第22話「悪魔の契約」
真と京子の2人きり部屋を沈黙が支配し、真の緊張感はピークに達していた。
京子は残った料理を食べ終えると、さっきの真の疑問に疑問で返す。
「私が黒杉家を出たい理由、聞きたいですか?」
「い、いえ、無理に聞こうとは思わないので、そちらの判断で構いません」
「まっ、せっかくですからお話しします」
「はい」
「――元々黒杉グループはお父様が大学を卒業して事業を始めてからというもの、その頃は景気が良かった事もあって、あっという間に全国中に居酒屋チェーン店を構える巨大企業に成長しました。政治的にも大きな影響力を持つようになってからは、ついに世界中に居酒屋チェーン店を構える世界的企業に成長したのです。しかしその頃からお父様の欲望が止まらなくなって、いつしかお金を稼ぐために政治に介入までするようになり、総理大臣になってしまったのです」
「京子さんにとっては喜ばしい事じゃないんですか?」
「それはもちろん嬉しいですけど、その反面、あたしたち家族に全然構ってくれなくなって、お父様はあたしに早く結婚して子供を産めとしか言わなくなったんです。もうあの家には戻りたくありません。だから早く結婚して、家庭に入りたいのです。あたしは専業主婦希望ですけど、収入面の事ならお気になさらなくて結構です」
真は昼食の残りを食べながら黙々と聞いている。
やっぱりスミちゃんが言ってた事は本当だったんだ。
真は菫の台詞を思い出し、彼女の台詞と照らし合わせていた。京子は愛に飢えている様を訴えるように話す。
「言いたい事は分かりましたけど、何故僕にそれを?」
「――何ででしょうね。あなただったら、何故だか話せる気になるんです」
まっ、これはお見合いした人全員にお話ししているんですけどね。お父様はお兄様にしか婚活法の本当の理由を話していませんから、今度はこいつを使って探ってもらいましょうか。
京子はお見合い相手を使い、事の真相を探っていた。
以前京子がお見合いし、カップリングした相手は黒杉グループの社員であった。彼は『情報収集』に失敗した事で京子の逆鱗に触れ、会社をクビになってしまったのだ。
しかもこの事を他の者へばらせば彼の家族を全員無職へ追いやると脅す事で、彼らによる告発の機会さえ奪った。
彼女が暴君令嬢と呼ばれる理由がここにある。
そして今度はそのターゲットに真が選ばれたのだ。
「そこで1つ、真さんにお願いがあります」
「お願いですか?」
「はい、あたしとカップリングして、何故お父様が婚活法を始めたのか、その理由を探っていただきたいのです」
「ええっ! 婚活法を始めた理由ですかっ!?」
「そんなに大きな声を出さないでください。他の人に聞かれてしまいます」
京子は慌てて真を注意した後で人差し指を自分の唇の前へ移動させ、相手を静かにさせるジェスチャーをする。
「ご、ごめんなさい。で、でも、そんな事、僕にはできそうにありません」
「あなたの事は調べさせてもらいました。あなたのお姉様の奏さんは会社員、お父様も会社員でお母様が専業主婦。そしてあなたは実質フリーの個人事業主、もしあなたがこの申し出を断れば、奏さんもお父様も全員クビにします」
「!?」
真は絶望に満ちた顔へと変わる。
いきなり家族の申し出を天秤にかけられてしまったのだから無理もない。
「黒杉財閥は日本中の会社と関わっている巨大グループです。他の企業の社員の1人や2人をクビにさせるくらい容易いものですよ」
「……何故そこまで、婚活法の真相を知りたいんですか?」
「名目上は少子化対策のためと言われていますが、どうもそんな理由で婚活法を始めたとは思えないからです。お兄様は少子化対策は二の次とおっしゃっていましたから間違いないでしょう。では交渉成立なのであれば、あたしとメアドを交換しましょう。話の詳細は後々お話しします」
京子はそう言うとスマホを取り出して真に見せる。
「……分かりました」
真はしぶしぶと要求を呑み、彼女とメアドを交換する。
彼にとっては……これが『悪魔の契約』の始まりであった。
「ではあたしはこれで帰ります。ごきげんよう」
「……」
京子はそう言うと執事を連れて帰宅をし始める。
真は彼女が悠々と去っていく様を見届けるしかなかった。
京子は外に停まっている黒い高級車の前に着くと執事が後部座席をドアを開け、彼女が後部座席へ座るとドアが閉まり、すぐに運転席へと執事が移動する。
「出しなさい」
「はい、お嬢様」
そのまま京子を乗せた黒い高級車は去って行った。
「ふぅ、やっと終わったぁ~。でも厄介な事になっちゃったなー」
真は疲れ果てた顔でソファーに座る。そこに奏たち家族がやってくる。
「真、彼女はどうだったんだ」
「う、うん。うまくいったよ」
「本当か?」
「うん、メアドも交換したし、カップリングしたよ」
「気に入られたんだねー。凄いじゃない」
「ああ、これで八武崎家も安泰だな」
「……」
両親が喜ぶ一方で真は苦笑いをする。奏は真のサインにすぐに気づく。彼女は心配そうに誠を見守っている。
安心しきった両親が帰宅すると、奏は真を問い詰めようと考えるのだった。
お見合いの続きです。
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