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第29話「思わぬ再会」

 真が席に座ろうとすると、そこには久しい顔が見える。


 男3人が揃う一方で女の姿はない。ここは男性の方が人数が多いのだ。


 男女の数に差がある場合は話す相手のいない人が出てくるのだが、そんな時はしばらく待っていれば次に入ってきた異性が自動的に案内される仕組みとなっている。


「ん? あれっ? 八武崎だよな?」

「――もしかして上野君?」

「ああ、立川もいるぞ」

「八武崎、久しぶりだなー」

「立川君も一体どうしたの?」

「どうしたも何も、婚活法で仕方なくな」


 おかっぱ頭に会社帰りのスーツを着た高校生くらいにしか見えないこの男、上野稔(うえのみのる)、25歳。身長162センチのサラリーマンである。


 その隣の席に座っている肩に届くくらいの黒髪で眼鏡をかけているこの男、立川智幸(たちかわともゆき)、25歳。身長173センチで同じくサラリーマンである。


 いずれも真の『元同級生』であり、真とは何度か遊んだ仲であった。


 真のブログやチャンネルの常連でもある。


 彼らの席にはアイリッシュコーヒーが2つ置かれている。稔も智幸もほろ酔い状態であったためか声が大きめである。


「最近ずっと婚活法の記事書いてるよな?」

「うん、最近は婚活イベントのレポート記事とかも書くようになったからね」

「八武崎もついに競争の激しいところに手を出したか」

「元はと言えば全部婚活法が原因だからねー。何でこんな法律始まったんだろうね」

「そりゃ結婚しないと子供が産めないからじゃね?」

「そうだなー、でも俺は独り身でいたいから50歳を迎えるまで我慢するしかないよ。週1回遊びに行くイベントだと思ってるよ」

「俺は若くて可愛くておっぱいの大きい子とつき合いたいから丁度良かったよ」

「そいつが立川を選ぶと思ってんのかー?」

「それを言うなよ。つき合えたらラッキーだって思ってるだけだし、さっきの店には全然いなかったというか、年上ばっかりだったよな?」

「ああ、いかにも売れ残りって感じのな」


 稔には『結婚願望』はなかったが、智幸には結婚願望があった。


 結婚願望のない者にとって婚活法は週1回の懲役刑でしかないのだ。


 しかし結婚願望がある者にとっては障害の伴侶を見つけられるチャンスである。どちらかと言えば結婚願望がある者の方が多数派であった事もあり、反発はそこまで大きくなかった。


 上野君も立川君も理由は特に知らないか。


 真はそんな事を考えながらこれ以上の詮索は諦める。


 少子化対策説を挙げてきたと言う事は、何も知らないと言っているのと同じであると真は考えている。名目上の説をそのまま出すという事は、特に疑問に思って調べる事もしない人の回答だからである。


 既に出ている説以外の説を出す人がなかなかいなかったが、真は涼音が言っていた他の法案を通すためのフェイクであるという説に注目する。


 これも既に出ていた説の1つではあったが、これを回答した者は少なかった。


「あっ、そういえば八武崎の幼馴染にいたよなー、若くて可愛くておっぱいの大きい子。名前なんて言ったっけ?」

「もしかしてスミちゃんの事?」

「あー、そうそう。なあ、あいつを俺に紹介してくれよ。あっ、でもあいつマジで可愛いからもう『売却済み』だったりして」

「だな。あんな可愛い子が『売れ残ってる』とは思えないな」

「「あははははっ」」


 彼らはアイリッシュコーヒーでほろ酔いになっていたのか、店中に聞こえるような大声で話し続ける。菫がどんな状態であるかも知らずに須丹礼の事も笑いながら話す。


 真にはとても耐えられなかった。


 今まさに菫が売却済みの女として売られるように結婚していく事を知っていたからだ。


 一部の客は稔と智幸の言葉に気分を悪くしており、彼らを白い目で見ていたが本人たちは気づかない。


 真は彼らの()()()()()()にイラッとしたようにうつむきながら、彼らが黙ったところで口を開く。


「あのさ――そういう言い方、やめてもらって良いかな?」

「「……ん?」」

「女は男の所有物じゃない! 売却済みとか売れ残りとか、そういう言い方はスミちゃんに対しても、頑張って婚活してる人たちに対しても失礼だろっ! 女を何だと思ってるんだよっ!?」


 真は席から立ち上がり、ずっと和成に対して持っていた怒りが爆発する。彼は物凄い剣幕で今まで以上に大きな声で稔と智幸を叱りつける。


 店内はシーンとなり、全員が真を見つめる。


「あっ、す、すみません。失礼しました」


 真はようやく状況に気づくと、全方向にいる客に頭を下げ再び席に着く。


「な、何かすまんな」

「俺も悪かったよ」

「いやいや、良いんだよ。僕も怒っちゃってごめんね」


 稔も智幸も真の剣幕に押されて謝罪する。


 それを見ていた周囲の女性たちは真に関心を寄せる。


「あの、ここの席良いですか?」

「私もご一緒させてください」

「あたしもお願いします」


 真たちの空いているテーブル席に女性参加者が次々と集まってくる。


 稔も智幸は彼女らに頭を下げ、ようやくその場が和み始めたところで男女が同じくらいの人数分揃う事となった。しばらくは真と女性参加者を中心とした会話が続き、真たちは丸井珈琲を後にする。


「はぁ~、やっと終わったぁ~。八武崎ずっと女たちと話してたよなー」

「何故かは分からないけど、みんな僕に笑顔で話してくれてたのが嬉しかったな。しかもみんな僕にメアドを交換してくれたよ」

「あんなにちやほやされてる八武崎を見たのは初めてだよ。そういえば、八武崎ってずっと引きこもりだったよな?」


 稔が思い出したように真の引きこもり時代に触れる。


「うん。でも婚活法ができてからは度々外に出ないと行けなくなったから、婚活法が始まってからは引きこもりを卒業する破目になっちゃったよ。引きこもりだった時の僕は、世間知らずで、無力で、ずっと姉さんに依存しないと生きていけない奴だって気づかされた」

「そっか、さっきのお詫びと言っちゃあれだけどさ、俺らも婚活法が始まった理由を探してみるよ。何かあったらら連絡するわ」

「ホントにっ!?」

「ああ、ホントだ」


 真は稔と智幸たちとメアドを交換する。


「じゃあ俺たちもう帰るから、じゃあな」

「うん、じゃあねっ!」


 真は稔と智幸と別れ、太陽が沈みライトだらけになっていた夜の東京の街へと繰り出す。


 彼は時計回りに次の店へと向かうのだった。

街コン回です。

あともう少し続きます。

上野稔(CV:江口拓也)

立川智幸(CV:木村良平)

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