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第76話「ダブルブッキング」

 真はそんな京子を見て不安気な表情になる。


 彼は自分がしてきた事の重大さに改めて気づかされる。


 京子はそんな真にあの結婚式の裏話を説明する。かつて黒杉家の者たちが八王子グループの株を購入しており、あの結婚式が中止された事で株が暴落した。


 真はそれによって黒杉財閥から一時期目をつけられていたのだが、そもそも真が就職していなかった事や、京子が周囲を説得した事もあり、彼は事なきを得ていたのだ。


「ですから、あなたは消されるかどうかの瀬戸際だったんですよ」

「そうだったんですか。ありがとうございます。でも、何で助けてくれたんですか?」

「……何ででしょうね」


 京子は目をそらしながらぼかすような言い回しをする。


「?」


 ……多分、この人だったら、世の中を変えてくれると思ったから……ですかね。


「まあ、お兄様にはあたしの口から言っておきましたので、これ以上の追撃はないと思います。そこで、お礼にと言っては何ですけど、デートをしてもらえませんか?」

「でっ、デートですかっ!?」

「あたしたちはカップリングしているんですから、別に不自然ではないと思いますけど、嫌ならお兄様にスパイを見つけたと――」

「わっ、分かりましたっ! デートくらいならしますからっ!」


 真が慌てて京子のスマホを動かす手を抑えようと彼女の手を掴もうとする。


 すると慌てていたのか、彼は勢い余って京子を押し倒してしまい、彼女の胸を掴んでしまう。彼女は訳も分からず顔が赤くなり、真はさらに焦るばかりである。


「――ええっ!」

「あっ、ごっ、ごめんなさいっ!」


 真は慌てて京子から離れる。しかし彼女の怒りは収まらない。


 京子の怒りのボルテージが上がっていく。


 彼はその殺気に命の危機さえ覚えた。全身を震わせながら彼女に服従する構えに入るが、その時にはもう手遅れだった。


「……まーこーとーさーん!」

「だって、本当にやばいって思ったからっ!」

「問答無用っ!」


 数分後、ようやく京子の機嫌が収まる。


 真の左頬は赤く腫れあがっている。彼はその部分を痛そうに手で押さえている。


「全く……レディの体に触れるなんて、破廉恥もいいところです」

「あ、あの。責任は取ります。デートにつき合わせてください。それで京子さんの気が済むのでしたら、喜んでつき合わせていただきますっ!」

「!」


 数十秒ほど真が土下座の姿勢のままになり、京子はそれをゴミを見るような目で見降ろしている。一体どうしてやろうかと考えながらも、彼女は真を許す事にした。


「まっ、わざとではなかったのですし、これくらいで勘弁してあげます。しかし、デートにはつき合っていただきますね。今度の日曜日、どうですか?」

「にっ、日曜日……ですか?」

「ええ、嫌とは言わせません。どうせ暇なんでしょうし。では日曜日の正午にドリームランドのゲートで待っていますね」

「!」


 京子は真の心境に気づこうとすらせず、そのままスタスタと玄関まで歩き、外で待たせている執事に指示を出して八武崎家を去っていく。


 ……どうしよう。日曜日はスミちゃんとドリームランドで遊ぶ約束をしているのに。


 何で狙ったようにダブルブッキングしちゃうんだろ。


「はぁ~」


 午後6時、奏が家に帰ってくる。


 真は一緒にデートに行けない事を菫に伝えた後であった。彼は後悔の念からか、この日は思うように仕事ができなかった。


 彼はベッドに横たわりながら、菫との約束の方が先約だったのにと罪悪感に襲われ苦悩する。だが京子との約束をむげにするわけにもいかなかった。


 そんな事をすれば何をされるか分からないし、自分が被害を受ける事で、これ以上奏にも迷惑をかけたくなかった。京子自身は初対面の時と同様に冗談のつもりだったが、冗談の分からない真にとっては一大事に他ならなかった。


 ようやく決断した真は急いで菫にメールを送る。


『スミちゃん、ごめん。日曜のデート、行けなくなった』

『えっ!? どうしてっ!?』

『急な用事ができちゃったんだ。本当に済まない!』

『分かった。じゃあまた今度ね』

『うん。この埋め合わせは必ずするから』

『ふふっ、何があったかは知らないけど、無理しないでね』


 スミちゃん……。あぁ~、僕はなんて事を。


「真?」

「あぁ、姉さん、おかえり」

「具合でも悪いのか?」

「いや、大丈夫だよ」

「真が大丈夫っていう時は全然大丈夫じゃない時だ。何年一緒に住んでると思ってんだ?」

「スミちゃんに悪い事しちゃった」


 真は今日の出来事を奏に伝える。


 2人は食事を共にする中で、お互いの心境を共有する事となった。


 奏は社内で人事部長から謝罪の言葉を貰い、しかも社長からは奏の作った新しい定食メニューの案を気に入られ、様々な企業が集う合同プロジェクトに参加させてもらう事になったというのだ。


 これにて奏は不当解雇の通達を水に流す事となった。


「商品開発って大変なんだね」

「そうだな……でもあたしはみんなに自分の考えた定食を食べてもらって、それで健康になってほしいって思ってるからさ、今の部に入れて良かった」

「姉さんは自分のいつも真っ直ぐだね」

「だーれの影響だと思ってんだ? 真だってスミちゃんのピンチに真っ直ぐかけつけただろ。あたしもそれを樹から聞いてさ、いつだって真っ直ぐに生きようって思えるようになったんだからな。スミちゃんとはまたデートに行けば良いだろ。今は京子さんを刺激しない程度につき合ってやりな」

「……うん」


 そして日曜日がやってくる。


 予定より少し遅れた真は奏に起こされると急いで昼食を食べ、ドリームランドへと直行する。


 しかし、それは真にとって正念場の始まりであった。

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