これが龍の推理、まるで生きているかのようだ。
この話が私の手元で完成いたしましたので、続々と投稿していきます。お楽しみに。
それをきちんと見送って、軽い瞬きの後に神崎を横目で見る。
龍生が頷いて、
「いい収穫だ」
「どこがよ? あなたはほとんど話を聞かずに桃城さんを帰しちゃったじゃない」
すると彼が呆れて「じゃ、彼女はなんで香水をつけている? それくらいわかるだろ?」
神崎が悔しそうに唇を閉じる。それを見て龍生が仕方なさそうに説明を始めた。
「香水をつける人間はいくらかいる。まず、おしゃれ。次に神経症。あとは鬱」
「じゃあ彼女はどのタイプなのよ?」
彼は人差し指を立てて、
「一つ、桃城は鬱傾向にない」
神崎にはわからない。
「どうしてわかるの?」
「なぜならロッカーから荷物をものの数秒で取り出したからだ。鬱傾向のある人間はそんなに早く行動出来やしない。それも慌てていた。もし病気ならば躁鬱だ」
中指も立てて。
「二つ、あの香水はおしゃれでつけているものではない。なぜならこの学校は元男子校で男子が多い。彼女のルックスなら香水がなくてもモテるからだ」
「モデルの仕事とか?」
「爪が手入れされていない。よって違う」
龍生は指を薬指も立てた。
「三つ、それはこのロッカーを見てからにしよう」
というとまたしてもロッカーの鍵を取り出してみせた。
「いったいどこから?」
驚く神崎を差し置いて、龍生は桃城の個人ロッカーを開ける。
「見てみろ、慌てていた正体はこれだ。中には体操服。そしてそれが一番香水の匂いがきつい」
「つまり?」神崎が答えを求める。
「他にもエプロンが入っているが、そこからキツイ匂いはしない」
龍生はまた人差し指を口の前に立てた、
「これは、いじめだ」
瞬間、周りの女子生徒が固まったような表情を浮かべた。
神崎はそれを見逃さない。しかし龍生に尋ねた「本当? でも……」
「周りを見てみろ、今の一言で周囲の人間がうろたえてただろ?」
龍生がロッカーから顔を上げた頃には、周りの女子生徒たちは悟られまいと顔を背けたが、それを見透かしたように、
「明白だ。俺がこの教室を探し当てたのは女子生徒が一番甲高く笑っている教室を探したまで。女をいじめるのはたいていが女だからな。下品な女のいる教室を探したわけだ」
しかし神崎はまだ納得がいかない。
「でもどうしていじめいなるの? 匂いがきついだけなら匂いに囚われた神経症の可能性もあるわ」
そこで龍生は窺うように、
「わかるだろ?」
龍生に試された神崎はできる限り慎重に、
「……確かに、桃城さんはマスクもしてなかったし、あなたに近づかれても平気そうだった。口臭も体臭も気にしていない証拠ね」
すると彼女が感心して、
「初めっからわかってたの?」
「いいや、さっきの反応がいじめという事象が正解だと裏づけた。とある女子生徒も、とある男子生徒もあることが原因で香水をつける。臭いといじめられた時だ。さっきは『擦り傷だけ』と伝えるだけのところで警察の話を出した。あくまで勘違いだと伝えるためだ。ま、この結果を導くためには鍵をスらなければならない。もう少し簡単に推理ができれば百点だわな」
龍生が慧見に振り向きながら、
「どうだ? わかっただろ——」
「ヌゥウン!」
低いうなり声とともに、慧見が龍生の言葉を遮って彼の胸ぐらを掴んだ。
「——どうしたんだ?」
「人のものをスリ取ったの忘れていたわ。どうやって鍵をスったの? 教えて?」
「人にモノ聞く態度じゃないな」
とは言ってみたものの龍生は息を詰まらせて神崎の腕をタップした。
それが合図になって胸ぐらを離す。
どうやら彼女はスリという犯罪を敵視しているようだ。
龍生は襟元を直すと少し感心しながら、
「俺が盗んだという推理は正しい。しかし、途中の式が間違っているな」
「私にはそれが全然わからなかったわ」
「ま、お前のプライドが高いのはわかったが、俺がお前に気づかせてないだけかもしれないだろ?」
「……そうかしら……」
そう言われると彼女は少し悲しそうにした。よっぽど自信が今この場ではスリが行われていないという観察眼に自信があったのだろう。
龍生が察する。
「はは〜ん、お前もしかして推理オタクか? それも『シャーロックホームズ』好きの」
急に出た推測に慧見がたじろぐと、
「な。ばんばあ、なんで?」
「いやわからんよ……?」
舌の位置を確かめると、彼女は少し恥ずかしそうに、
「どうして『シャーロックホームズ』が好きってわかったの……」
龍生は腕組みをして首をかしげた。
「いや、俺みたいだから」
「は?」
「いや、俺みたいだから」
「聞こえてるわよ! なにそれ、ちょっとショックなんだけど」
「失敬ですね」龍生は口をとんがらせてせわしなく神崎の顔をあらゆる方向から眺める「ちょっとショックなんだけどぉ〜」
瞬間、慧見が何かを取り出し、思わずそれで龍生の頭を殴ってしまった。
「ぐぁあ!」
「あっ、大丈夫?」
自分でも不意だったその時、神崎が手に持っていたのは大きなハリセン。
「なんでこんなの持ってるのよ?」
驚く神崎を背後に龍生が頭を抑えながら冷静に、
「いいか、俺が桃城から鍵をスったのは駅でだ。あのとき、ブレザーの右には鍵が入っていた」
「……ごめんなさい、先になんで私がハリセンを持っているのかを教えてくれないかしら?」
「……」
龍生が少し鼻で笑った。
ご拝読ありがとうございました。
次回、『神崎は異次元都大阪に戸惑う』