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第56話「闇に包まれた一族」

 お父様は一体何を考えているのやら。


 京子はそんな事を考えながら腕を組み、自らの父親である政次とダンスをしている奏をジト目で見つめながらボーッとしている。


「そこにいたんですね」


 そこに慌ててやってきた真が声をかける。


「真さんですか。一体どうしたのですか?」

「まだ質問に答えていただけてなかったので」

「……」

「もしかして、言えない事情でもあるんですか?」

「つまらない理由です。それでも聞きたいですか?」

「はい」

「ここは本来遠慮するべきところですが、あなたは正直すぎて世渡りが下手なのでしょうね。引きこもりになったのも頷けます」

「えへへ、よく言われます」


 真はこの指摘を笑って誤魔化すしかなかった。


 気になった事を追求する性格が仇になった事も少なくない。


「お兄様にはかつて多くの友人がいました。しかし、お兄様は気づいてしまったのです。お兄様が大学生だった時の事です――いつものように友人たちのいる所へ集まっていたら、みんなお兄様を金づるにしている事を笑いながら話していたのです。お兄様はそれで、何故みんな自分にだけ優しいのかに気づいてしまったのです。それからは人を疑うようになり、身内以外は誰も信用しなくなり、男性の事は仕事の道具、女性の事は性欲を満たす道具としか思わなくなったのです」

「――愛に飢えてるんですね」

「愛? ふふっ、そんなものは必要ありません」

「えっ!」

「この世はお金が全てです。愛でご飯が食べられますか?」

「むしろ愛がなかったら、何もやろうって思いませんよ。引きこもりになった時に、初めて気づいたんです。僕は色んな人に支えられてるんだなって」

「!」

「だから、ちゃんと稼げるようになって、姉さんを支えられるようになろうって思ったんです。だから辛い事があっても毎日働けるんです」

「……あなたの言いたい事は分かりました。お兄様の件についてはお兄様に代わってお詫びすると奏さんに伝えておいてください。慰謝料はいくらほど払えば良いのですか?」

「!」


 真は絶句した。彼女がお金で全てを解決できると本気で思い込んでいる事に。


 彼は段々と表情が真剣になり、目はムッとしている。


「そんなものいりません」

「要らないんですか?」

「ただ、一言姉さんに謝ってほしいのです。政悟さんに」

「それは無理な相談です。お兄様は実力もプライドの高さも桁違いですから。どうして慰謝料ではなく謝罪なのですか?」

「お金だけ払ってもまた同じ過ちを繰り返すのが目に見えているからです。お金は罪を取っ払うための免罪符ではありません。そんな使い方は間違ってます」

「名前通り、どこまでも真っ直ぐなお方なのですね」

「……あなたはさっき、政悟さんが人を疑うようになって、身内以外は誰も信用しなくなったと言いましたけど、それは京子さんにも、いや、あなたに至っては身内さえ信用できないんじゃないんですか?」

「!」

「あなたは黒杉家を出たいとおっしゃっていました。あの言葉が嘘でないなら、あなたは家族の事を見限っているからこそ――」

「いい加減にしてくださいっ!」


 彼女はまるで見透かされたかのように指摘されると、それを拒むようにさっきまで冷静だった表情が一変して真を睨みつける。


「それはあなたの思い過ごしです。もう良いでしょう。あたしはこれで失礼します」


 京子は金髪のダウンをなびかせながら真の前から去る。


「あの、一曲踊っていただけないでしょうか?」

「は、はい。初心者ですけど、構いませんか?」

「ええ、喜んで。私も初めてですから」


 真は突如後ろにいる女性から声をかけられて一緒に踊る。京子は思いつめたままの表情だった。


 何であの人、あたしをそこまで見抜こうとしたがるの?


 正直あの人と一緒にいると凄く不愉快ですが……でも……何故だかああいう人は嫌いになれません。どうしてかな?


 彼女はそんな事を考えながら他の人とぎこちないダンスをする真の後姿を嬉しそうに見つめる。


「あの、素朴な疑問なんですけど、どうして婚活法を始めたんですか?」


 政次とダンスを終えた奏がアルコールの勢いからか、政次に婚活法の真意を聞いてしまう。


 その時、周囲にどよめきが走る。


 彼女の行為は命知らずと言えるものだった。


「少子化対策の他、婚活市場を発展させる事で経済の活性化を図ろうというものです」

「その婚活法が元で、危うく1人の女性が望まない相手と結婚させられるところだったんです。どうか強制ではなく、任意にしていただけないでしょうか?」

「おいお前、誰に向かって物を言ってるんだ?」


 黒杉内閣支持者の1人が奏に忠告をする。すると政次が右手を頭と同じくらいの位置にまで上げて制止する。


「たったの週1回、お時間をいただくだけです。それが嫌でしたら結婚する事です。あなたはとても奇麗な女性なのですから、すぐに相手見つかると思いますよ。それにこうでもしなければ、衰退していくこの国を支える事など到底無理なのです。どうぞご理解を」

「……」


 政次が弁解を済ませると奏の元から去っていく。


 彼女は黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。

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