偶然
目を通していただければ幸いです。
「流石に着くのが早過ぎたな。」
真が〈らんぷ〉に着いたのは十三時を少し過ぎた頃だった。
待ち合わせ時間の十四時まで一時間弱ある。
このまま、先に入店して待っても良いのだが、店には母親である香織が働いている。 故に入るに入れないのだ。
今朝の様なやり取りを店先でやられたら、社会的に死ぬのだ。 真が。
だから、店前にある小さな公園のベンチに座り待つことにした。
だが、今日の真の間の悪さはピカイチだった。
真が数分、ベンチで座っていると突然背後から声をかけられた。
「よっ! 久しぶり!」
そう言って話しかけてきたのは先程、妹との会話の中で出てきた志賀一樹その人であった。
一樹はランニング中だったのか半袖半ズボンで汗だくである。
「お、おう一樹か久しぶりだな…。」
「なんだよ、久しぶりに会った幼馴染に対してその態度は。 嬉しくないのか?」
「い、いや、嬉しいよ。 嬉しいんだけどさ。」
「嬉ししけど何さ?」
「今はちょっと色々忙しくてさ。」
「ふーん。 そうなのか。」
「そうなんだ。」
真はこの幼馴染のことが嫌いなわけではない。 むしろ、こんな自分に寄り添ってくれるいい奴だと思っている。
だが今は一刻も早く話を終えたかった。 それほどに〈らんぷ〉で働く香織にバレたくないのだ。
「じゃあ、また高校でな!」
「うん。」
そう言って一樹が去ろうとした時、またもや声を掛けられた。
だが、声を掛けられたのはは真ではなく一樹に向けられたものだった。
「一樹! ちょっと待ってよー。」
「おっ、ようやく来た。」
「もー。 一樹ってば、どんどん先に行っちゃうんだから!」
はぁはぁと息を切らして走って来たのは真のもう一人の幼馴染である青山栞である。
「お前が一緒に走るなんて言い出すからだろ。 現役柔道部を舐めんなよ。」
「いやいやいやいや、どこの世界に彼女を置いてけぼりにする柔道部員が居るのよ。」
「ココ?」
そう言って一樹は笑顔で自分を指差す。
その瞬間、栞からローキックを受ける。
「ってぇ!」
「まったくもー…って誰かと思ったら真じゃん! おひさー!」
散々、幼馴染同士のやり取りを見せられたあとにようやく気づかれる気まずさといったらない。
「お、おう久しぶり。」
「珍しいね。 真がこんなとこにいるなんて。 もしかして誰かと待ち合わせ?」
女はなんでこんなに察しがいいいのか。 不思議だ。
「まぁ、そんなとこ。」
「へぇー。 もしかして、彼女 とか?」
「そ、そんなんじゃないよ。 ちょっとした知り合いに会うだけ。」
「ふーん。 で、その知り合いってもしかしてあの子の事じゃない?」
ギョッとして栞が向く方を見ると白石がこちらを見て微笑んでいた。
スラッとした長身を活かし、爽やかな水色のワンピースで包んだ彼女はそれはもう不自然な笑みで。
「し、白石さん。 早かったね。」
「こんにちは。 真くん。 ところでそちらの方たちは?」
「あ、ああ、こっちは同級生の青山栞と志賀一樹。 で、こちらが九月からうちの高校に編入してくる白石遥さん。」
そう真が簡単に説明を終えると。
「か、可愛いー! なに? こんな清楚な子が真の彼女さんなの⁉︎」
「だから違うって! そんなんじゃないよ!」
栞がそんな事を言うもんだから真は白石さんに失礼だと思い、否定したつもりが。
「そーなんだ。 でもあっちはそうは思ってないみたいだよ?」
栞がそう指差すと白石は人知れず〈らんぷ〉の方へ歩き出していた。
「ち、ちょっと待ってよ! 白石さん!」
慌てて、白石を追いかけようとするも。
「どうぞ私のことはお構いなく。 約束の時間まで十分に時間はありますので、それまであの方達と楽しくお話でもしていたらいいじゃないですか。 私は先にお店の方で待っていますで。」と一蹴される。
「し、白石さん。 なんか怒ってる?」
「怒ってなんかいません!」
「そ、そうかならいいんだけど……。」
(いや、めっちゃ怒ってるじゃん!)
「じゃあ、すぐにそっちに行くので少し待っていてください。」
「はい。 どうぞご自由に。」
そう言って、一足先に〈らんぷ〉に入っていく白石を見送る真であった。
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では、また次の機会に。