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第12話「親からのメール」

 翌日、真は奏に昨日のメールの件を相談しようと部屋を出る。


 奏は婚活イベントのショックから立ち直っていた。


『本気』でカップリングをしに行くのではなく、『気軽』に合コンするような感覚で力を抜いていこうと考えるようになっていたが、同時に婚活イベントのあり方に疑問を持っていた。


 ――この日は土曜日で真も奏も休みなのだが、真は3日後のお見合いを父親から持ちかけられる。


 午後12時過ぎ、雨が降る中、真も奏も昼食を食べる。


 机には米、味噌汁、奈良漬け、ひじき豆、チキン南蛮、卵焼きが2食分ある。


 味噌汁には包丁で細く切った油揚げ、サイコロのように切った豆腐、ワカメが入ったスタンダードな構成である。


「お父さんがそんなメールを真に送るなんて珍しいな」

「普段は頑固でプライドが高いお父さんだからね。多分余程僕が心配になったんだろうね。姉さんは親からメール来てないの?」

「一応以前から何度かお見合いの話があったけど、何度かお見合いしてからは全部断ってる。なのに今でも世間体が悪いから結婚しろしろうるさいんだよ」

「僕もずっと就職しろしろうるさかったから分かるよ。でも何で断ってるの?」

「お父さんが紹介してくる人って、こう無難な人ばっかでさー、人としての面白さや深みが全然ないというか、いまいち好きになれないんだよ。しかも専業主婦になってほしいっていう人ばっかりだし、考えが古いんだよなー」

「姉さんは姉さんで大変なんだね」


 真は両親からうるさく言われているのは自分だけではない事を知り、まるで仲間ができたかのように安堵する。


 奏は両親の話を忘れようと話題を切り替える。


 思い出すのも嫌である様子だ。


「最近近所の人が1週間以上も婚活イベントに出なかったとかで『逮捕』されたんだって」

「ええっ! それ本当なの?」

「どうも本当らしい――例えば日曜日に婚活イベントに参加したら、次の日曜日が終わるまでにまた婚活イベントに参加しないと逮捕されるから気をつけろよ。そういえば真も最後に婚活イベントに行ってからもう4日経つんだよな?」

「うん、スミちゃんと一緒に『20代限定編』に参加したんだけど、スミちゃん人気は相変わらずだったからスミちゃん困ってたよ」

「――無理もねえだろ。ルックスは童顔で可愛くて髪はサラサラのロングヘアー、胸も大きくて足も細長いし、性格の大人しさもあって男からは人気がある部類だからなー。しかもまだ25歳、男共に囲まれてちやほやされながら後ろで指をくわえて見ている女共に嫉妬されてる姿が容易に想像できるよ」

「あはは、やっぱスミちゃんは凄いよ。仕事も僕なんかよりもずっと将来性あるし……僕と違って凄くモテるし……尊敬してる」


 真は顔を赤らめながら笑顔で菫の事ばかりを話す。


 奏は目を細めて無表情のまま残ったチキン南蛮と米を交互に食べながら真の話を聞き流す――向上心の強い彼女にとって他の女の自慢をされる事は悔しさ以外の何ものでもないのだ。


「そんなに気になるならデートに誘ってみたらどうだ?」

「でっ! デートっ!?」


 真が予想もしない提案に驚く。


 まるで子供のようにデレデレしている弟を、奏は嬉しそうな顔で見つめる。


「スミちゃんは人見知りだけど、真が相手なら応じてくれるかもよ」

「でっ、でもっ、僕にはもったいないくらい良い子だよ」

「スミちゃんと『結婚』すれば理想のパートナーと一緒に過ごせるし、婚活法からも脱出できるんだぞ。それとも50歳まで婚活イベントで無駄に時間を潰しながら毎週逮捕されるかどうかにずっと怯えながら過ごすか?」


 奏は菫との交際を示唆しながら婚活法につき合い続けるデメリットを提示する。


 それはまるで、20代の内に結婚できなかった自分のようにはならないでほしいと背中を押すように。


「――誘うだけだよ。それで無理だったらもうしないからね」

「ふふっ、武運を祈る」


 彼女は菫に嫉妬しているのは自分も同じであると自覚しながら、食べ終わって空になった食器が複数乗った盆をキッチンまで運ぶ――。


「ご馳走様。じゃあ僕、仕事あるから」

「ああ、家計厳しいんだから少しは稼いでくれよ」


 真は駆け足で2階まで上がり作業を始める。


 真は起きてから寝るまで基本ブログの記事ばかりを書くが、姉の不在時や就寝時は誰にも邪魔されないよう部屋に鍵をかけ動画撮影や生放送をする。


 ブログは主にオピニオンであり、今は婚活イベントへ行った感想や婚活法に対して思う事が書かれた内容が多い。


 動画は主に最新のゲームばかりだ。


 モンスターを卵から孵化させて個体を厳選したり、無料ガチャを回したりしながら雑談をしたり、ビデオゲームやカードゲームのオンライン対戦をしながらコメントに口頭で返し、その生放送を動画として垂れ流しにしたりする。


 真にとってこれらの作業がすっかり『生きがい』になっていた。


 だが同じ事をしている人もそれなりにいたため、意図せず競合する事になっていた。


 不意にインターホンが鳴る。


「あれっ、こんな時に誰だろう……宅配かな?」


 こんな時に応対するのはいつも姉だ。しばらくすると見慣れた顔が真の部屋へとやってくる。


「ええっ!? お父さんにお母さん!?」

「久しぶりだな」

「元気してた?」

「う、うん」


 真が回転椅子ごと後ろを振り返ると、そこには父親と母親が立っていた。


 何やらただ事ではない様子だった。

今回は日常回です。

次回は両親回になります。

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