解除のために奮闘していた。


 しかし、京子はカップリング解除を拒んでいた。


 どんなにお金を出しても真の愛は手に入らない。京子はそれを知りながらもカップリング解除をしようとせず、真が何度訪問しても拒み続ける日々が過ぎる。


「なるほどなー、お前も大変なんだな」

「立花さんほどじゃないですよ」


 真は婚活イベントでたまたま再会した樹と共にバーに飲みに来ていた。


 樹は次の仕事を見つけたものの、以前よりも給料は低めであり、彼の暮らしは段々と貧しくなっていくのが見て取れる。


 ボロボロのままのスーツ、ぼさぼさのままの短髪、あのクビ騒動は彼に自らの身だしなみを整える余裕さえも与えなかった。自分は黒杉財閥に二度も敗北したのだと自らを責める。彼は試合に勝って勝負に負けるとはこの事を言うのだと思い知った。


 それからの彼は赤羽と連絡を取り、積極的に黒杉財閥の弱みを握ろうとしていた。


「立花さんってどこに就職したんですか?」

「レジスタンス新聞だよ」

「えっ! レジスタンス新聞っ!」

「シーッ! 馬鹿っ、みんなに聞こえるだろっ!」


 樹は立てた人差し指を自分の口に当てながら小さい声で真を咎める。


 真は慌てて自分の口を両手で塞ぐ。


「す、すみません」

「日本政府はあの総理官邸爆破事件を受けて以来、レジスタンス新聞をテロ組織に指定してる――無論、何も悪い事はしちゃいねえ。むしろ黒杉内閣の圧政に対抗するために行動している正義の味方だ。だから支持している人もそれなりに多い」

「それは分かりますけど、どうしてそこに入ろうと思ったんですか?」

「どうせ30を過ぎてから就活をしても、良い企業には入れそうにねえからな。俺は自分がクビになった原因がすぐに黒杉政悟のせいだって分かったよ。そこで俺は赤羽さんに拾われたってわけだ。せめて不当解雇になった分の仕返しはしてやらねえと気が済まねえからな」


 樹は復讐心に燃えている。不当解雇で人生を滅茶苦茶にされた恨みを晴らしたいのだ。


 ふと、真はスマホのメールを見る。


 しかし菫からの返信はない。あの時真が慌てて出したメールを最後に、2人のメールのやり取りは終わっている。


 スミちゃん、今頃どうしてるんだろ――。


「真、聞いてるか?」

「あっ、はいっ!」

「ボーッとしてるみたいだけど、何かあったのか?」

「いえ、大した事じゃないんですけど」

「良いから話してみろ」

「は、はい」


 真は菫との事情を説明する。京子とは今でもカップリングをしたままである。まずはこれをどうにかしない事には再び会えないと感じていた。菫に対する心配は日に日に増してくる。


「それはとんだ災難だったな。あの兄にしてあの妹だな。婚活法でみんなを半ば強引に結婚させようとしてる割には、なかなかとんちんかんな事をする連中だ」

「多分ですけど、婚活法で1番苦戦しているのは黒杉家の人たちだと思います」

「そうは思えないけどな」

「あの人たちは愛を知らないのに婚活をさせられているんです。政悟さんと京子さんも、強引な方法でしかカップリングできませんでした。何というか、あの人たちは恋愛や結婚というものを履き違えている気がするんです」

「真も奏もそのせいで被害を受けたって事は、他にもそんな方法でカップリングさせられている奴がいるって事だ。俺は今そういう奴らを探し出して事情を聴いて回ってんだ。だからよ、真も情報提供に協力してくれねえか?」

「それは構いませんけど、どうするんですか?」

「集団訴訟を起こすんだよ。あいつらにな」

「!」


 この時、真は気づいていなかった。自分がとんでもない事態に巻き込まれているという事に。


 その水面下では、レジスタンス新聞による逆襲計画が着々と進んでいるのだった。

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