第48話「仕組まれたカップリング」
婚活イベント終盤、全員会場の端っこにある席に着いてスマホと睨めっこをする。
お互いがカップリングしたい相手を選んでいればカップリング成立だが。
その時、政悟が近いに近づいて何かを囁いていた。
奏はその光景を見ていた。
「本日は男性50人、女性50人にお集まりいただき、30代限定編も残すはカップリング発表の身となりました。そして今回は9組のカップルが成立いたしましたので発表いたします」
奏はまたあたしらは売れ残りだろうなと思いながら結果を見守る。
「男性番号33番、女性番号4番の方です。おめでとうございます」
「!」
奏が自分の番号である4番を呼ばれて驚く。
「奏、まさかあいつとカップリングしたのか?」
「いやいや、何かの間違いだって」
少し遠くの場所から政悟が奏を見ながらほくそ笑んでいる。
「それではカップリングしたお2人は前へ出てきてください」
奏はしぶしぶ政悟と共に前へ出る。
「やっぱりあの人も黒杉さん狙いかー」
「あたしたちを差し置いて生意気」
「そうそう、気に入られたからって調子に乗って」
「ちゃっかりゲットするなんてずるいよねー」
会場の端っこから妬みの言葉が奏の耳に入ってくる。奏は何かの間違いだと思い、司会にカップリングの確認を迫ろうとする。
「あの、ちょっと――」
「今回のカップリングを光栄に思います。ありがたい限りです」
政悟が彼女の言葉を遮るように会場中にカップリング宣言をする。
「それでは次のカップルの発表です――」
司会が彼女に構わず進行をし続ける。全カップルの発表が終わると、30代限定編はそこで幕を閉じるのだった。
「なあ、奏の様子おかしくねえか?」
「ああ、何か匂うな。とても三高の男とカップリングした女の顔じゃねえな」
樹も忠典も2人のカップリングに疑問を持っていた。
奏はカップリングしたというのに困った顔をしている。
「それではこの30代限定編を終了とさせていただきます。ありがとうございました」
「「「「「ありがとうございましたー」」」」」
ようやくお開きになり、多くの参加者が会場を後にし、カップリングできなかった人たちはまたかと言わんばかりの顔でトボトボ歩いていき、カップリングした者たちは奏たちを除き笑顔で手をつなぎながら会場から出ていく。
奏は政悟に詰め寄る。
「一体どういう事だ?」
「どういう事も何も、君は俺とカップリングしたんだ。ただそれだけの事だよ」
「あたしは誰ともカップリングしないボタンを押したはずだぞ」
「ならそのスマホを見てみろ」
奏は言われるままにスマホを見る。
「……!」
「もうカップリングしたののから、今更相手の合意なしに解除する事はできない。さあ、今から一緒に来てもらおうか」
「説明しろ。一体何をした?」
「何って俺はただ、司会に奏さんとカップリングしたいと一言言っただけだ」
一言言った? ……ハッ!
奏は政悟が結果発表前に司会に近づいたあの瞬間を思い出す。
「司会を操作したのか?」
「操作なんてとんでもない。君が恥ずかしがっているのを察して忖度してくれたんだろうな」
「今すぐカップリングを取り消せ」
奏は鋭い眼光で政悟を睨みつける。
「やっとこっちを向いてくれたか。嫌だと言ったら?」
「あんたを通報する」
「やれるものならやってみろ。今や警察も司法も黒杉財閥の言いなりだ。どうあがいても通報が届く事はない。八王子和成のようにはいかないぞ」
「何故そこまであたしに執着するんだ?」
「君は生意気にも俺の申し出を断った。庶民の分際でこの俺に楯突こうなど100万年早い。その事を思い知らせてやろうと思ってね」
政悟は薄気味悪い顔で奏を見下しながら腕を組んでいる。
奏には上から下まで着用している高級服が、彼の卑怯さを一層引き立たせているように見えた。
「さあ、一緒に来い。お前には教育が必要だ」
「やっ、やめろっ!」
政悟は奏の腕を掴んで一緒に連れて行こうとする。
奏は必死に抵抗するが、筋力の差で少しずつ引っ張られていく。その時だった。
「おい、その辺にしとけよ」
「!」
「樹っ! それに本多さん」
「まだ帰ってなかったのか」
「あいにくだが、俺はこいつの事に少し詳しいんでね。こいつはあんたみたいなキザ野郎になびく器じゃねえんだ」
「貴様、誰に向かってものを言っている。黒杉財閥の次期当主筆頭だぞ」
「それが次期当主筆頭のする事かよ?」
「何っ!」
政悟が奏の手を離すと、奏はすぐに樹の後ろに回る。その前をガードするように樹と忠典が立ちふさがる。
「良いだろう。少し遊んでやる」
政悟はそう言うと戦闘態勢に入り、そのまま樹たちに襲いかかる。
「ぐはっ!」
「ぐうっ!」
「樹っ! 本多っ!」
奏はボコボコにされて倒れた樹と忠典に駆け寄ろうとするが政悟に腕を掴まれてしまう。司会を含めたその他の人々は既に帰った後であり、当事者以外でこの光景を見た者はいなかった。
「大人しくしろ。俺の一声であいつらをいつでもクビにできる」
「……この卑怯者っ!」
奏が政悟を殴ろうとするが、その腕まで掴まれてしまう。
奏は涙目になりながら怒った顔で政悟を睨みつけてるのだった。
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