第38話「こじ開けられた運命の扉」
樹たちが時間稼ぎをする中、真は会場の前まで来る。
スミちゃん、必ず僕が助けるからね。
真はそう心の中で決意すると、披露宴会場の扉を少しずつ開けようとする。
その時だった。
「!」
彼は後ろから追いかけてきたガードマンに腕を掴まれ捕まってしまう。
その後ろには樹と忠典もいた。
「あっ、ちょっと、離してくださいっ!」
「駄目だっ、招待状を持っていない者を通すわけにはいかないっ!」
「やめろっ、真を離せっ!」
2人のガードマンの後ろから樹と忠典が抵抗をする。
「このぉ、てめえらただじゃおかねえ!」
真たちは人数で勝ってはいるが、捕まっては振り解く作業の繰り返しだった。受付は輝彦が見張り続けている。
2人のガードマンが披露宴会場の前に立ちふさがる。
「通してください。彼女が結婚してしまう前に、どうしても伝えたい事があるんです」
「駄目だっ!」
「だったら力ずくでいくしかねえな」
「そうだな」
「「「うおおおおっ!」」」
真、樹、忠典の3人は必死に2人のガードマンと格闘して道を開けようとし、3対2の押し合いが激しく繰り広げられていた。
披露宴会場の扉は固く閉ざされており、外の音が中へ漏れる事はなかった。
その様子を輝彦と受付が見つめている。
「あいつは今日の花嫁の幼馴染で、彼女を救うためにやってきたんです」
「救うとは?」
「実は――」
その頃、結婚式は終盤に差し掛かり、役所の人が婚姻届けを会場内にいる人全員に見せるパフォーマンスをする。
「それでは最後に、この婚姻届けに新郎新婦が同時に判を押し、役所の方への提出をもって結婚完了となります。その瞬間を皆様でご覧になってください」
この時には多くの人が食事を終えており、食べた料理が次々と片付けられていった。
婚姻届けは判が押されていない部分以外は完璧な状態であり、あとは菫と和成が持っている家の判を押すだけだった。
もうっ、マコ君の馬鹿っ! 信じてたのに――。
「では新郎新婦のお2人さん。最後に同時に判を押してください」
和成がコクッと頭を下げ、2人が同時に判を構える。
「せーのでいきますよ。皆様もご一緒に」
「「「「「せーのっ!」」」」」
大きな音が会場中に響き渡る。
「「「「「!」」」」」
多くの人が音の鳴った方向を見ながらざわついている。
菫が気づいてみれば披露宴の扉が大きく開いており、樹と忠典が倒れながら横たわっているガードマン2人の足をガッチリ掴んでいる。
そしてその後ろには真の姿があった。
多くの人がシワ1つない奇麗に手入れされた一張羅を着て立ち尽くす中、彼は雨に濡れ、ガードマンとの格闘でシワシワになった一張羅を着ている。
樹、忠典の2人がガードマンを押さえつけている間に真が樹の指示で勢いよく助走をつけ、重なっている樹と忠典の後ろから体当たりし、その衝撃でガードマン2人が吹っ飛び、閉ざされたと思われた運命の扉を自らこじ開けたのだ。
菫と和成が婚姻届けに判を押す間一髪のところだった。
「スミちゃんっ!」
「マコ君っ!」
2人は何日かぶりの再会を果たして抱き合う。
菫は突然のサプライズにこの日初めての笑顔を見せる。
その姿には和成も会場に集まった人たちも開いた口が塞がらなかった。
「これは一体どういう事だね?」
和成の父親が菫の父親をギロッと睨みつけながら尋問をするように質問する。
「申し訳ございません。あの子には仲の良い幼馴染がいまして、どうやら遅れてやってきたようです」
「初めて見る子だが、良い目をしているな」
「あの子一体何? いきなり出てきて花嫁と仲良しそうに抱き合うなんて」
「うん、おかしいよね」
周囲の人たちがひそひそと話し始める。
和成はこの状況を何とかしようと真に歩み寄る。
真は和成を睨みつけ、菫は怯えた顔をしながら真の後ろに隠れる。
「君さー、自分が何やってるか分かってる?」
「もちろん、分かっています」
「これはね、れっきとした犯罪行為だよ。今すぐこの人たちをつまみ出してください」
和成が比較的大きな声でガードマンを呼ぶと、真は司会からマイクを強奪する。
「――あなたがした事は違うんですか?」
「何だと」
「その婚姻届けに判を押して提出する前に、1つ約束してください。今この会場の人たちがあなたの罪を認めたら、結婚を中止してください」
「……おいおい、何を言うかと思えば……そんな事認められるわけ――」
「良いでしょう」
「お父さん」
えっ、あれが和成さんの父親?
黒を基調とした和風の一張羅を着た和成の父親が席を立ち、和成の元までやってくる。古そうな眼鏡をかけ、肌の所々にシワがあり、和成とは異なり威厳のある風貌であった。
「お前が潔白だという自信があるなら約束してやれ」
「えっ、でもこいつはそもそも招待状を持っていないんだよ」
「それでもここへ来たという事は、余程の理由があるという事だ。お前もそれくらい分かるだろう。聞けば菫さんの幼馴染と言うではないか。それとも何かやましい事でもあるのか?」
「……いや、そんな事は」
「だったら応じてやっても良いじゃないか。して、君が息子の罪を証明できなかったらどうするおつもりかな?」
「その時は、二度と彼女に会わないと約束します」
「そうか。では話してみろ。息子の罪とやらを」
この人、自分の息子がピンチだというのに、何て正々堂々としているんだ。いや、ここで屈してはいけない。
無理を通したんだ。ここまできたらもう最後まで押し通すしかない。スミちゃんを救う最後のチャンスだ。真は深呼吸を済ませ冷静になる。
幼馴染を守るための戦いはもう始まっていたのだ。
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