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第19話「営業部の婚活事情」

 一方その頃、樹は午前の外回りが終わった同僚たちと社内で雑談をしていた。


 ビルの看板には『ホームクリエイター建設株式会社』と書かれている。


 樹はこの会社の『営業部』に所属する社員である。


「どうだったんだ?」

「はい、一応外回りしてきました。でもみんな新居をすでに購入した人ばっかりで全然営業になりませんでしたよ」

「このごろずっと、営業しなくても新居を買う人が増えたからなー」

「そうですね。婚活法が施行されてからは、婚活イベントへ行くのが嫌で『カタコン』をする人が増えましたからねー」


 樹の隣の席で愚痴るこの男、青山輝彦(あおやまてるひこ)、24歳。身長175センチ、ワカメのようなぼさぼさで黒髪のショートヘアーが特徴的であり、樹と同じ部署の後輩である。


「そんな事をして何の意味があるんだか――婚活法が廃止されるまで週1で遊びに行くような感覚で行けば良いのによ」

「立花さんってストイックですね」

「ストイック?」

「はい、何というか……適応力が高いというか、すぐに順応するというか。俺なんて婚活イベントにお金をかけるのが嫌でカタコンを考えてるくらいですよー」


 ――カタコンとは『形だけ結婚』の略称である。


 文字通り特に愛情もないまま身近な知り合いと結婚の手続きだけを済ませ、婚活法から脱出するという裏技であり、婚活法と共にニュースのトレンドとなっている。


「確かに婚活って金かかるからなー」

「ブラコンの登録は無料ですけど、婚活イベントの会場へ行くまでの『交通費』に婚活イベントの『参加費』にカップリング後の『交際費』、自由時間は減っていくのに出費は増えていく一方ですし、しかも男は参加費5000円もあるのに、女は参加費無料のところありましたからね。不公平にも限度ってもんがありますよ」

「俺に文句言うなよ。でも何で男の方が参加費高いんだろうなー」

「女は稼ぐ力がないって思われてるんでしょうねー。どう考えても就職せずに花嫁修業をしている家事手伝いとしての参加が前提になってるとしか思えないですよ」


 そこへもう1人のスーツを着たハリネズミのような黒い短髪でスーツ姿の男が現れる。


「おっ、立花も青山も戻ってたか」

「本多か。いつもより早いって事はそっちも駄目らしいな」

「まあな、よっこいしょっと。営業する前からみんな他の会社の新居を買っちまってるんじゃ、もうこの営業部要らねえかもな」


 そう嘆きながら自分の椅子に座り、両手を頭の後ろで繋いでいるこの男、本多忠典(ほんだただのり)、30歳。身長172センチ、樹の同期であり、樹とは就活をしていた頃の戦友である。


「縁起でもねえ事言うなよ」

「現にそうだろ。そういえば立花は婚活どうしたんだ?」

「ここまでに3回参加したけど、未だに収穫なしだ」

「立花もかー、青山は?」

「俺は3回行って全部カップリングしちゃいましたよー」

「「3回もカップリングしたのかっ!?」」


 唐突に樹と忠典が驚く。


 特に樹にとってはカップリングは1人までという思い込みがあったため、予想外の回答に驚きを隠せなかった。


 マジかよっ!? そればれたらやばいやつなんじゃねーの?


 樹は修羅場を想像しながら青山の回答を待つ。


「カップリングしたとは言っても、あくまで仮交際ですから、最終的にはカップリングした人の中から選ぶ事になるんですよ」

「青山も相当ストイックだな」

「仕事以外ならできるんですけどね」

「へいへい、どうせ俺は仕事以外何にもできねーよ」

「そうグレるなって、立花は誰か気に入った相手とかいねーのか? 例えばほら、学生時代に仲が良かったやつとか」

「――学生時代に仲が良かった奴か」


 樹は咄嗟に奏の事を思い出す。


 仲が良かったというよりは腐れ縁であると考えている。


「その顔はいたなー」


 本多がからかうように樹に話しかけ想像を遮断する。


「いるにはいるけどさー、そいつは何というか……男っぽいんだよなー」

「へぇ~、どんな子なの?」

「俺の元同級生、中小企業の商品開発部で立派に係長やってるよ」

「確かに男っぽいな」

「プロフィールカードはあるか?」

「あるよ。これだよ」


 樹は自分のスマホを取り出して奏のプロフィールカードを見せる。


 婚活法により、マリブラに登録されている全てのプロフィールカードは公開情報になっており、自由に他の人に紹介する事ができる。


 プロフィールカードには氏名、生年月日、年齢、特技などがある。男性のみ年収の欄があり、女性のみ得意料理の欄がある。


「女は良いよなー、年収公開しなくて良いからさー」

「女は女で得意料理を書かないといけないからどっちもどっちだよ」

「――でも結構可愛いじゃん。俺に紹介してくれよ」

「多分俺たちより稼いでるぞ」

「俺は自分より稼いでいる人は全然抵抗ないですけどねー。何なら養ってほしい」

「「うわ……」」

「今時男の方が稼いでいないといけないって考えは古いですよー」

「そういう問題じゃねえよ。あいつは1人で人生が完結しているような奴だ。結婚願望はあるみたいだけどよ、あいつはプロフィールカードにもあるように弟と一緒に暮らしてる。奏と結婚したら漏れなく弟もついてくるぞ。あいつが稼げない奴だったら、弟の方は今でも実家だっただろうに。弟ブロックでお見合いを何度かふいにしちまってる」


 樹は奏と久しぶりに再会した時、お互いの過去を少し話していた事を思い出す。


 自分の中にある膿を少しでも多く取り除こうとするかのように。

今回は樹回です。

もうしばらく続きます。

青山輝彦(CV:浅沼晋太郎)

本多忠典(CV:森久保祥太郎)

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