捜査開始。
お正月、あけましておめでとうございます。
年末ってドラえもんのスペシャルやってますよね。でも、人気の話の焼き回しが過ぎると思います。タダそれだけ。
一時間目は新入生に向けたアンケートであった。
将来のことを1年後、3年後、5年後、10年後と書かされ。最後にいじめがないかどうかの質問に答えるという簡素なもの。
残りの時間で得意科目についてのマークシート式アンケートも用意されていたが、神崎には全て得意という答えしかなく……。
回答を終え、残りの授業時間を周囲の女子生徒とのコミュニケーションに当てた。とりあえずクラスに馴染もうと努力をする
少し気がかりだったのは隣の龍生。
彼は神崎が者の15分ほどで終えたアンケートを、授業時間いっぱいを使い、さらに休み時間に突入しても取り組んでんいた。
苛立ちながらもそれを待ったが、その間に他の生徒たちに質問攻めにあい、少し疲れを見せていた。
すると、龍生の机から何かが叩きつけられた音。
横目で見ていると、龍生が机を手で叩きつけていた。アンケートに時間がかかりすぎて彼自身苛立ったのだろう。
そのまま立ち上がると、神崎にアイコンタクトを取り、廊下へと出て行ってしまう。
慌ててそれを追いかける。
「ごめん、ちょっとトレイに行かせて」
東京では絶対に言わない言葉を発して廊下に出ると、階段を降りていく龍生を目で捉えた。
「待ちなさい!」
少女は訴えるが龍生は止まらない。
それを追いかけてようやく隣に位置付くが、龍生は神崎に見向きもしなかった。
神崎が不服そうにいう。
「散々待ってあげたんだからちょっとくらい待ちなさいよ」
「いやだ、だって待ってっていってないもん」
「一人じゃ中学生がどこにいるかわからないから仕方なく待ってたのよ、そうでもなければあんたを待つわけないじゃない」
龍生はなぜかうんざりとして、
「お前がいなけりゃこんなことにはならなかったんだよ。正義感もいいが、きちんと真実を見ないとな」
それを聞いて神崎が鼻で笑う「なら証明して見なさい」
龍生はまたうんざりとした顔をした。
そして廊下を右に曲がる。
「ここだ」
それだけ言うと龍生は近くの教室の窓枠に腰をかけてしまった。
廊下には朝女の子が着ていた学生服の女子生徒が行き交っており、男女問わず生徒たちの喧騒が耳をつんざく。
神崎は戸惑い、龍生に尋ねる。
「これじゃあの女の子がどこにいるかわからないわよ」
「それも仕方がない、中学生のクラスは全部で28クラス。ここにあるのはそのうちの6クラスだからな。人クラス45人だから……まぁ、ぼちぼちってとこか」
「計算しなさいよ」
さりげないツッコミに驚きながら、龍生が指を一番奥のクラスを指差して言う。
「あのクラスだな、多分そうだ。なぜなら俺がそう思うからだ」
「理由になってないわよ……」神崎が愚痴りながら喧騒をかき分けて一番奥のクラスに向かった。
そして教室を覗き込む。しかし、今朝いた女の子は見当たらなかった。
そこで、声をかけて尋ねようとしたが、女の子から名前を聞いてなかったことを思い出す。
「これじゃあ探しようがないじゃない」
すると隣に龍生が現れる。
「どうやら、名前を聞いてなかったらしいな。まあ、助けた人間の名前をいちいち尋ねるヒーローはいないだろうがな」
彼女は余裕そうに眉をあげる龍生に苛立って、
「じゃあどうやって探すのよ?」
「こういう時はな……匂いだ、匂い。女子生徒のフレグランスを俺が忘れるわけがない」
龍生がキモいことを言って鼻を効かせ始めた。
一方神崎は呆れかえって視線を泳がせていった。しかし、再び龍生に視線を戻すと、廊下に備え付けられた個人の小さなロッカーに立ち止まっている。
「見つけた」
「は? そんなわけ……」
龍生が頷いて彼女は駆け寄った。
すると目の前のロッカーには綺麗なピンクで直角三角形のステッカーが貼られている。
彼女は戸惑った。
「あの控えめな女の子がこんな変なステッカー貼らないでしょ? そんなの見たらわかるわよ」
龍生は首を振ると「いいや、言っただろ。俺は匂いで探した。だから俺たちはあの女子生徒と同じ匂いがするロッカーの前にいるわけだ」
