これは投資である
ネタがつき。埋もれていた作品をやっと投稿します!読んでくれる方が居れば良いのですが(^_^;)
「騎士様!」
突然、現れた騎士に四人はホッとした表情になる。
「頼む!どうか、助けてくれ!」
パーティーのリーダー、アークはガスラークの足を押さて力の限り叫ぶ。
「・・・・・」
アークの求めに答える様にスラリと騎士は馬上から、剣を抜く。
「「「「!?」」」」
そして、あろうことか剣先をアーク達へと向けた。
「貴様ら、騎士へと刃を向けるとは何事か!!」
明らかに殺意を伴って発せられた言葉に全員が固まる。
「手を離せ!その方を誰と心得る!王国騎士ガスラーク・フォン・ゴブリン卿なるぞ!」
「はぁ!?」
「ゴブリンが騎士?」
「嘘?どういう事なの?」
「・・・ぷっ、ゴブリン卿って」
味方の筈の騎士に剣を向けられて呆然とする四人にチッと騎士は舌打ちする。
「その方に刃を向けるは、王国に刃を向けるとは同じ。早く、その汚い手を」
「シュミョン!言葉に気をつけよ!この者らは将来有望な冒険者であるぞ!」
駆け付けて来た騎士、シュミョンの言葉を遮りガスラークは注意する。
「しかし、この者らは卿に剣を向けたのですよ!」
「それは誤解である。我輩はこの若者らに稽古をつけていただけなのである。なぁ、皆の者?」
明らかにバレバレな言い訳に四人は訳が分からずとも曖昧に頷くことしか出来ない。
「いやはや、新人冒険者らしからぬ実力でな!我輩、始終感心しきりであるぞ!シュミョンよ、この者らは絶対に高位ランクになるぞ!ワハハハ!」
「はぁ、卿がそう言うならば僕が言うことはないです」
呆れたため息を着き、シュミョンは馬から降りて兜を取ると未だにキョトンと二人のやり取りを見ている四人に向き直る。
「お前達」
「はっ、はい!」
「改めて言うが、この方は王国騎士ガスラーク卿。ギルドから注意されてはいなかったのか?」
「ギルドから?ギルドに登録に行ったときに何か言われたかな?」
「あっ!そう言えば風変わりな騎士様がいるって言ってたかも!」
「そうだったか?俺は覚えてないぜ?」
「ガストン。あんたはギルドマスターが説明してくれていた時に立ったまま寝てたでしょう!」
「・・・風変わりってだけで、ゴブリンとは言われなかった」
シュミョンは四人の言葉を聞いて眉をひそめるとガスラークに頭を下げる。
「ガスラーク卿、申し訳ありません。ギルドに説明する様に通達していたのですが、どうやら僕が直接ギルドに赴いてギルドマスターに通達を徹底させないといけませんでした」
やはり、使いの者に任せっきりではいけませんでしたと米神に青筋を浮かべて言うシュミョンにガスラークはまあまあと宥める。
「そうであった!シュミョンよ、薬を持ってるであろう?ちと、この者らに渡してやってくれんか?我輩、ちょっと稽古に熱を入れてしまってな!」
「わかりました」
ガスラークに言われて、シュミョンは小さく息を吐くと剣を鞘に戻して腰にある革袋に手を入れる。
「え〜!マジで騎士なのか!」
「···おどろき」
「都会って、ゴブリンが騎士してんのか!?」
「ちょっと待って!私達は本当に騎士様を攻撃しちゃったの!?どうしよう!?まさか、逮捕されるんじゃ?」
四人は顔面を青くしてガスラークを見つめると、当の本人は朗らかに笑い(角度的にはそう見える)手を振る。
「心配せんでも良い!これは乱取り稽古である!逆に吾輩がやり過ぎたやもしれん。四人とも怪我は無いか?ほれ、シュミョン!早く薬を出してやれ」
「御意。ホラ、軟膏だ」
シュミョンは軟膏を取り出して戦士のアークに投げてやった。
「特に魔法使いの女子。手にアザを作ってしまったな、許せ」
「いえいえいえ!騎士様を最初に襲ったのは、こちらの方ですし、あの、本当に許してもらえるんですか?後で、切り捨て御免とか?」
エアリスが心配そうに言うとガスラークは、そんな事はせんよと慌てて否定した。
「おお、そうだ!改めて名をなのろう!吾輩は王国騎士ガスラーク·フォン·ゴブリンである!シュミョン、お主も名を名乗れ」
