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第44話「事件後の夜」

 食卓の上はいつもより少し贅沢だった。


 米、味噌汁、レタスのオリーブオイル漬け、トンカツ、サバの味噌煮、卵焼きがそれぞれ2食分乗っており、どれも奏の好物だった。


 いつものように真が手洗いとうがいを済ませてから2階で記事を書いていたところに奏が1階から比較的大きな声で夕食の知らせをする。


 警察からは事件の事を口外しないように言われていたため、事件の事には全く触れなかった。事件の当事者が何も語れないのもどうかと思いながら1階へと降りていく。


「真、食べながらで良いからさ、事件の詳細を教えてくれよ」

「ニュースで出たとおりだよ」


 真がテレビをつけると、ニュースで今日の結婚式の事が報じられていた。


『株式会社マリッジワールドの社員である八王子和成容疑者が、恐喝と暴行未遂の罪で結婚披露宴の会場で逮捕されました。八王子容疑者は交際相手を脅し、その交際相手に結婚披露宴会場でダガーナイフを突きつけるなどの行為を行った罪に問われています。八王子容疑者は自分は無実であると供述しており、容疑を否認している模様です』


 奏はニュースの報道から菫がどうなっていたかを想像し呆気に取られる。


「なあ、あの報道ホントに合ってんのか?」

「言ってる事は間違ってないよ。幸いにも立花さんたちが助けてくれたおかげで何とかなったし、僕やスミちゃんの名前は出てないから良かったけど、あの時は本当に危なかったよ」

「スミちゃん、ダガーナイフを突きつけられたのか?」

「うん、実は――」


 真は奏に全ての成り行きを話す。


 奏は珍しく勇敢に立ち向かった真に感心する。


「まさかあの事件に樹が絡んでいたとはねー」

「僕の話をすぐに信じてくれて、僕が結婚披露宴会場まで行くのを助けてくれたし、スミちゃんの事も同僚の人と一緒に助けてくれたんだよね」

「――あいつは昔っから馬鹿で真っ直ぐすぎるところがあるけど、困ってる人を放っておけない良い奴でもあるんだよな。見直したよ」


 真は更に詳細に話す。ガードマンを突破した事や、菫を取り返した事である。


「じゃあ、もう少し遅かったら、スミちゃんはあいつと結婚させられてたのか?」

「いや、その時はスミちゃんのお父さんが盾になる予定だったらしいよ。でもそうなっていたら、有力な証拠も突きつけられないまま、もっと酷い仕打ちを受けていたから、結果的には僕が乱入したのは正解だったってスミちゃんが言ってくれたよ」

「その後は事情聴取か?」

「うん、詳細は誰にも話すなって言われてるから、誰にも内緒だよ」

「んな事口が裂けても話せねえよ。スミちゃんを助けるためとはいえ、実の弟が結婚式に乗り込んでそれを台無しにしたなんて、世間の笑い者だからな」

「えへへ」


 真は食事を終えて歯磨きをしてから風呂に入ると2階へ上がり、慎吾に今日会った事は伏せ京子の件のみを報告する。


『赤羽さん、京子さんの脅しから解放されました』

『そうか。それは良かったな。何か心当たりはあるか?』

『いえ、ありません。でも婚活法の本当の理由を一緒に探すという部分は継続したいと思います。彼女も僕に期待してくれているようです』

『黒杉家の者には決して気を許すな。あいつらは目的のためならなんだってやるような連中だ。絶対に信用してはいけない』

『分かりました。来週の日曜日に黒杉家主催の婚活イベントの招待状をウェブ上でもらったのですが、10日も先になりますけど、一緒に行きませんか?』

『ああ、良いぞ。何かあれば儲けものだ。じゃあな』


 真はスマホを閉じると動画の編集を始めるが……。


「ふーん、黒杉家主催の婚活イベントに行くんだー」

「うわっ! 姉さんいたのっ!?」

「ああ、さっきからずっとな」

「もう、おどかさないでよー」


 真はイヤホンをパソコンにつないだ状態でBGMを聞いており、扉を開けっぱなしにしていたために後ろからの気配に気づけなかった。


 真は慌ててスマホを隠すがもう時すでに遅し。


「京子さんの事を他の人にも話してたんだな」

「ずっと悩みを隠し続けるのが辛かったから、つい話しちゃった」

「相手は誰なんだ?」

「ジャーナリストの人だよ。黒杉家の陰謀をスクープする事を夢見てる」

「あんまり関わらない方が身のためだぞ」

「うん、分かってる」


 奏は真に忠告するとパジャマ姿のまま自分の部屋へと戻る。


「ふう、今日は色んな事がありすぎたな――」


 真もこの日は疲れていたのか、一仕事を終えてから就寝する。


 1週間後――。


 真は奏と慎吾に黒杉家主催の婚活イベントの招待状を贈る。


 チケットはウェブ上で管理されている電子式のものであり、3枚も配られていたため、それらを相手のアドレスに送ったのである。


 このイベントまであと3日であった。


 真は相変らず家で仕事をしており、菫と頻繁に連絡を取るようになる。菫の両親は無事に就職先を見つける。菫もこれで一安心していた。


 この日の奏は婚活イベントのため婚活休暇を取っている。


 彼女は真と共に平日の昼食を取る。奏は事実上の週休3日となっていたが、婚活ばかりでは仕事ができないためバランスを意識している様子。


 事件から時間が経ったのか、2人共リラックスしていたのだった。

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