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第21話「緊迫したお見合い」

ここから第2章となります。

お楽しみくださいませ。

 その頃、真はリビングの低いテーブルがある場所に座る。


 彼の向かい側にはあの黒杉京子が出された緑茶を飲みながら座っている。


 真たちは緊張している様子だったが、京子は余裕の表情である。彼女の後ろには白髪の執事がおり、いつでも指示通りに動けるよう待機している。


 八武崎家の外には『黒い高級車』が停まっており、明らかな場違い感がある。


 真は不慣れなスーツ姿でびくびくしながら汗をかいている。京子は赤を基調としたセレブリティ溢れるコーデを身にまとい、左側に流した金髪のサイドダウンで目を半開きにさせながらスマホ画面にある真のプロフィールカード見つめている。


 少し大きめの胸にくびれたウエストを真は直視できなかった。


 真の後ろには両親がおり、奏は昼食用のメニューを作っている――。


「――あなたの人となりは大体分かりました。いくつか気になる事があるんですけど、あなたは自営業をなさっていらっしゃるとか」

「は、はい。普段はブログの記事や動画の広告収入で暮らしています」

「ふーん……就職しなかったのはどうしてですか?」

「えっと、僕は昔から集団が苦手で、学校に全く馴染めなかったんです。ですので外に出て誰かと一緒にするような仕事は向いていないと思いまして、それで今の仕事を始めたんですけど、やってる事はほとんどニートみたいなものです」


 真には『作戦』があった。自分をだらしない男に見せる事で相手に幻滅してもらい、そのまま交際お断りのメールを貰うという何とも消極的な作戦である。


 真はその作戦を実行するべく、何を聞かれてもネガティブな回答に徹しているのだ。


「やっぱ、駄目ですよね? ――定職に就かない事が原因で婚活イベントでも全然相手にされなかったんですよね」

「あたしは嫌いじゃありませんよ。そういう人」


 京子がニコッと笑いながら答える。


「あたしは一応資本家をやっています。収入は全て株なので労働はしていません。なので普段は黒杉財閥の顔として、来日してくる世界中の大富豪たちを相手に交流をしたりしています。今日はお父様もお母様も忙しいのでお連れできませんでした」

「いえいえ、仕事なら仕方ないですよ。あははは」


 株だけで生計を立てられるって事は、相当な株を持ってるって事だ――これは確実にあたしらの収入を遥かに超えてるだろうし、結婚したら確実に尻に敷かれるな。


 それ以前に釣り合うかどうかだが。


 後ろで会話を聞きながら調理をしている奏が京子の分析をする。そしていつもより豪華な定食セットをリビングまで持っていく。


「随分と料理上手なお姉さんですねー」

「はい、凄く美味しいんですよ。姉さんの料理は世界一美味しいんです。姉さんが僕の姉で本当に良かったと思ってます」


 会話を聞いていた奏が顔を赤らめる。


 そっ、そんなに褒めるなよ! 恥ずかしいっ!


 ふーん、庶民の調理にしてはなかなかの味ですね。これならうちのシェフにしても悪くないかもしれませんね。


 2人共しばらく黙ったまま食事をする。テーブルには料亭で出そうなメニューが2食分揃っている。姉さん、いつの間にこんなの習得したんだろうと思いながら食べる。


 主に刺身や揚げ物が中心である。


「普段からこういうものを食べてるんですか?」

「いえ、普段はもっと一般的な定食です」

「今カップリングしている人はいるんですか?」

「いえ、いません」


 その時、真の脳裏には菫の姿が浮かぶ。


 スミちゃん、今頃どうしてるかな? 確かお見合いだったような。


 真は菫の事を思い出しながら彼女の心配をする。


「では、後は若いお2人でごゆっくり」


 豊がそう言うと楓と共に去って行く。それを見た京子は執事に「あなたも下がりなさい」と告げて2人きりになろうとする。


 執事は「はい、お嬢様」と言い残して部屋から出る。


 そしてこの部屋は真と京子の2人きりになる。


 聞き耳を立てられないように執事が真の家族たちを2階へ行くよう進言する。


「――ようやく2人きりになれましたね」

「そ、そうですね」


 こいつ、さっきからずっと弱腰でネガティブだし、全然張り合いがない。可愛い顔だから気に入ってたけど、こいつも他の男とおんなじってわけ?


 京子は見下すような顔で真を見つめながら思いに耽る。


「あたしは今までに何度かカップリングした事がありますけど、いずれも失敗に終わっています。どいつもこいつもつまらない人たちばかりで、あたしの頼み事を全然こなしてくれないんです。それでまたランダムマッチングお見合いをしてみたら、それで当たったのがあなただったというわけです」


 京子の口調が急に変わる。さっきまでの上品なお嬢様のような雰囲気は一気に崩れていた。


「そうだったんですねー。確かマリブラって5日以上婚活イベントに参加していないと、自動的にマッチングを始めるんですよね?」

「ええ、一応条件を絞り込む事も出来ますけど、あたしは歳が近くて婚活に熱心な人を条件にしたんです。ですがあなたからは結婚しようという気が全く感じられません」

「!」


 突然の指摘に真が驚く。京子はどこか悟ったような顔をしている。


「その反応は本当のようですね」

「そっ、そんな事はっ!」

「良いんです。そういう人がいる事も知ってますから。あのマッチングアプリにはまだまだ欠陥がありそうですね。ですが、あなたは今までに会ってきた男共とは違って正直なところがあります。他の人はあたしとつき合おうと見栄を張って失敗する人が後を絶ちませんでした。あたしと結婚しても黒杉家の財産が手に入るわけでもないのに」

「――そうなんですか?」


 真は京子が思った以上に苦戦していた事に驚き、反応するのが精一杯だった。


「ええ、実を言うと、あたしは黒杉財閥から早く出たいのです」

「出たいとは、どういうことですか?」


 京子はさらに深刻そうな顔になり、何かを覚悟したように真を見つめるのだった。

第2章の始まりです。

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