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第10話「参加者たちの本音」

 昨日まであんなに人気がなかったのに、今日はやけに女が多いな。


 それにしても真凛の奴、あんな考え方で婚活をするつもりなのか?


 奏はそんな事を考えながら真凛が去った方向を向いている。


「あの、プロフィールカードを交換していただけますか?」

「あっ、すみません。どうぞ」


 奏は婚活アプリを使い、相手とプロフィールカードを交換する。婚活アプリの通信機能を使う事で合意があれば近くの相手とプロフィールカードを交換する事ができる。


 これは真が使っていた婚活アプリと全く同じ仕組みである。


 奏が参加しているのは『三低男性限定編』であり、年収300万円未満の男性ばかりが集まった内容の婚活パーティであるが――。


 奏の最初の相手は29歳男性、年収250万円、自営業。グレーのスーツを着たもじゃもじゃ頭の男である。


「自営業をなされてるんですね」

「はい。普段は小さいバーを営んでおります。なので、結婚する相手には必ず共働きしてほしいと思っているんです」

「それなら心配は要りませんよ。私はずっと働くつもりなので」

「――私よりも稼いでるんですね」


 相手の男は劣等感を抱えたような顔で呟くように言う。


「何か問題でも?」

「いえ……そんな事は」

「――あたし、何度かお見合いさせられた事があるんです。その時に一度相手の男から、あたしの方が稼いでいるのが生意気だって陰口を言われた事があるんです」

「そうでしたか。私は相手の方が稼いでいると、いつか女性の方に頼る事になるのでは? と思ってしまうんです」

「頼って良いと思いますよ。女性が男性の世話になるのがOKで、男性が女性の世話になるのがNGな理由がよく分からないんですよね」

「私もよく分かりません。まあこれは刷り込みの部分が大きいでしょうね」


「はい、終了でーす。男性の方は1マス隣の個室へ移動してください」


 司会が笛を吹き男性参加者全員へ移動を促す。


「じゃあ私はこれで。頑張ってください」

「はい。あなたも」


 奏はしばらくこういったやり取りを繰り返す。そして後半を迎える。


 奏の相手は34歳、年収240万円、大企業の平社員。ショートヘアーで髪はぼさぼさの黒いスーツを着た男である。


 しかし奏は働いていればそれで良いと言わんばかりにその男と話そうとするが――。


「あぁ……なるほど」


 相手の男は奏のプロフィールカードを見た途端に一瞬嫌な顔をするが、奏はそれに気づかない。


「どうかしましたか?」

「いえ、何でもないです。料理が得意なんですねー。普段は何を作ってるんですか?」

「和食です。何枚か写真にも撮ってるんですけど、大体こんな感じです」

「へぇ~、凄いですねー。俺はいつもコンビニで買ってきたやつばかりなので、本当は毎日こういうのを食べないといけないと知っていながらなかなかできなくて」


 男は淡々と奏に質問をしながら和食の話題になる。


 ふーん、まだまだ成長過程ってとこか。なかなか良いじゃないか?


 奏は相手の男に好印象を持ち、この男に決めると心の中で宣言する。


「普段は営業なんですね」

「はい。ずっと働きづめでしたから婚活休暇が貰えるのは本当にありがたいですよ」

「趣味はアニメって書いてますけど、どんなアニメが好きなんですか?」

「ごちラビです。あとはブレSなんかも好きです」

「あたしもごちラビ好きなんです! あの可愛さがたまりませんよねー。また続編が出るって知った時は本当に嬉しかったですっ!」

「へぇ~、八武崎さんも好きなんですねー」

「はい、終了でーす。男性の方は1マス隣の個室へ移動してください」


 ここで笛が鳴り、また男性陣の移動が始まる。


「じゃっ」

「はい。ありがとうございました」


 ふふっ、結構良い人たちばっかりじゃん。


 何人か『カップリング』しても良い相手を見つけたし、これはビギナーズラックもあり得るかもな。やっぱ人間は中身だよ中身。


 奏はカップリングに期待を膨らませながらにニヤけた顔をする。


 そして最後の相手との話が終わるとカップリング発表の時間になる。


 真の時と同様に気に入った相手のプロフィールカードに投票し、相手も自分のプロフィールカードに投票していればカップリングとなる。


 そして――。


「男性番号12番、女性番号15番の方です。おめでとうございまーす」


 パチパチパチパチパチパチパチパチ


 そんな……全然呼ばれない……何故だ?


 奏の番号が呼ばれる事はなかった。自分の結果に期待してただけあって彼女のショックは大きかった。


「それではこれにて三低男性限定編を終了とさせていただきます。集まっていただいた方、お疲れ様でした。それでは解散とします」


 奏は両手を赤いスカートの上に置き、悲しそうな顔でうつむく。


「また次がありますから、きっと大丈夫ですよ。俺も全然カップリングできなかったんで、こんなもんですよ」


 奏は隣に座っている最後に話した男から慰められる。


「そうなんですか。見苦しいところをお見せしちゃって、何だか申し訳ないです」

「いえいえ、お気になさらず」


 奏はそう言って魂が抜けたような顔で個室からのっそりと出る。奏がカップリングしたかったあの34歳の男が他の男の参加者たちと一緒に出ていく。


 奏は後ろから声をかけようとするが――。


「それにしてもさー、さっき30を過ぎた女にアニメ好きアピールされたんだよね」

「えっ!? マジでっ!?」

「!」

「俺20代までしか興味ねえのに、自分が作った料理メニューまで見せてきてさー、専業主婦アピールまでしてきたんだよなー」

「きもっ、もう30過ぎてんのにまだそんな乙女チックな事してんの? みんな遊びに来てるだけなのになぁー」

「「「あははははっ」」」


 男たちは奏に気づく事なく会場を去っていく。


 そんなっ……あたしはただ結婚相手を探すのに真剣だっただけなのにっ!


 奏は涙目になり男たちの言動に失望を隠せなかった。


「これでもう分かったでしょ?」

「!」


 声をかけてきたのは真凛だった。奏は涙を袖で拭き取りながら声が聞こえた方向を向く。


「奏さんは人間の裏面を知らなさすぎです。男なんてみんなそういうものなんですから、これからは相手のスペックでつき合う相手を決める事ですね」

「……」


 真凛はそう言い残すと会場から去っていく。


 奏はその場に呆然と立ち尽くし、ひたすら涙を流すしかなかった。

婚活事情を知らない人が婚活をしたパターンを意識してみました。

来年から投稿ペースを増やしていきたいと思います。

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