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第60話「焦りと憤り」

 その頃、黒杉家では家族4人が集まり家族会議となる。


 全員無表情ではあったが心の中では焦っている。部屋の中には派手なソファーがあり、それぞれが高級な私服を着ている。


 政次は両膝に両肘をつきながらソファーに座っている。


 その隣に政子、向かい側のソファーに政悟と京子が座っている。


「これは由々しき事態だ」

「何かあったのか?」

「『黒杉内閣の会計帳簿』が盗まれた」

「「「!」」」

「あれには予算の使い道も全て書かれている。恐らく敵は会計帳簿を盾に揺さぶりをかけてくるつもりだ。何としてでも取り返さねば」

「あの総理官邸爆破といい、会計帳簿の窃盗といい、敵は一体何者だ?」

「おおよその見当はついている。株式会社レジスタンス新聞だ。そこに所属する赤羽慎吾という男もダンスパーティに参加していたが、あの爆破事件から行方をくらましている。奴がこの事件に大きくかかわっているとみて間違いないだろう」

「なら今すぐそいつを指名手配したらどうなんだ?」

「いや、しばらくは泳がせておく。我々の秘密が奴らに漏れてしまった以上、我々も簡単には身動きが取れない状態だ。秘密が国民に知られれば支持率は一気に落ちる。何としてでもあの会計帳簿を取り返す。お前たちもこの事は内密するんだ」

「――赤羽慎吾には心当たりがあるぞ」


 政悟が咄嗟に慎吾と会った時の事を思い出す。


 あの男、ただのジャーナリストかと思いきや意外と骨のある男のようだ。今までは無警戒だったが今度はそうはいかんぞ。


「心当たりとは?」

「奴に一度会った。カップリングした女を奪われた」

「私もお前も、あの男にしてやられたというわけか」

「つまり新聞社に弱みを握られたって事?」

「そうだ。このまま奴らを好きにさせておけばこの国の存亡にさえ関わる重大な事態になる。そうなる前にあの会計帳簿を取り返す。まさかあの爆破事件に乗じて私の部屋にまで入ってくるとはっ!」


 政次が席を立つと目の前にある壁を思いっきりこぶしで殴りつける。


「親父、少し頭を冷やした方が良いぜ。起きてしまった事は仕方ない」

「仕方ないで済まされる問題ではないっ!」


 彼は物凄い剣幕で怒鳴り散らしながら憤りを必死に抑えようとしている。今までにない敗北感を知った事でようやく己の立場を理解する。


「お父様、その件は私たち全員協力するから。ねっ」

「このまま秘密がばれればただでは済まない。必ず会計帳簿を取り返せ。良いな?」

「最善は尽くす。じゃあ、俺はこれから仕事だ」


 政悟が部屋を出て外へ行く。それに続くように政子と京子も部屋を出ると、政次1人だけになりしばらく沈黙が続く。


「うわあああああぁぁぁぁぁ!」


 政次が大声でわめきながらそばにあったワイングラスを床に投げつけ、ワイングラスが床に当たった瞬間に粉々になり、床はガラスの破片だらけになる。


 その光景を目で見ずとも声と音で彼の心境を知った京子は、無表情のまま家を出るのだった。


 2週間後――。


 午後12時、東京都内のショッピングモールにて。


 そこは大勢の人で賑わっており様々な店舗が並んでいる。真はその中にあるいつものカフェで菫と待ち合わせをする事になった。


 真が先に着き、アイスコーヒーを飲んで待っていた。


 彼はもうすっかり婚活法に慣れてしまっていた。


 婚活イベントの度に知り合いこそ増えるものの、京子以外とカップリングはできていなかった。


 奏もまた政悟以外の男とカップリングができておらず、会社を休む代わりに行く婚活は実質休日の様なものであった。


 そこに見知った顔が現れる。


「ふぅ、やっと着いた。待った?」

「いや、僕も今着いたところだよ。まさかスミちゃんの方からデートに誘われるとは思ってもみなかったから驚いちゃったよ」


 菫が昔より比較的地味な格好でやってくると、真の向かい側の席に座る。


「マコ君の事だから全然外に出てないんじゃないかなーって思ってたから誘ってみたの」

「少し前までは確かに引きこもりだったけど、婚活イベントへ行くようになってからはお見合いとかもするようになってたから、段々外へ出る事に抵抗がなくなってきちゃったんだよね」

「もう昔のマコ君見れないんだ」


 菫がどこか落ち込んだ表情で残念そうにシュンとなり頭をがっくりさせる。


「本来喜ばしい事のはずなのに」

「だってマコ君が外に出てるって何か違和感あるし」

「傷つくなー。スミちゃんも家で仕事してるんだよね?」

「そうだよ。久しぶりに良い曲が作れたからマコ君にも聞いてもらおうと思って。良かったらちょっと聞いてくれないかな?」


 菫がカバンからイヤホンを繋げているスマホを取り出す。


「うん、スミちゃんの新曲なら喜んで」


 真がイヤホンを両耳につけると菫の新曲が流れ出す。歌手は相変らず人工音声であり、完成すれば音楽投稿サイトに投稿する予定のものである。


 真は少しの間リラックスしながら曲を聴き続ける――。


「どう?」

「凄く良い曲だと思う。曲名は決まってるの?」

「『運命の扉』っていう曲。マコ君が私を助けてくれた時、私はもう少しで婚姻届けに判を押すところだったけど、マコ君が会場の扉を開いた事でその手を止めてくれた。私にはあの扉は運命を変えた扉だと思ってるの。あれが忘れられなくて、気がついたら曲を作ってたの」

「何だか恥ずかしいなー」

「何で?」

「だって――曲の中に出てくる人が妙に僕に似てたから」

「うん、マコ君の活躍を曲にしてみたの」


 菫はそう言いながら微笑み、真とお揃いのアイスコーヒーを飲む。


 真はそんな相変らずの菫を見てホッとするのだった。

第3章終了です。

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