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第58話「日記と帳簿の謎」

 慎吾はマスターキーを使い、まんまと総理大臣執務室へ入る。


 廊下にも彼以外には誰もおらず、外では参加者が呼んだ消防車の音が鳴っている。


 しかも警察までもが到着し、総理官邸は包囲される。


 慎吾は急ぐように部屋の中をガサゴソと漁る。


 その頃、真のスマホに菫からのメールが届く。


「あっ、スミちゃんからだ」

「さっき真への取材をテレビで見てたんじゃないか?」

「あー、なるほど」


 真はスマホ画面を見る。


『マコ君、さっき爆発があったけど大丈夫?』


 彼はクスッと笑いながら菫に返信する。


『大丈夫だよ。今はもう避難してるから安心して』


 真も奏も警察官からの事情聴取を受けたのち解放される。帰り道での事だった。


 奏がある事に気づく。


「なあ真」

「どうしたの?」

「赤羽さんを見てないか?」

「あー、最初以外は全然見てないよ」

「もしかしたら、あの爆発は赤羽さんの仕業じゃないか?」

「えっ!? いやいや、まさかそんなわけ」

「みんなで避難してきた時も赤羽さんだけいなかった。まさかとは思うけど、もしかしたら赤羽さんはまだ総理官邸の中にいるんじゃないか?」

「――だとしたら相当まずくない?」

「まずいどころじゃない。もしばれれば国家反逆罪だろうな。だからこの事は絶対に誰にも話すな。もし同行者だとばれればあたしらもただでは済まない。一応爆発時点ではみんなと一緒に大ホールにいたからアリバイはあるけどな」

「う、うん。赤羽さん……無事だと良いけど」


 真も奏も2人きりのまま帰宅するのだった――。


 その頃、慎吾は総理大臣執務室を調べていた。


 執務机にある鍵のかかった部分を開錠する。思ったより時間がかかったために慎吾は焦っている。


 クソッ! 何もないだとっ!


 中を見ても何もなかった。


 しかし慎吾は執務机を調べるが婚活法にまつわる記述は特にない。続けて本棚を調べる事にする。


 この中に何かあるはずだ……。


 ん? 奥に何かある。黒杉内閣の会計帳簿か? 何故こんな場所に。


 彼は官房長官の日記と黒杉内閣の会計帳簿を読む。


「!」


 彼はその驚くべき内容に驚くしかなかった。しかしこの場所に誰かが来るのは時間の問題である。ドアの外側からツカツカと足音が聞こえる。


 まずいっ! 早く逃げなければっ!


 慎吾は足音を気にしながら窓の外を見る。


 誰もここを見ていない事を確認すると、盗んだ日記と帳簿を服の中に隠し、恐る恐る防弾ガラスの窓を開ける。


 その時――。


「おい、見てみろ」

「部屋の中が荒らさせてますね」

「犯人はもう逃げたようだな」

「どうしますか?」

「急いで総理に報告だ」

「そうですね。急いで鑑識を呼びますね」


 警察官たちはその部屋に居座り捜索を始める。窓にはカーテンがかかっており、慎吾はその外でロープにつかまった状態である。


 慎吾は持っていたかぎ爪ロープを使って地上に降り、総理大臣執務室から脱出する。


 彼は他のガードマンに紛れてまんまと総理官邸から出るのだった――。


 午後7時、真と奏がテレビを見ながら夕食を食べる。


 テレビは総理官邸爆破事件の話題で持ちきりであり、犯行に使われた爆弾がリモコン式爆弾である事、現場に残っていたかぎ爪ロープから犯人が総理大臣執務室から脱出していた事が判明する。


 警察当局は単独犯によるテロであると断定した事を発表する。


「はーい」

「こんな時間に誰かな?」


 奏が急いで玄関まで行き、真も席を立って彼女の後ろから様子を見守る。


「京子さん!」


 玄関の外にいたのは私服姿の京子だった。金髪のダウンに赤と黒を基調とした高そうな服を着ており、フリルのスカート、かかとが高めのヒール。


 真は思わずうっとりする。


「あの、こんな時間に何か用ですか?」

「用があるから着てるんです。詳しい話は中でお願いします」

「は、はい」


 真も奏も夕食中であったため、2人が食べながら京子はその机のそばに立っている。


「今現在、赤羽慎吾が行方不明です」

「「……」」

「彼があの爆破事件に関わっている事は間違いありません。今のところ事情聴取ができていないのは彼だけです。赤羽慎吾に招待券を渡したのは……あなたですね?」


 京子が無表情のまま椅子に座っている真の顔を見る。


 真も奏も表情が凍りついていたが奏が痺れを切らす。


「待ってくれっ! 確かに赤羽さんに招待券を渡したのは真かもしれないけど、真はあの爆破事件には関わってないし、あんな事ができるような人間じゃない!」

「落ち着いてください。それは分かっています。元々真さんに招待券を余分に渡したのはあたしですから、当然あたしの責任もあります。まあ、ばれたところであたしたちにはアリバイがありますから、咎められる事はないでしょうけど、念のためこの事は内密にした方が良いでしょう」

「分かりました」

「それからもう1つ、総理官邸のダンスパーティは中止になりましたけど、婚活イベントを行った扱いにはなっていますからご安心を」


 婚活イベントが中止になった場合、それがやむを得ない事情と見なされた場合は婚活イベントを行った扱いになるが、途中で早退した場合は不参加扱いとなる。


「お邪魔しました。ではあたしはこれで帰ります。ごきげんよう」

「は、はい。お気をつけて」


 執事が家のドアを開けると外から風や車の通る音がする。京子はヒールの靴を履くとそのまま八武崎家を出る。


 しばらく沈黙が続く。真も奏もとんでもない事態に巻き込まれた事で、悪魔の契約の恐ろしさを改めて自覚する。2人はテレビを消して後片づけを済ませる。


 翌朝、嵐の前の静けさが小鳥の囀りと共に終わりを告げるのだった。

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