「ハッ!僕はガスラーク卿に仕える従騎士シュミョン·ランスタッドだ」
二人が名をなのると、四人は背を伸ばして片手を胸につける。
「冒険者『暁の牙』のリーダー。戦士のアーク」
「イテテ、まだ頭がクラクラするぜ。俺は同じく重戦士でガストンっ言います」
「···同じく弓士のシュナ」
「同じく魔法使い、アリエス」
冒険者パーティー『暁の牙』の面々の自己紹介が終わるとガスラークは満足そうに頷くとクルッと背を向けてスタスタとある場所に歩いて行く。
そこには陽当りの良い場所で呑気に日向ぼっこをしている大きな狼が一匹。
「さて、ところで今回の元凶のお前は何、寝とるんじゃ!?」
ガスラークの怒声にガンドルフは片目で見るとクァ〜と大口を開けて大欠伸をする。
「「「「!?」」」」
ガスラークはいきなり、手をガンドルフの中に入れると牙を素手で握りしめた。
「シュミョン、短剣を」
「ハッ!」
シュミョンは直ぐに腰から短剣を抜きガスラークに差し出す。
「どうぞ」
シュミョンの短剣を受け取るとガスラークは何の躊躇も無く牙を切り取ってしまった。
「ガスラークの旦那、何を!?」
「いや何、吾輩がガストンの盾を台無しにしたからな!これはその弁償である。ほら、受け取るが良い!」
そう言って牙をアークに手渡す。
「本当に良いのか?その狼、歯抜けになっちまったぞ?」
「構わん、構わん。コヤツはこれでもダイヤモンドウルフだからな!明日には生え変わっておるわ」
「やっぱり!ただの狼じゃなかった!しかも、ダイヤモンドウルフですって!?アーク、絶対にもらいなさい!!」
「アリエス、どうしたんだ?」
「···デカいワンちゃん。チチチチ」
「これは、そんなに凄いのか?」
いまいちピンときてない三人(一人は完全に埒外だが)の反応にアリエスはこめかみに手を当ててため息を吐いた。
「あんたら、本当に勉強してないの!?良い!ダイヤモンドウルフって言えばAランクのレアモンスターで、その毛皮、爪そして、牙なんか高ランクの武器防具の素材だし、そもそも高額で取引されてる物だから、売ったら私達パーティーの装備を全て新品に出来ちゃったりするのよ!」
興奮気味に捲し立てるアリエスに三人はギョッとする。
「そんな良い物なんだな、コレ···なら、尚更貰えねぇよ、旦那」
「アーク!?」
「アリエス、ちょっと黙ってろよ。旦那、こっちは勘違いで襲っちまったんだ。それなのにコイツをもらう訳にはいかねぇ」
そう言ってガスラークの前にズイッと牙を差し出す。
「その心意義や良し!吾輩、貴殿らを気に入ったぞ!これは、そうであるな~?そう!これは投資である!」
「投資?」
「うむ!お主らは近い将来大成するであろう!その時に吾輩が困ったときはタダで助けてくれ!それに今回の事は元々、このバカ犬めが発端であるからな!」
ガスラークはジロリと自身の愛騎を睨むがガンドルフはどこ吹く風と風情で取られた牙の後が気になるのか口をモゴモゴさせながら、伏せの姿勢で寝そべっている。
「そうか、いや、そうですか、旦那!それならば将来云々なんて関係ねぇ!何かあったときはいつでも頼ってくれよ!俺達は旦那の力になるよ!」
「うむ!その時は宜しく頼むぞ、暁の牙!あっ、そうであった!シュミョン、ちゃんとアルファート卿に騎士の宣誓の儀をしてもらう決心はついたか?」
「その事なのですが、まずはこちらをお読み下さい」
シュミョンは声を掛けられるとサッと手紙をガスラークに差し出す。
「む?アルフォート卿からか?どれどれ『ペットは飼い主に似るもの。騎士と従騎士の関係もまた然り。つまり、お前と似て頑固。説得めんどくせー、もう知らね』!?」
「と言う訳なので、きっちりとお断りさせて頂きました」
晴れやかな笑顔で告げるシュミョン。
最後まで手紙を読み終え、開いた口が塞がらないガスラーク。
そして、二人のやり取りをキョトンと見詰める暁の牙の四人。
最後にガンドルフはまた盛大にクァ〜と欠伸をするのだった。