第57話「騒動の裏で」
その頃、慎吾は内閣執務室や総理補佐官室を調べていた。
しかし何も出てこない。婚活法にまつわる情報自体はあったものの、どれも婚活法の基本情報ばかりであり秘密と言える情報ではなかった。
ここも駄目か。となると残りは5階か。
どの本を読んでも重要な情報は出てこない。
進展のなさに慎吾は焦りを覚え始める。この機会を逃せば当分はここを調べられない。5時を迎えれば婚活イベントが終わり、多くの人がここへ戻ってくる。
午後3時、慎吾はスマホで守からのメールを見る。
こんな状況を想定してか、慎吾のスマホは音を出さない設定となっている。
『状況はどうです?』
『今のところ収穫はない。4階は全滅だ』
『5階は調べられそうですか?』
『あと2時間でガードマンを無力化して調べるのはきついな』
『分かりました。こっちで何とかしてみます』
『どうするつもりだ!?』
『そのまま少し待っててください。どうかご武運を』
『おい、何か企んでるなら今すぐ中止しろ!』
しかし慎吾の忠告もむなしく、守からの返信が途絶える。
あいつ――何をする気だ?
頼むから無謀なマネだけはするな。
5階にもガードマンがいるが2人以上も固まっている。これを突破する方法がなく、慎吾は諦めかけていた。
その頃、菫は家にあるテレビを見ていた。午後3時からの特集で総理官邸のダンスパーティが生放送されていた。
総理官邸の外側と大ホールの2カメラが交互に映し出され、取材班が次々と参加者に取材をしている。
そこには真の姿もあり、菫はその姿に驚く。
「――マコ君っ!?」
そっか……マコ君も参加してたんだ。
真がテレビの向こう側で取材班からインタビューを受ける。
『良い相手はいましたか?』
『何人か良い人はいました』
『そうですかー、カップリングすると良いですね』
『そ、そうですね。あはは』
あっ、これ絶対カップリングする気がない時の仕草だ。じゃあ良い人がいるのは方便か。
でも……もしマコ君が誰かとカップリングしたらどうしよう。
ハッ――何で私こんな事考えてるんだろ。別にっ、マコ君が誰かとカップリングしたところで、それはマコ君の自由なわけだし。
菫は真が少し気になる様子。
そのまま中継を見守り続けるが、真が誰かと仲良しそうに話す様子はない。
何も進展がないまま時間だけが過ぎていく――。
午後4時、このダンスパーティも終盤が近づき、最後の突発イベントとして大ホールでビンゴ大会が行われていた。
司会が次々と番号を発表していく。
真も奏もこれに参加している。何度か番号が発表されたところでビンゴを達成する人が次々と現れる。黒杉家の人は誰も参加しなかった。
あと1つ……この8番が合えば一気にダブルビンゴだ。
真はそんな事を考えながら一発逆転を狙う。
「それでは最後の番号の発表です」
番号の書かれたボールがビンゴマシンから1つ落とされ、そのボールを司会が指で拾い上げ番号を見る。
「次の番号は――」
大きな爆発音が大ホールの外から響く。
「「「「「!?」」」」」
参加者たちは恐れおののきシーンとなる。
「火事だっ! みんな逃げろっ!」
大ホールの外から駆けつけた参加者の1人が外の状況を慌てふためきながら叫ぶように伝える。
知らせが来た途端に大ホールはパニックになり、参加者たちが一斉の外へと逃げ出す。真たちが外から総理官邸を見ると3階の外側が爆破されており、真っ黒な煙と共に炎上している。
「京子はここにいろ。様子を見に行ってくる」
「駄目っ! 危険なのが分からないの?」
「国を背負う者が危険を恐れて何が総理大臣だ」
「お父さんの身に何かあったら誰がこの国を支えるのっ!? 絶対に行かせない。お願いだから無謀なマネはやめて!」
「あなた、京子の言う通りですよ。早く逃げましょう」
「くっ――」
政次が焦りと悔しさに満ちた顔をしながら車に乗り避難する。
この騒ぎにより全ての階にいたガードマンが避難誘導のために全員外へ出る。
爆破事件で総理官邸のダンスパーティは中止され、しかもこれが生放送であったために多くの人々に衝撃を与えた。
参加者たちが逃げていく中、総理官邸でただ1人5階へと向かう慎吾。
あの馬鹿野郎。態々こんな事をせずとも、黒杉財閥の秘密を握る機会などいくらでもあるだろうに。だがもう後戻りはできない。
部下が俺にくれたチャンス、逃すわけにはいかない。
誰かが来る前に秘密を探そう。
慎吾は5階にある官房長官執務室、総理大臣執務室を調べる事にする。
彼は指紋がつかないよう手袋をしており、その手で婚活法にまつわる本を探す。書類のタイトルから婚活法と名のつく本を探す。
ん? 婚活法の理由か?
『結婚活動基本法、これは少子化対策及び経済の活性化を目的とした法律なり』
この本にも基本情報しかないのか。
慎吾は官房長官執筆机を漁る。机には3段の引き出しがあり、その1番上には鍵がかかっていた。
彼は1段目と2段目の引き出しを開けるが何も出ず。しかしウエストポーチにあった針金を駆使して1番上の鍵を難なく開錠する。
良しっ! 空いた。
慎吾がその引き出しを引くと、その中にはボロボロになった官房長官の日記がある。
官房長官も迂闊だな。だが見るのは後だ。あとは黒杉政次の部屋だな。
彼は官房長官の日記を持って総理大臣執務室へ行く。
その間にも炎は燃え盛り、ついに消防車が到着するのだった。
気に入っていただければ、
ブクマや評価をお願いします。