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第77話「恐怖とのつき合い」

 午後12時、真はドリームランドへと辿り着く。


 本当はスミちゃんと一緒に来たかったのにと思いながら料金を払って1日分の入場パスを貰うと、そのままドリームランドのゲートを通過する。


 ゲートを抜けると、真は童話に出てくるような世界観に圧倒される。


 中に人が入っているであろうマスコットたち、衣装を着てダンスをする人たち、中世ヨーロッパを意識したカラフルな建物、奥の方には童話をモチーフとした城が我こそはと言わんばかりに目立っている。この再現性の高いテーマパークに、真はついつい現実を忘れそうになる。


 うわぁ……初めて来たけど、凄く良い所だなぁ。みんな楽しそうにしてるし。でもここに来てるのって、カップルや団体の人ばっかりだなぁ。


 何だか急に恥ずかしくなってきた。


「ごきげんよう」


 真の後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。


「京子さん……こんにちは」


 そこには赤を基調としたカジュアルでありながらオシャレな服に身を包む京子の姿がある。


 ジト目のまま腕を組み、その凛々しく堂々とした姿に真はうっとりしてしまう。


「遅いですよ。レディを待たせるなんて」

「一応時間通りに来たんですけど」

「普通は10分くらい前に来るものですよ」

「えへへ、いつも丁度くらいの時間に来ちゃうんですよね」

「あたし、それなりの人数とつき合いはありましたけど、ここまで自覚のない人は初めてです。では早速行きましょうか。まずはどこへ連れて行ってくれるのですか?」

「――えっ、僕が案内するんですか?」


 真がまさかの言葉に戸惑ってしまう。


 彼にとってもここは初めてである。しかし下手に逆らうのもどうかと思っている。面倒な事になったとそっと心の中で嘆く。


「あたし、ここ初めてなんですけど」

「えっと、僕も初めてなんです。元々引きこもりだったので、テーマパークってほとんど行った事がないんですよね」

「菫さんとはよくデートに行くのに、こういう所へは行かないんですね」

「そ、そうですね」


 本来であれば、今日スミちゃんとここへ来る予定だったんだけどなー。


 しかもさり気なく僕がスミちゃんと度々デートしてる事を見破られてるけど、もう今更ツッコむのはよそう。この人は何をやっていても不思議じゃない。


「じゃあ成り行きで行きましょうか」

「はい――あっ、そうだ。交互に行ってみたい場所に行くのはどうですか?」

「ふふっ、良いですねそれ」


 2人は他愛もない会話をしながら一緒に歩く。


 距離は少し開いていた。お互いに手を伸ばしてやっと届くかどうかという距離だ。


 京子が少しずつ真に近づくが、真は距離を詰められている事に気づく度に彼女と距離を置こうとする。


 京子にとって真とのデートは新鮮であった。彼女は真には他の男には言えなかった事をずけずけと言いながら甘えるように真にわがままを押しつける。真にとってそれは傍迷惑でしかなかった。


 彼の提案はいつの間にか忘れられ、京子ばかりが次のアトラクションの行き先を仕切っていた。


 これは真であれば気を許せる事の裏返しでもある。


 しかし真本人は気づかない。


「次はあれに乗りましょう」

「えっ、ジェットコースターですかっ!?」


 真があからさまに怖がる様子を見せる。彼にとっては未知の領域であり、何度かニュースで見たジェットコースター事故を思い出す。


「ほんっと男のくせに、苦手なものが多いんですね」

「す、すみません。えへへ……京子さんにもジェットコースターにも振り回されるのかー」

「何か言いましたか?」


 京子が少し強めの口調で汚物を見るような目をしながら真を睨みつける。


「なっ、何でもありません!」


 何でもなくないくせに。この意気地なし。あの時のような勇敢さはどこへやら――。


「真さん」

「何ですか?」

「あまりびくびくされても困るんですけど」

「だっ、だって、逆らえばいつ消されてもおかしくない相手と一緒にいるんですよ。びくびくするなって言う方が無理な話ですよ」

「そこまでハッキリ物を言えるのにびくびくしていると?」

「ありのままを申し上げただけですが」

「普通の人はそこまで言えません。あなたって本当に発言した後に相手がどう思うかを想像できないんですね。多分そういうところですよ。あなたの人生がうまくいかなかった理由は」

「酷い言われようだなー」


 真は愛想笑いをしながらそう返すしかなかった。


 何であたし、こんなにイラついてるんだろ――彼によそよそしくされる度に、心のどこかがつっかえるような感じがする。何でこんな意気地なしとデートなんてしたんだろ。


 京子はそんな事を考えながら真と2人黙ったままジェットコースターの列に並ぶ。


「では安全バーを下ろしますので、ご注意ください」


 うぅ……どうしよう。もう安全バー下ろされちゃったし、今更怖いからおりますなんて言えるような空気じゃない。でも……隣にいる人の方がずっと怖いんだよなー。


 コースターがカタカタと音を立てながらゆっくりと坂を上っていく。


 真はこれから地獄へ突き落されるかのように恐怖する。彼の顔はすっかり青ざめているが、京子は肝が据わっているのか平気である。それどころか真に話しかける余裕さえあった。


「怖いんですか?」

「は、はい」

「今まで色んな男性を見てきましたけど、あなたのように思った事をそのまま言う人は初めてです」

「申し訳ありません。自分でも分からないんです。気づいた時にはもう言っちゃった後なので、それで怒られる事が多かったんです」

「――でも、そういう性格、嫌いじゃありませんよ」

「えっ……」


 そしてコースターが最も高いところ着き、一瞬だけ停止する。コースターが下を向くと、一気に加速しながらレールの上を滑走していく。


「「「「「キャーーーーーー!」」」」」

「うわあああああぁぁぁぁぁ!」


 多くの乗客がスリルを楽しむように黄色い声を上げる中、たった1人断末魔を響かせる。


 乗りたくないのに乗ってしまった。人生もこれと同じであると真は確信するのだった。

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