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第54話「開会宣言」

 午後11時50分頃、真は京子と総理官邸の外で2人となる。


 奏は他の参加者に誘われ、2人から少し離れた場所で世間話をしている。京子は真に近づきながら上目遣いで彼を見る。


 真の髪は肩に届くかどうかのところまで伸びている。


 色んな事がありすぎて髪を切る事など考えている余裕などなかった。そして今は彼の親のように髪を定期的に切るように注意する者もいない。


「赤羽さんは総理を両親の仇と言っていましたけど、何か知ってるんですか?」

「詳しい事は分かりませんが、強引に店を乗っ取られて、それで両親共に屋上から飛び降りたそうです。それであたしたちを目の敵にしているみたいですけど、逆恨みも良いところです――」

「なっ、何もそんな言い方しなくても!」


 真が感情的になり京子を咎める。


「弱者が強者に負けた――ただそれだけの事です」

「何故そんな人権を無視するような事が平気でできるんですか?」

「人権? ふふっ、面白い事を言うんですね」

「?」


 京子が不敵に笑う。真はその様子を疑問に持ち、口を閉じたまま真剣な眼差しになる。京子は彼の耳元に近づき囁く。


「人権というのは、強者が自らを守る時に使う言葉です。当然弱者である内は働かなければ生存権さえ守れません。あなた方庶民はあたしたち資本家の奴隷でしかないわけです。それが資本主義社会であり、文字通り主人公である資本家以外は、資本家を支えるエキストラでしかないのです。あなたは映画やドラマでエキストラが1人死ぬ度に涙を流すのですか?」

「!」


 真は絶句する。彼女が真顔で恐ろしい事を囁いている姿に。


「本当に何も知らされずに生きてきたのですね」

「それが社会の真実だと言いたいんですか?」

「ええ、みんなそれを知らないから幸せそうに笑っていられるんですよ。あなたには悪い事を教えてしまいましたね」

「いえ、僕はそれが真実だとは思いません。もちろん合ってる部分もあるでしょうけど、あなたは1つ大きな勘違いをしています」

「勘違い?」

「誰にでも人権はありますし、あなたは庶民やエキストラと呼んだ人たちに支えられて生かされているという事を忘れています。主人公を名乗るのでしたら、相応の責任を背負っているという事を忘れないでくださいね」

「!」


 真の思わぬ返しに、京子の表情が少し変わる。


 姉さんに言われてから社会勉強をするようになったけど、まさかこれが反論に使えるとは思ってもみなかったな。


「おっしゃりたい事はよく分かりました。ですが1つになる事があります」

「気になる事ですか?」

「ええ……普段は引きこもりなんですよね?」

「昔は引きこもりでした。でも今は週1回婚活をしています」

「アフィリエイトって、働いてると言えるのでしょうか?」

「はっ、働いてますよっ!」

「ふふっ、冗談です」

「京子さんの冗談は冗談に聞こえないんですけど」


 2人が話していると午後12時を迎え、総理官邸の大ホールが解放され参加者がそこへ案内されると、一斉に多くの人がぞろぞろと移動を始める。


 大ホールにいるのは現総理大臣、黒杉政次(くろすぎせいじ)59歳。身長184センチ、黒い短髪のオールバックに高級な黒スーツを着ており、婚活法を施行させた張本人である。


 その隣にいるのが政次の妻である黒杉政子(くろすぎまさこ)、55歳。身長165センチ、黒髪のショートボブであり、黒を基調としたドレスを着ている。真はさっきまで離れていた奏と合流する。


「京子さん、政悟さんは来てるんですか?」

「いえ、お兄様は不在ですけど、会いたかったのですか?」

「――違います。言っても信じてもらえないでしょうけど、姉さんは一度政悟さんに襲われそうになった事があるんです」

「!」

「どうして政悟さんがそんな事をするようになったのか、教えていただけませんか?」

「そ、それは――」

「それでは今から、日本国政府主催の総理官邸ダンスパーティを行います。ダンスの参加は自由ですが、ダンスをされない方や休憩中の方は大ホールの端っこに寄っていただきます。一部の部屋を除き、総理官邸内にある部屋への出入りが自由となります。では総理に開会の挨拶をしていただきます」


 政次が司会からマイクを受け取ると、大ホールにいる人々が彼に注目する。


「国民の方々、本日はお集まりいただき感謝します。ついては食事をするなりダンスをするなりして楽しんでいってもらえれば幸いです。本日カップルが成立した場合は、抽選で1組に素敵なプレゼントをご用意しておりますので、どうぞお楽しみに。ではただいまより、総理官邸ダンスパーティの開催をここに宣言します」


 政次はマイクを司会に返すとそのまま最前列にいた参加者と交流を始める。


「姉さん、まずどうしよっか?」

「もちろんダンス……と言いたいところだけど、あたしもダンスは習ってないんだ」

「あはは……まあそうなるよね。京子さんは……あれっ、京子さんがいない」


 京子がさっきまでいた場所に首を向けるが、肝心の京子はいなかった。


「京子さん、どこへ行ったんだろう」

「そんなに京子さんが気になるのか?」

「色々と聞きたい事があったから。ちょっと京子さんを探しに行ってくるよ」

「お、おう……はぁ~、さて、どう過ごすかな」


 奏は真が心配になりながらもダンスパーティを楽しむ事にする。


 空気と一体化しながら大ホールの隅でワインを飲むのだった。

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黒杉政次(CV:加瀬康之)

黒杉政子(CV:平野文)

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