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第16話「不穏な噂」

 真はブログの記事を投稿し終えると、可愛いパジャマを着た菫を見る。


 まるで天使を見たかのように真のほっぺが緩み笑顔になる。


 この時はもう午後11時を過ぎていた。真が窓越しに外を見ると、近所の家の明かりは時間が経つにつれて段々と消えていく。


「マコ君、何かいやらしい目になってるよ」

「気のせいだよ。別に怪しい事はしないよ」

「当たり前だよ。そんな事したら社会的に抹殺してやるんだから」

「言う事が酷いなー。スミちゃん、僕の話を聞いてもらって良いかな?」

「何かあったの?」

「うん、実は――」


 真は2日後に黒杉財閥の令嬢とのランダムマッチングお見合いをする事になった話を菫に伝える。菫は真の話にただただ驚くばかりだった。


 菫は黒杉財閥の家族事情を知っていた。


 それだけに真には同情せざるを得なかった。


「それで親からも釘を刺されちゃって、もうどうしようかと思ってね」

「マコ君――心して聞いてほしいんだけど、黒杉財閥が世界中に店を構えている居酒屋チェーンが本業だって事は知ってるよね?」

「うん、その事なら姉さんが教えてくれたよ」

「黒杉財閥は今の総理大臣がいる本家以外にもいくつか分家があって、その中でも特に才能のある人だけが黒杉財閥の持ち株を全部受け継いで本家を名乗る事ができる。だからたとえ本家の子供であっても油断はできないの」

「それがどうかしたの?」


 真はきょとんとした顔で菫を見つめる。


 菫の表情は真剣そのものだったが、この時の真には伝わっていない。


「本家の仲間入りを果たせば一気に世界トップクラスの資本家になれて、一生お金に困らないって言われてるんだけど、あの人たちは本家を名乗るために小さい頃から行き過ぎた英才教育を受けたせいで、みんな人格に問題を抱えた人ばっかりになってしまったっていう説があるの」

「僕、そういう人とマッチングしちゃったんだ」

「あの人たちには人としての温かみがないの。常に勝つ事を強いられている立場の人たちだから仕事では些細なミスも許されない。私も一度黒杉財閥の人と会った事があるんだけど、何だか常にピリピリしていて苦しそうだった。くれぐれも怒らせたりしない方が良いよ」

「――あの人たちがなかなか結婚できない理由がよく分かった気がする」


 菫はかつての出来事を思い出す。とても人のする事とは思えなかったからである。


 真はすぐに菫の様子に気づく。


「スミちゃん、どうかしたの?」

「いや、ちょっと昔を思い出してね」

「黒杉財閥の人と会った事とか?」

「うん、私は争う気なんて全然なかったんだけど、たまたま同じ学校にいた黒杉財閥の人に目をつけられて……それで不登校になっちゃった事があるの」

「多分自分より美人な人がいるのを許せなかったんだろうね」

「……私としてはデートに誘われた時だけつき合って、少しずつフェードアウトしていくのがお勧めだと思う」

「僕もそうするよ」


 真はいつものベッドに、菫はベッドの横に敷いた布団に横たわり、お互いが眠くなるまでずっと話し続けたのだった。


 翌日、この日はお見合いの前日である。


 午後1時、少し遅めに起きた真は菫と共に珍しく一緒に昼間から外を歩く。


 真のスマホにお見合いの時間が通知される。


「あっ、メールだ……えっと、明日のお見合いの時間は午後12時にうちでだって――うちっ!?」

「えっ、じゃあマコ君の家でするの?」

「そうみたいだね。何でうちなんだよ。とりあえず姉さんに伝えとかないと」

「もしかして掃除させるつもり?」

「別にしなくても良いけど、早く伝えた方が良いと思って」

「そういうのを催促って言うんだよ」


 菫は目を半開きにさせて呆れ顔になりながら指摘する。


 ――真たちは近くの定食屋まで食べに行く。奏は朝余裕がなくて真の分まで作れなかったのだ。こんな時だけは真も外食をする。


 彼は婚活法が始まる前までは趣味、買い物、外食以外では外に出る事がなく、外出頻度は3ヵ月に一度外出するかどうかであった。


 真たちの行先は奏の商品開発部の企画が反映されている『和食処平和飯』という店だった。


 店の外は木でできた引き戸になっており、どこか昔の日本を思わせる古風な作りであり、その姿は見る者の心を落ち着かせる。


「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」


 真たちは近くのテーブル席へ対面するように座りメニューを見る。


 店内はゆったりとした三味線のBGMが流れており、テーブルも椅子も壁も全てが和を意識した手の込んだ木製であった。


 真たちはすっかり話の雰囲気に包まれ現実を忘れそうになる。


 メニューは家で奏が作っていた献立がいくつかあった。


「――ここのメニューって昨日奏さんが作った献立に似てるね」

「そりゃそうだよ。姉さんは商品開発部の係長やってるから」

「そういえばマコ君に食べさせて実験させてるって言ってたね」

「えへへ、実験につき合わされた甲斐があったね。ここのメニューだったらどのランチセットでも美味しく食べられる気がする」

「私もそう思う。奏さんの料理美味しいからね」


 姉の案が採用されている事を確認すると、真は思わず笑みを浮かべる。


 真たちは上機嫌のままメニューを注文するのだった。

お泊り回です。

展開は少しゆっくりめになります。

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