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第17話「招かれざる客」

 真たちはまるで家にいるかのようにくつろぎ、メニューが決まると注文ボタンを押す。


 和を意識している割に注文はタブレット形式というハイテク感が目立つ店であり、ボタン1つで注文が可能である。


 真は『和風ソースのハンバーグ定食』を注文し、菫は『焼き魚定食』を指でクリックしてから送信ボタンを押す。しばらくすると和服姿の店員が注文の品をカートに乗せて運んでくる。


「はいどうぞ」

「どうも」

「うわー、美味しそう!」

「ではごゆっくり」


 店員がお辞儀をして去っていく――。


 米、味噌汁、野菜の漬物までは同じだが、真の方には和風ソースのハンバーグ、卵焼き、ほうれん草のゴマ和えがあり、菫の方にはオレンジ色に染まった鮭、肉じゃが、豆腐などがある。


 数が多い分サイズは控えめである。


「――うん、美味しい」

「これ全部奏さんが開発したものなの?」

「いやー、全部ではないと思うけど、どれが姉さんの案かは手に取るように分かるよ。これも姉さんとの思い出の定食だから」

「和風ソースのハンバーグ定食が思い出なの?」

「うん、姉さんは辛い時にこれを作る癖があるんだ。商品開発部で初めて通った姉さんのアイデア商品だから、これを食べると元気が出るんだって。他のメニューはその日の気分次第だけどね」

「結構詳しいね」


 真と菫は雑談をしながら和食処平和飯を後にする。


 彼らは真の家まで一緒に歩く。


「何だかデートみたいになっちゃったね」

「これは立派なデートだと思うよ。でもまた今度も行こうよ」

「そうだね。あっ、そうだ。明日は僕お見合いだけど、スミちゃんはどうするの?」

「私は一旦帰るね。お見合いなのに別の異性が家にいちゃまずいでしょ?」


 菫は愛想笑いをしながら帰宅宣言をするが、真には一切不安な顔を見せない。


 帰りたくない。菫はそう思っているが、真の予定には逆らえない。


「確かに」

「じゃあ私こっちだから。昨日は泊めてくれてありがとう」

「うん、気をつけてね」


 菫はニコッと笑って真から離れて帰宅する。


 彼女は実家暮らしであり、家は平屋建てである。


 菫は鍵を使って開錠してから家に入る。


「ただいまー」

「おっ、おかえりー」

「!」


 菫は意外な人物の返事に驚き、強張った表情になる。


 彼女の目の前には例のドラ息子が立っていたのだ。青いスーツ姿に三高男性を思わせる風貌、自信に満ちたドヤ顔。


 彼の名前は八王子和成(はちおうじかずなり)、31歳。株式会社マリッジワールドの社員にしてそこの社長の御曹司である。


 身長166センチ、これがコンプレックスなのか見栄っ張りでお調子者である。キザな言動が目立つ小心者だが、目的のためなら手段は選ばない。


 彼は菫と最初の恋愛下手限定編で出会い、一目惚れしていたのだ。真が大変そうだと思いながら見ていた男性陣の囲いの中にもいた。


 その和成が菫の実家に上がり込んでいたのだ。


「菫、今までどこへ行ってた!?」


 菫の父親が和成の後ろから怒った口調で声をかける。


「彼氏の家だけど――何でこの人がいるの?」

「菫が朝を迎えても帰ってこないと聞いてここまで来てくれたんだ。和成さんは良い人だぞ。和成さんと結婚すれば幸せになれる。明日には和成さんとのお見合いも控えているというのに、何で帰ってこないんだっ!?」


 菫が家に帰りたくなかった理由は他でもない。


 和成に家を特定され、度々菫の家に遊びに来るようになっていたからだ。


 菫はほとぼりが冷めるまでは真の家に泊まろうと思っていたが、真が自宅でお見合いをする事が決まったために帰らざるを得なくなった。


「あの、お父さん。菫さんと2人きりにしてもらってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ。私たちは向こうの部屋にいますので」

「菫、くれぐれも粗相のないようにするんだよ」

「……」


 菫の父親は和成に気を遣い、菫の母親と共に端っこにある部屋まで去っていく。菫の両親は株式会社マリッジワールドに勤めるサラリーマンであるため、社長の御曹司には手も足も出ないのだ。


 玄関から上がった先の廊下で菫と和成の2人きりになる。


「ずっと心配してたんだよ。愛しのマイスウィートハート」

「あの……一体どういうつもりなんですか?」

「どういうつもりも何も、急にいなくなったって聞いたから心配して家まで来たんじゃないか。愛しの恋人がいなくなったって聞いたら、男は誰でも探しに行くものさ」

「恋人じゃないです。それに私、彼氏がいるので」

「あー、それなんだけどねー。別れてくれないかなー?」

「!?」


 和成の口調が急に変わり本性を現す。菫は思わぬ言葉に恐れおののく。


 彼氏がいるって思わせれば諦めてくれるって思ってたのに――どうして……。


 菫はそう思いながら無念の中涙目になる。


「君の両親はうちの社員だ。その気になれば俺の一声でいつでもクビにできる」

「――それは脅しですか?」

「脅しじゃない、お願いだ。別に断っても良いんだよ。それは君の自由だけど……よく考える事だねー。それとも家族全員で仲良く路頭に迷いたいのかなー?」


 和成が菫のパーソナルスペースを無視して彼女に近づく。菫は後ろへ下がろうとするが後ろが壁になっていてこれ以上は下がれない。和成は菫を追いつめ壁に手を置く。


 菫は怖さのあまり震えて目を瞑る――。


「こっ! 来ないでくださいっ!」

「その怖がる姿もすっごく可愛いよー」


 何なのこの人! マコ君……助けてっ!

お待たせしました。

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八王子和成(CV:柿原徹也)

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