第45話「妥協できない女」
真は婚活法の本当の理由を探し続けていた。
しかし奏はそんな真を密かに心配している。
机には米、味噌汁、レタス入りのマヨネーズ白パスタ、タルタルソース付きチキン南蛮、ほうれん草の胡麻和え、ひじき豆が2食分置かれている。
「姉さん、今日はどんな婚活パーティなの?」
「ふふふ、聞いて驚くな。『30代限定編』だ」
「という事は30代の人しか来ないって事?」
「そうだ。あたしは丁度30だから最年少ってわけだ」
「じゃあ1番モテるかもしれないって事?」
「そうだな。でも過度な期待はしないよ。この前の街コンは全然駄目だったからな。男はみんな20代の女の胸ばっかり見ていやがった」
「あはは」
奏が急に不機嫌になり顔がムスッとなる。
彼女は街コンでの大敗を思い出しては悔しがる。
真はそんな彼女の怒りを苦笑いして誤魔化すしかなかったのだ。奏は人一倍負けず嫌いであり、カップリングする事が少ない婚活イベントとは相性が悪い。
まずはカップリングをしなければ先には進めない。
奏はその事に焦りを感じていた。
「姉さんの魅力が分からないなんて、みんな人生損してるね」
「真……」
「姉さんの事を気に入ってくれる人がいつか現れるから大丈夫だよ。そういえば、姉さんはどんな男が好みなの?」
「普通の男で良いんだよ。身長も学歴も年収も普通くらいあれば良いんだよ」
「普通の年収ってどれくらい?」
「500万とか」
「ちょっと待ってね」
真はマリブラから『条件絞りツール』を使う。
条件絞りツールとはマリブラに登録されている全ての未婚者の中から条件を絞り込み、登録者全体の内、条件に見合う人の比率をパーセンテージで割り出す事ができるのだ。
「――マリブラだと、年収500万円以上の人は9.6%だって」
「きゅ、9.6%って10人に1人いないのか……」
奏はこの絶望的な数字に絶望していた。
マリブラへの登録者は婚活法によって婚活が義務づけられている20歳から49歳限定となっている。より稼いでいるのは50代以上であるために比率が低かった。
しかし婚活法を利用する事によって儲けている人もいるため、このような数字になっている。
「マリブラのAIが言うには、もっと条件を下げた方が良いでしょうだって」
「うっ……やはりそうなるか!」
奏は頭を抱えながら落ち込む。
「でも姉さん、この前は三低男性限定編に出ていたんじゃないの?」
「あの時は年収400万円くらいの相手でも良いと思って出たんだよ。身長も学歴も気にしないけど、やっぱ年収は譲れないよ。うちは若手のミスで危うく大赤字のピンチになったからな。つまりうちの会社はいつ潰れてもおかしくないっていう事が分かっちまったんだ。だからカップリングをする上で年収は妥協できなくなった」
「年収400万円でも15.2%しかいないよ」
「じゅっ、15.2%だとっ! 400万円でもそうなのかっ!?」
「姉さん、年収400万円は低くないよ。僕なんてその半分あるかどうかなんだし、2人合わせて500万円とかの方が良いと思うけどなー」
「はぁ~。真……後は頼む」
「う、うん」
奏は落ち込みながら婚活用の私服に着替えて家を出る。
真は2人分の食事の食器洗いをしている。
奏の行き先は港区にあるビルの中である。
そこから少し遠くの高層ビルでは黒杉財閥の陰謀が渦巻いていたのである。
東京某所のオフィスビルにて――。
社長室には政悟と京子の2人きりである。
政悟は高そうなスーツを着ており、京子は肩の見える赤を基調とした派手な服を着ている。髪形は少し変わっており、金髪ツインテールにリボンをつけている。
「今度のお見合い相手はどうだったんだ?」
「全然駄目。でも1人だけ骨のありそうな人を見つけた」
「ほう、それはまた珍しい」
「あの八王子和成の陰謀を暴き、逮捕に導いた青年。あたしより少し年下だけど、可愛いだけじゃなくて度胸もあるみたいなの」
「あれからあの八王子グループの株が落ちているようだな。全く、余計な事をしてくれる。して、その男とカップリングはしているのか?」
「うん、一度会ってみる?」
「いや、結構だ。庶民に近づくと貧乏がうつるんでね。俺も今から婚活イベントだ。じゃあ行ってくるよ。親父のせいでまた庶民に触れる事になる」
「まあ、それは同意だけど」
「京子、分かっているとは思うが、黒杉家の次期当主に相応しい者を婿入りさせるんだぞ。一般庶民とはつき合わない事だ。良いな?」
「……分かってる」
京子は少し曇った表情で返事をする。しかし従うつもりは毛頭なかった。
お兄様には悪いですけど、あたしはこの黒杉家からはおさらばさせていただきます。もうこの家で身内同士が覇権を争うところを見るのはうんざりなんですよ。
彼女はそんな事を考えながら1人社長室に立ち尽くすのだった。
午後12時50分、奏が婚活パーティの会場へと辿り着く。会場には30代の男女が集まっており、少しでもいい相手に気に入られようと女性陣は派手な格好をしている。
奏はその場でスマホを見ながら時間を潰すのだった。
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