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第55話「密かな計画」

 ダンスパーティが始まると、大ホールではダンスに相応しいクラシック曲が流れ始め、次々と男女がダンスを始める。


 大ホールの端にはワインなどのアルコールやジュースの他、高級な肉や魚といった料理が並べられている。


 奏はそれらの料理を食べ始める。


「あの、一曲踊っていただけませんか?」

「は、はい。ダンス習ってないんですけど、構いませんか?」

「ええ、私がリードしますので」


 1人の紳士的な男が声をかけてくる。


 クラシック曲に合わせるようにアドリブのダンスを一緒に踊る。


「あなたも黒杉さんの支持者ですか?」

「いえ、誘われてきただけです。婚活イベントにカウントされると聞いたので」

「そうでしたか。私は黒杉財閥の繁栄を願い、このパーティに参加したのです」


 聞けばこの男、何やら黒杉財閥に肩入れしている様子。


 奏はこの男と話しながらダンスを続ける。参加者の半数は2階にある大ホールにいる。残り半数は自由解放された各フロアへと散っていく。


 その頃、4階の特別応接室にて――。


 慎吾は1人他の参加者たちから離れた場所でスマホをいじっている。


 そばには1人の黒服にサングラスのガードマンが倒れており、睡眠薬でぐっすり眠っている。当分は起きそうにない。


 後ろから隙を見て睡眠薬を嗅がせて眠らせていたのだ。


 4階には内閣執務室や総理補佐官室、5階には総理大臣執務室、官房長官執務室などがあり、慎吾はそこへ入る機会を窺っていた。


 1人のガードマンは倒したものの、他のガードマンは各部屋のドアの前に立ち続けている。


 彼はこれらのガードマンをどうにかどかせようと考えていた。


 数日前――。


「ええっ!? 赤羽さん自ら総理官邸にっ!?」

「ああ、婚活イベントの間は参加者たちを見張るために普段よりも4階や5階の警備が手薄になる。一般開放とは言っても4階以上の階は立ち入り禁止区域になってガードマン以外は誰も来ない。立ち入り禁止にするという事は、そこに見られたくない何かがあるに違いない」

「でもばれたらただじゃ済みませんよ」

「その時はお前が編集長の座につけ。そして必ず黒杉財閥を崩壊させろ」

「……」

「躊躇っている暇はない。誰かがやるしかないんだ。これ以上奴らの治世が続けば、また何の罪もない誰かが悲しむ事になる。これは黒杉財閥の秘密を暴く数少ないチャンス。何か得られれば儲けものだ。奴らは治世が長く続いた事ですっかり安心しきっている」


 ここは慎吾の自宅兼株式会社レジスタンス新聞の本部。


 彼は部下の中で最も優秀な者を呼び出し、まるで遺言を残すように後継を任せる宣言をする。


 慎吾と向き合って驚いた顔をしているのは、新島守(にいじままもる)、28歳。身長175センチ、金髪のスポーツ刈りでラフな格好をしているが、これでも慎吾に次ぐ凄腕のジャーナリストであり、レジスタンス新聞の一員である。


「でも総理官邸のダンスパーティによく招待されましたね」

「偶然にも知り合いに招待券を余分に貰っている者がいてな。おかげで潜入できそうだ。奴らが何かを企んでいるのは確かだ。俺はそれを突き止める」

「気をつけてくださいよ。何かあったら助けますから」

「余計な事はするな。お前まで捕まったら誰がこの会社を継ぐんだ」

「……」


 慎吾は倒れているガードマンの口と手足を縛りつける。彼はこの日のためにガードマンたちと同じ服装をしてきたのだ。


 黒いウエストポーチからサングラスを取り出して顔にかける。


 どこからどう見てもガードマンにしか見えなくなった慎吾は特別応接室のドアに手をかける。


 すると、曲がり角からやってきた徘徊中のガードマンと遭遇する。


「お勤めご苦労様です」

「見ない顔だな。お前新入りか?」

「はい。最近入ってきたばかりです」

「そうか、では引き続き見張りを続けろ」

「了解しました」


 静かな4階に黒い靴の音でガードマンが慎吾から離れていく。


「――んぐっ」


 慎吾は手に催眠薬をついたハンカチを持ち、後ろからガードマンに襲い掛かる。


 ガードマンは顔をハンカチで塞がれてすぐに気絶する。


 慎吾はこのガードマンも特別応接室へと運んでいく。


 これで4階のガードマンは全て無力化した。あとは探すだけだ。


 慎吾は()()()()()()を取り出すと、特別応接室に鍵をかける。


 その頃、大ホールでは奏がワインを飲んだせいか少しフラついている。


「あー、昼間っからワインなんて飲むもんじゃねえなー」


 奏が誰かにぶつかりその場に倒れる。


「いったぁ……もう、気をつけて――そっ、総理!?」

「申し訳ありません。怪我はありませんか?」

「は、はい」


 彼女がぶつかったのは政次だった。政次は彼女に手を伸ばすと奏がその手を取り立ち上がる。


「私は黒杉政次、こちらが妻の政子です。あなたのお名前は?」

「八武崎奏です」

「八武崎さん、飲むのは結構ですが、ほどほどになさってくださいね」


 政子が少し厳しい口調で奏を注意する。


「はい、すみませんでした」

「八武崎さん、よろしければ1曲踊っていただけますか?」

「……分かりました」


 奏は次のクラシック曲が始まると、政次とダンスを1曲踊る。彼女はふらつきながらも必死にリズムに食らいつく。


 その光景を京子は大ホールの端から静かに見守るのだった。

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新島守(CV:阪口大助)

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