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第78話「感化される本音」

 しばらくしてジェットコースターから降りていく乗客たち。


 その中に、暴君令嬢に肩を貸してもらいながら放心状態になっているひ弱な男がいる。スタッフからも心配されるが、それをあしらうように彼を歩かせようとする。


「はぁはぁはぁはぁ」


 京子は真と二人三脚で近くにあるベンチまで行く。


 ようやくベンチに座らせると、彼女も隣に座り一息つく。


「ふぅ、ありがとうございます。助かりました――うえっ」


 真はベンチに座ってもなお乗り物酔いが醒めずに青ざめていた。


「やれやれ、あなたは本当に色んな意味で面倒な人です。あたしにこんな労働をさせるなんて良い度胸です。ジェットコースターが嫌なら嫌だって、何で最初に言わなかったんですか?」

「下手に逆らって問題を起こしたら、また周囲の人たちに迷惑がかかるからです」

「!」


 その時、京子は大きく目を見開き悲しそうな表情になるが、真はそれに気づく余裕さえなく、酔いを醒ますために快晴の空を見つめながら話を続ける。


「特に姉さんは巻き込みたくないんです。姉さんは僕を養うために必死に働いてくれています。だから辛い事の1つや2つあっても、ずっと僕の前では健気に振る舞ってくれるんです。本当は自分が1番辛いはずなのに――悩み事は話してくれますけど、僕を心配させまいと、弱音を吐いた事はないんです。そんな優しい姉が……あなたのお兄さんのせいで、一度は解雇通告されたんですよ。その時の姉がどれほど辛かったか、分かりますか?」

「……なさい」

「あの……聞いてます……!」


 彼女の言葉がよく聞こえなかったのか、真は隣に彼女がいるかどうかを確認するべく横を向く。


 すると、そこには目から大粒の涙を流す彼女の姿があった。


「ごめん……なさい……」

「! 京子さん?」

「お兄様は、ずっと愛に飢えてきたのです。だから奏さんの気を引こうとしたのかもしれません。その事は兄に変わって謝罪します」


 京子はそう呟きながらベンチから立ち、真に向かって頭を下げる。


 この謝罪にはかつて真を冗談半分で脅した件も兼ねてのものだった。彼がこの件を本気にしたせいで自分に対して警戒心を持つようになった事に、京子はついに耐えられなくなったのだ。


「あっ、あのっ、もう良いんです」


 彼女の意外な行動に真が素早く彼女に頭を上げさせようとする。


「では約束してください」

「何をですか?」

「必要以上にあたしを警戒するのはやめてください。辛いんです。本当にっ!」


 涙が勢いを増し、地面にポタポタと水滴が落ちる。


 これにはさすがに鈍感な真も耐えられなくなる。


「辛いって……何がですか? ちょっと何言ってるか分からないんですけど、もっとストレートに言ってもらって良いですか?」


 真はまたしても無自覚に京子を傷つける。


 もう告白するしかない。こうなったのは全部あたしの責任でもある。だからここでけじめをつけないと。


「……やっぱり真さんには、ストレートに言うしかないみたいですね」

「えっ?」


 京子は頭を上げながら、涙も拭かずに深呼吸を済ませ真を見つめる。


「あたし、真さんの事が好きなんです」

「……えええええーーーーーっ!」


 真は突然の告白に驚きを隠せず、そのままほっぺを赤く染める。一瞬だけ周囲が真の声に反応して足を止める。


「あっ、すみません、大した事じゃないので、すみません」


 真が周囲に何度もお辞儀をしながら何事でもない旨を伝えると、歩行者たちは再び歩き出す。


「真さんにとっては大した事ではないかもしれませんけど、あたしにとっては重大な事なんです。好きな人から……必要以上に警戒されるのは……本当に辛いんです……胸が張り裂けそうなくらい……」


 彼女の涙が再び止まらなくなる。ここに来てようやく真は彼女の意図を理解する。


「――分かりました。もう必要以上にビビる事はしませんから」

「本当ですか?」

「ええ。でも、もう脅したり権力を使ったりするのはなしですよ」

「はい……返事はいついただけるのですか?」

「何の返事ですか?」

「真さんは本気であたしとつき合ってほしいと言ったら、つき合ってくれますか?」

「ええっ!?」

「もちろん、断ったからといってどうこうするつもりはありません。あたしは黒杉財閥の者としてではなく、1人の女性としてあなたに本気の交際を申し込みたいんです。あたしとつき合ってください。お願いします」


 京子は再び頭を下げる。


 真はさっきの告白で乗り物酔いがすっかり醒めていた。


 いや、目が覚めたと言った方が適切である。


 真は重大な決断を迫られるが、この時ばかりはすぐに決断を下す。


「……ごめんなさい。僕は、京子さんとはつき合えません」

「……そうですか」


 京子は力ない言葉で真の決断を受け入れる。


「でも、友達だったら構いませんよ。僕、当分は結婚する気ないので、早く結婚したいなら他を当たってください。僕よりずっと良い人がいると思うので」

「――ふふっ、ふふふっ……」

「えっ?」

「ふふふふっ、あはははははっ」

「どっ、どうしたんですかっ!?」

「あはははっ。だって、真さんを見ていたら……ずっと自分に嘘をついて生きていた自分が、あほらしくなったんですもの。そりゃそうですよね。早く結婚して黒杉財閥から早く抜け出したいって言ってましたもんね」

「……」


 京子はずっと黒杉家を出たいと思っている。彼女は真に感化され、彼と結婚して黒杉家から出るという自らの本心に従い告白した。しかしあえなく撃沈。


 真にはこの時の意図を読まれていた。


 彼は京子の言葉を覚えていたのだ。黒杉家から出たいという言葉を。京子はそれが自信の敗因であると確信する。


 何故あんな事を真さんに話してしまったんだろ。他の男には話そうとも思わなかったのに。


 でも……彼と一緒にいると、つい心の内を話したくなってしまう。最初は何故そう思うのか全然分からなかったけど、やっと分かった。


 これが……好きという気持ちなんでしょうね。

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