第24話「いつもの社内」
真は自分の部屋にあるパソコンで王子ホテルの日程を調べる。
次の木曜日まであと1週間だった。真にとってはこれがタイムリミットである。
お見合いを無事に済ませた場合は婚活イベントを行ったものとして扱われる。
このままだとスミちゃんが結婚させられちゃう……でも一体どうすれば……スミちゃんが次の木曜日に結婚させられるのは分かったけど――。
「はぁ~」
真はため息をつきながらいつものように記事を作成して投稿する。
記事の内容は『婚活法が始まった理由』である。
婚活法にまつわる考察は色んな人が既に行っており、色んな説が出ていた。
少子化対策説、婚活イベント活性化による好景気狙い説、婚姻率上昇による支持率上昇狙い説といった説が多く出回っていた。
真はこの記事で婚活法にまつわる仮説を募る事にしたのだ。
彼の動画チャンネルにいる常連視聴者が度々見に来る。
しかし今回はなかなかコメントが来ない。既に出尽くした説を今更蒸し返す者は皆無に等しかった。
4日後――。
午後3時、真は昼から記事の執筆に励んでいた。
そして生放送でも情報収集を始めるが、興味深い説は未だに見つからず。
真はメールを受信したスマホを開く。
『婚活法が始まった理由は分かりましたか?』
『一般人の情報収集だけでは限界があります。何か有力な手段があるでしょうか?』
『今度黒杉家主催のパーティが行われます。是非いらしてください』
『分かりました』
今度はこのパーティ内で情報を探れって事か。
真はそんな事を考えながら菫にメールを送るが返事は帰ってこない。彼はますます菫の事が心配になってきた。
スミちゃん、今頃どうしてるかな?
「あれっ、今度は姉さんからかな?」
真が今度は奏からのメールを見る。
『今日街コンあるんだけど、一緒に行くか?』
『街コン?』
『意味が分からないなら調べとけ。夕方までには返事よこせよ』
『うーん、よく分からないけど行ってみるよ』
『今日は乗り気だな』
『今日はもう仕事が終わったからね』
『羨ましいなー、自営業は』
『はいはい、じゃあ姉さんの会社に行くね』
とりあえず街コンで出会った人から色々聞こうかな。
ネットが駄目なら足で稼ぐしかない。
その一方で奏は会社のオフィスで今日の業務に苦戦中であり、婚活イベントのために残業をしない事を部長に伝えた後だった。
「奏さん、何でそんなに急いでるんですかぁー?」
真凛がパソコンのキーボードをカタカタ鳴らしながら仕事をしている奏に声をかける。
「何でって、夕方から街コンがあるから、それに向けて早く終わらせようとしてんの」
「婚活イベントがあるなら婚活休暇を使えば良いんじゃないですか?」
「婚活休暇が使えるのは朝から昼に婚活イベントがある場合だけだ。夕方と夜は婚活休暇の対象外なのを知らないのか?」
「へぇ~、知らなかったな~。でも婚活イベントなら明日に回せば良いんじゃないですかぁー?」
「仕事に本気出せない奴が恋愛で本気を出せるとは思えないし、婚活休暇をサボりの口実にしたいならとっとと辞める事だな。ここはやる気のない人間が来る場所じゃない。それくらい分かるよな?」
「婚活で全然カップリングしないからってそんなに躍起になってたら男が遠のいちゃいますよぉ~」
「真凛ちゃん、そんな言い方ないと思うよ」
奏の隣で仕事をしている姫香が真凛に注意をする。
「ちぇっ、つまんねーの」
真凛が捨て台詞を残し、相変らず闊歩するように去っていく。
「真凛さん、もう仕事終わったんですかねー?」
「ほっとけ、あいつはそんなに長くない。うちは中小企業とは言っても実力主義の職場だから、サボりまくってたらある日突然上司に肩を掴まれる事になるかもな」
「奏さん、真凛さんとの間で何かあったんですか?」
「別に。大した事じゃないよ。あたしの婚活に対する考え方が甘かった事を彼女に見抜かれてさ、それでちょっと落ち込んだ事があるってだけだよ」
「酷いですねー。真凛さんはカップリングしてたんですか?」
姫香が奏の横顔を見ながらさり気なく探りを入れる。情報屋気質の彼女はこうやって人から情報を仕入れるのだ。
「いや、あいつは完全に遊びに行ってる。姫香はどうなんだ?」
「私は1人の男性とカップリングができました」
「それは良かったな」
「はい、周りの参加者が30代以上の人ばかりだったんですけど、みんな私が29歳だって事を知ると群がってきてしまって、言い方は悪いですけど『入れ食い』というか、選び放題でしたよ。周りが20代ばっかりの時は全然声をかけられませんでしたから、やっぱり世の男性たちは若い子が好きみたいですね。あっ、ごめんなさいっ! 別に奏さんをディスったわけじゃないんです!」
「分かってるよ。事実を言っただけだろ」
「えへへ。そういえば、奏さんは今日婚活イベントでしたっけ?」
「ああ、街コンだよ。これしか余ってなかったからな」
「私も一緒に行って良いですか?」
「別に良いぞ。まだ余ってるはずだけど、早めに済ませとけよ」
「はいっ!」
姫香は奏と一緒に街コンへ行ける事に心をワクワクさせる。
奏は会話が終わらせ再び業務へと戻るのだった。
日常回です。
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