「匂い?」少女が首を傾げてから試しに鼻で息を吸った。すると、鼻腔にオレンジの優しい香りが漂う。
「香水ね?」
そう尋ねると「ああそうだ」と龍生が頷いた。
二人にとてもビクビクとした声が聞こえてくる。
「な、何をしているんですか?」
気がついて振り返ったその先には、やはり朝であった女の子が立ち尽くしていた。
「あ、あなた……! 今朝駅であったわよね?」
「……はい、それがどうかしましたか?」
神崎が尋ねるも、女の子は多少身じろぎした程度でうろたえることはなかった。その部分が龍生にはやけに引っかかる。
そして引っかかったのを片隅に声をかけた。
「桃城流夏さん。初めまして、私は藤代龍生と申します」
「……はい、こんにちは。あの時はすみません、足を滑らせてしまって」
「同級生」
「え?」
『同級生』という言葉に少しうろたえたのがわかった。瞬間、彼女は左上を見上げる。
龍生はそのまま鼻腔に空気を吸い込む。続けて、ニヤリと笑った。
「いい匂いですね、おしゃれですか?」
桃城は右下に視線を向けると「……いえ、そうです……」
「何しにここへ?」
龍生はズイズイと桃城に押し迫るので、神崎思わず割って入った。
「ちょっと! それになんでこの子の名前を知ってるわけ?」
「駅で見たんだよ、カバンの苗字。それに、ロッカーには名前が書いてある」
「わかったからこの子にこれ以上近づかないで」
すると龍生は「心外だなぁ」と口を噤んで三歩ほど離れていった。
慧見はようやく話しかける。
「桃城さん。今、足を滑らせたって言ったけど、それは線路に落ちた時の話よね? 本当に落とされたんじゃないの?」
「……いいえ。私は落とされていません」
「怪我はなかった? すぐに病院に行ってたけど」
「ありがとうございます、大丈夫ですよ。足に擦り傷がついた程度です。警察の方にも勘違いでしたと伝えましたし」
それを聞いて慧見はほっと一息ついた。
しかし、目の前の桃城がモジモジと焦っているように見える。
「どうしたの?」
「いえ、荷物を……」
「あ、ごめんなさい! あんたもどけ!」
「うごぁあ!」
尋ねられ桃城が申し訳なさそうに言うと、焦った神崎が謝りながら近くに座っていた龍生を蹴り飛ばしてロッカーの前を空けた。
「おい、なんで俺を蹴った?」
「邪魔だからよ、女子には見られたくないものもあるのよ?」
「俺にだって蹴られたくないわき腹の一つや二つはあるぞ」
龍生と神崎が問答をしている間に、桃城がつぶやく。
「あれ? ない?」
するとあたふたとし始めた。
神崎が戸惑って声をかける。
「どうしたの?」
「ロッカーの鍵がないんです」
見てみるとロッカーには錠がつけられていた。
「どうしよう……!」
と、桃城が青ざめているその時、
「お嬢さん、これのことでしょうか?」
龍生が鍵を手渡した。
「あ、これです! ありがとうござます! どこにありましたか?」
「今ここに落ちてました」
「よかったぁ、ありがとうございます」
桃城がそう言ってロッカーを開けて中を探り始めた。瞬く間に荷物を整理し次の瞬間には国語の資料集を手にロッカーを閉めた。
龍生がそれを見て「ふむふむ」言っている。
瞬間、龍生の頭を神崎が叩いた。
「あんた、スったわね?」
「何のことでしょうか?」
「落としてたら私も気がついていると思うのよ」
「でも、俺は彼女に接触してないじゃん?」
龍生の言葉に慧見が言葉に詰まった。
だが今の会話は桃城には聞こえてなかったようだ。疑問そうに見つめてくる彼女に龍生が軽く触れた。
「あ、肩に糸くずが」
「ありがとうございます」
「じゃ、桃城ちゃんまたね」
「はい」
「あっ、担任の先生は誰かな?」
「いさらぎ先生です」
「う〜ん、知らね。ま、頑張ってね」
神崎は桃城に手を伸ばすが「ちょっと待って! まだ聞きたいことが!」
龍生に遮られた。
「やめとけって、もう授業の時間だ。聞きたきゃまた後で来い」
そのまま桃城は教室へと入っていった。
ご拝読ありがとうございました。
次回、『スイリヤは少し観察しただけ』