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第41話「最後の招待客」

第3章突入です。

不定期更新ですがよろしくお願いします。

 菫は真たちによる救済に心から感謝し安堵していた。


 午後3時過ぎ、樹が警察を呼んで待つ事となった。和成は横たわって気絶しており、その近くにはダガーナイフが落ちている。


 その一部始終を見ていた者たちはこの光景に恐怖を覚えた。


「皆さん、うちの馬鹿息子がとんでもない事をしました。申し訳ありません」


 和成の父親が菫と彼女の両親に向かって謝罪する。


 菫の父親が少しずつ和成の父親に歩み寄る。


「もう良いんです。こうして無事に解決したのですから。ですが、うちの娘をあなたの家に嫁がせるわけにはいきません。残念ですが……ご縁がなかったという事で。それと、これをお受け取りください」


 菫の両親が和成の父親に2枚の『辞表』を出す。


「……何故辞めるんです?」

「うちの娘をあんな目に遭わせるような人がいる会社にいたくはありません。元はと言えば、私たちが安易にあなた方の会社に就職したのがこの事件の発端ですから、私たちにも責任はあります。娘のためにもけじめをつけようと思いまして」

「……分かりました。受理しましょう」


 和成の父親はこの辞表をもって事実上の『破談宣言』をされ、その場に黙って座り続けるしかなかった。もし真が来なかった場合は、婚姻届けを破り捨てて辞表を提出するつもりだった。


「真って長月さんの彼氏のふりをしてたのか?」

「はい。この人からの縁談の話を断るために話を合わせてほしいとの事でしたので。でももうその必要はなくなりましたね」

「……」


 菫が少しばかり複雑な顔になる。


 この時、彼女の中にはただの幼馴染としてではない別の感情が生まれていた。このまま彼氏のふりをし続けなければまたこんな事が起きるのではないか。


 彼女はその不安を隠せずにいたのだ。


「マコ君、もし良かったらなんだけど、これからも……その……彼氏のふり、してくれないかな? またこういう人に言い寄られた時の言い訳にしたいから」

「――うん、良いよ」

「もうさ、いっその事ホントにつき合っちまえよ。お似合いだと思うぜ」


 忠典が茶化すように本交際を勧める。半分はノリであり、半分は本当に似合ってるという想いからである。


「えー、でも僕にはもったいないですよー。僕はスミちゃんを幸せにしてくれる人が現れるまで、彼氏のふりを続けたいと思います」

「もったいなくないのに」

「ん? スミちゃん何か言った?」

「別に――」

「じゃあ、俺たちは事情聴取を済ませて仕事に戻るか」

「戻ったらもう定時だと思いますけどねー」


 菫はウェディングドレスを着たまま拗ねている。


 樹たちは空気を呼んだのか彼らから離れ、真と菫の2人だけが離れ小島のように部屋の隅っこに残される。


「お父さんもお母さんも、会社にいられなくなっちゃった」

「きっと何とかなるよ。僕も再就職先を一緒に探してみるからさ」

「……ありがとう」

「ところで、いつまでその恰好でいるの?」

「! もう! 雰囲気台無しだよ」

「台無しになったのは結婚式でしょ」


 その時、高いヒールの音が鳴り、真たちがそれに気づく。


「! 京子さんっ!」

「真さん、ちょっと良いですか?」

「は、はい」


 その場に残っていたのは京子だった。彼女は大勢の人が逃げ惑う中、たった1人ここに残っていた最後の招待客である。


「マコ君、知り合い?」

「うん、この前お見合いをした黒杉京子さん」

「奇麗な人だね」

「お褒めに預かり光栄です。真さんあなたに話があります」

「あー、分かりました。じゃあ、ちょっと行ってくるね」

「うん……」


 菫は少し不安そうな顔をしていた。ウェディングドレスに負けず劣らずの豪華な衣装、金髪ツインドリルの堂々とした表情に押されていた。


 彼女は女性としての気品で負けたと本能的に確信したのだ。


 真と京子は誰もいない会場フロアの外に出る。


 そこには緊張状態の真と、冷静沈着な京子が立っている。彼女は突然の事態にも顔色1つ変えず肝が据わっている様子だった。


「あなたの行動は全て拝見させてもらいました」

「まさか京子さんがいるとは思いもしなかったので」

「八王子家は婚活法が始まって以来、日本でも有数の巨大企業です。他にも財界の重鎮がたくさんいたでしょう。あたしも黒杉財閥の代表として来ていたのですが、まさかあんなに面白い救出劇を見られるとは思いませんでした」

「あれは忘れてください。思い出すのも恥ずかしいので」

「いいえ、忘れられません」


 京子が突如真剣な表情になり真を見る。


「あんな勇猛果敢に女性を守ろうとする男性の姿を見れば、心動いちゃいますよ。あれであなたがただ者でない事はよく分かりました。真さん、この前の非礼はお詫びします」

「非礼?」

「婚活法の本当の理由を探すように脅した件です。勝手ではありますが、あの事はもう水に流していただきたいのです」

「それは願ってもない事ですが、一体どうして?」

「深い意味はありません。ただ、それが最善と思っただけです」


 京子は顔には表さなかったものの、真の思わぬ洞察力には驚いていた。彼女はこのままだと自分も告発されてしまうのではと思い、先手をうつ事にしたのだ。


 真にとっても安心できる提案だった。


「あの、それは構いませんけど、婚活法の本当の理由は僕も気になっているので、もし良ければ一緒に探し続けませんか?」

「えっ?」


 思わぬ返しに初めて京子の顔色が変わる。


 この人、もう解放されたというのに……一体何を考えて。


 まあいいか……もう少し泳がせておきましょう。


 彼女はそんな事を考えながら再び無表情に戻り、彼を観察し続ける。


「分かりました。では予定通り、来週の黒杉家主催のパーティに出席していただけますか?」

「はい、分かりました」

「このパーティは政府公認の婚活イベントとして扱われます。招待状もスマホにあるあなたのマイページにお届けしておきます。うちでもあんな事をされては困りますから」

「あははは、そんな事しませんよー。あの、友人も連れて行って構いませんか?」

「ええ、構いませんよ。では招待状を3枚分お届けします。ではあたしはこれで。ごきげんよう」

「はい」


 京子はそう言い残すと去っていく。


 その後ろ姿を、真はしっかりと目に焼きつけるのだった。

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