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だから僕らは夢を見る  作者: チェダー
7/10

予感

目に通していただければ幸いです。

 机に向かい二時間程が経過し、心地良い疲労を感じ始めた頃。

 夏休みの宿題の進捗状況は真が考えていた予定以上に進んでいた。

 これがモチベーションの違いというものなのだろう。

 テスト直前になると切迫した雰囲気になるアレだ。

「ふぅ、取り敢えず今日はこれくらいで良いか。」

 真は机に置いてある時計を見ると、ある程度の所で勉強にキリをつけ一階へ降りた。

 

 一階には誰も居らず、リビングの机に二千円と置き手紙が一枚。

 手紙には〈これで、マー君と朱音の分のお昼ご飯買って食べてね。 母より。〉と書かれていた。

 まぁ、いつものことである。 

 真の家には現在、父親が居らず、母親である香織が一人で働き、家族三人を養っている。

 これには真も朱音も本当に感謝している。

 流石に仕事も家事も完璧にこなすというのは無茶な話なので、家事は真と朱音が協力して行うことになっている。

「良い時間だし、飯でも買ってくるか。」

 身支度を整えるため一度、二階の自室に戻る。

 途中、真の隣室の朱音の部屋からゲームの効果音のような音が聴こえた。

「朱音ー。 昼食何食べたい?」

 扉越しから尋ねると、効果音が消え、部屋からゲームのコントローラーを握った朱音が現れた。

「んー。 今日は酢豚の気分かな。 それと、今、執筆中だからお兄ちゃん買ってきてよ。」

「絶対、嘘だろお前…。」

「何よ、私の時間は私の自由よ。 お兄ちゃんにどう言われる筋合いないし。」

「わかった。 わかった。 酢豚ね。」

 家事を協力してると言ったが、主に真一人の仕事になりかかっている。

 というのも、朱音はSNS上で絶大な人気を誇る小説のクリエイターなのだ。

 それは母である香織も真も知っていることで確かに朱音の小説は面白い。 それは認めざるを得ない。

 朱音が高校生になれば書籍化されるという話まである。

 そんな変わった家族の中だからこそ、真はこの家族の中で唯一、勝手に孤独を感じていた。

 母には仕事。 妹には小説がある。 じゃあ、俺には? 何もないのだ。 何も。

 だから、考えるのをやめ、自分は家事に専念するのだ。

 これは一種の逃避行動であることも自負している。

 だが、それ以外に何をすれば良いのかわからないのだ。

 勉強は教えてくれても学校の先生も友達も家族でさえ一番大切なものは教えてくれないのだ。

 当たり前だ。

 自分のやりたい事でさえ理解出来ていないくせに他人にどうこう言える人間はそう多くない。いたとしても、その二割は詐欺師で残りは無責任な言葉をばら撒くホラ吹きだ。

 人間の本質など精々そんなものだ。

 高校生ながらこんなつまらない現実を理解してしまっている自分のことは嫌いなのだ。

「じゃあ、行ってくる。」

 そう言って近所の中華屋に向かった。


 中華屋は中国人か香港人か分からない家族がカタコトの日本語で営んでいる。

〈安い・早い・美味い〉の三拍子そろった黒澤家御用達の店で昼間は農家の爺さんや工事現場で働くおじさん達で満席である。

 その中で真は餃子を二人前、酢豚、天津飯を頼み、店に置いてある漫画雑誌を読んで待つ。

 十分も経たずに料理ができ、会計を済ませなるべく揺らさないよう気をつけて持って帰る。


 帰り道、それを見ながら今日は何かが起こる気がした。

 いつもそう考えて何度、自分に裏切られたか数え切れない。

 そう思いつつも真の顔には自然と笑みが溢れていた。


読んでいただきありがとうございます。

皆様のご意見、ご感想お待ちしております。

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