第61話「久々のデート」
新章突入です。
よろしくお願いします。
真と菫は会計を済ませるとカフェを出る。
ショッピングモール特有の誘惑をかわし微妙な距離を保ちながら2人は一緒に歩く。菫の以前より地味になった私服は真のいつもの私服と見事に釣り合っていた。
2人はショッピングモール内を歩きながら話していた。
「私、次からはなし婚にしようと思うの」
「なし婚?」
「結婚式をしない結婚」
「あぁー、それ何となく分かる。あれはもはやトラウマだからね」
真があの出来事を思い出しながらよくよく考えればかなり恥ずかしい事をしていたと改めて自覚する。結婚式が黒歴史になってしまった上に費用を確保する事さえ難しいと思い式婚を諦める。
でもスミちゃんのウェディングドレス姿、すっごく可愛かったなー。
「マコ君もトラウマなんだ」
「そりゃそうだよ。あんな経験は一度だけでお腹いっぱいだよ。だから僕も……万が一結婚する時はなし婚にしようかなぁー」
「万が一って言ってる時点で結婚願望ないって言ってるようなものだよ」
菫が少しばかり意地悪そうな顔を真に近づけながら指摘する。
彼に結婚願望はない。しかし積極的に結婚を回避しているわけでもない。
「あっ、そうだ。スカイツリーでも行く?」
「誤魔化す気満々だね。別に良いよ」
「スミちゃんは行きたい所とかないの?」
「私はマコ君が行きたい所に行きたい」
だってマコ君と一緒にいる方が楽しいから。ハッ――何で私こんな事考えてんだろ。
菫が突如赤面し慌てふためいたような顔になる。彼女はそんな顔を真に見せまいとそっぽを向く。
「……?」
しかしそれを真には不思議がられる。
彼女はあの結婚式以降真を意識し続けていた。しかしそれがどんな気持ちによるものなのかには気づいていなかった。
幼馴染だから? それとも助けてくれた事に感謝してるから? でも――どれでもないような気がする。
今隣を歩く普段は頼りにならない王子であると思っている彼に対して緊張しすぎている自分自身に違和感を隠せない。
「あっ、真さん。お久しぶりです」
真の後ろから1人の女性が声をかけてくる。彼らが後ろを振り返ると、私服姿だがどこか学生っぽい姿に気づく。
「睦月さん?」
声の正体は睦月だった。
街コンの時よりもずっと真面目なリクルートスーツを着ている。
「涼音で良いですよ。でも覚えていてくれて嬉しいです」
「マコ君、この人は?」
「あー、この人は睦月涼音さん。この前街コンで会ったんだけど、大学生で婚活までやってるんだ」
「それは大変ですね」
「はい、もう就活の時期なので学業と就活と婚活ばかりで休みの日が全くないんですよねー。もう体が3つくらい欲しいですよ」
「「ええっ!?」」
真も菫も驚愕した。
涼音は就活帰りに婚活イベントに参加したり、学校から帰った後で企業研究をするという過酷な日々を送っていた。
目の下には黒いクマがうっすらできており、彼女は企業面接を受けたばかりなのだ。
「私は長月菫です。菫と呼んでください。私と彼は幼馴染で元同級生なんです」
「同い年だったんですね。なら私の方が年下ですから、普通に話してもらって大丈夫ですよ」
菫と涼音が自己紹介を終えて仲良く話しながら3人で一緒に歩く。しかし話しているのは女2人のみであり、真は端っこから2人の会話を見守るしかなった。
「フリーコンポニストなんですねー。じゃあ真さんと同じく自営業なんですね」
「うん、マコ君とやってる事は違うけど、広告収入で稼いでいる部分は一緒だから、やってる事はあんまり変わらないかな」
「でも自分で作曲ができるって凄いですよ。私もそれくらいできたら――」
突然涼音の体がクラッとなり額に片手を当てながらヨロヨロになる。
「大丈夫?」
「はい……大丈夫……です――」
彼女は真に合えたことで安心したのか全身の力が抜ける。
咄嗟に彼女の異変に気づいた真が倒れそうになる彼女を受け止め、涼音の腕を自分の首の後ろへ回して体で支えようとする。
「!」
菫がこの光景に驚く。彼が他の女性に触れる事を想像できなかったのだ。
「全然大丈夫じゃないよ! 早くどこかで休まないと!」
キョロキョロと周囲を見渡しながらどこか休める場所を探そうとする真、それをどこか悔しそうな表情で見つめる菫、今にも気を失いそうな涼音。
彼らはフードコートまで行き、そこでスポーツ飲料を買ってきた真が涼音にそれを飲ませる。涼音は寝不足な上に炎天下の中を歩き回りながら慣れない企業面接を受けていたために疲労困憊になっていた。
「はぁ~、生き返ったぁ~。ありがとうございます」
「もしかして寝てないんじゃない?」
「かもしれませんね……家にいる時も企業研究とか宿題とか婚活市場で持てるためのトレンドを考えたりしないといけないので」
彼女は緩やかで低めのテンションのまま眠たそうに話す。
「そんな状態じゃ何をやっても上手くいかないよ。今はしっかり休んだ方が良いよ。家に帰ったらすぐに寝る事。良いね?」
「……はい。でもどうしてそんなに心配してくれるんですか?」
「困ってる人がいたら、助けるのは当たり前でしょ」
「……!」
その言葉に涼音は顔が赤くなる。
「あれっ、顔が赤くなってるよ。もしかして熱あるんじゃない?」
真が涼音の額に手を当て熱の有無を確認する。
「「!」」
これには菫も涼音も思わず驚いてしまう。
真はそれに無自覚なまま彼女から手を離す。
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